バウムガルテンの美学 図像と認識の修辞学
価格:6,380円 (消費税:580円)
ISBN978-4-7664-2655-7 C3010
奥付の初版発行年月:2020年02月 / 発売日:2020年02月中旬
「美学」はどのように誕生し、何を目指したのか
バウムガルテンの美学が伝統的修辞学と強固に結びついていたことの内実と意義を問うことによって、未完の主著『美学』のうちに、現代にも通じる芸術論の可能性を見出し再評価する、本邦初の研究書
18世紀半ばのドイツにおいて哲学者A・G・バウムガルテン(1714–62年)は「美学」という新たな学問分野を創始した。
しかし彼の美学理論はこれまで積極的に評価されてこなかった。その理由のひとつは、主著『美学』の内容に古代ギリシャ・ローマの修辞学からの影響が顕著な点にある。
「美学(aesthetica)」は感性の学を意味し、バウムガルテンは美学を自由な技術(芸術)の理論とも規定したが、『美学』の中では感性や音楽・造形芸術への目立った言及がないため、『美学』はたんなる古色蒼然とした修辞学にすぎないと評され、従来の研究では彼の功績は修辞学以外の部分に求められてきた。
なぜバウムガルテンは新しい学としての美学に、古代以来の伝統をもつ修辞学を利用したのか。
主著『美学』で何を為そうとしていたのか。その核心に迫るため、本書は修辞学由来の概念を分析し、バウムガルテンがこれらを言語芸術のみならず造形芸術などへも応用可能なものとして考えていたことを明らかにする。
さらに、修辞学を拡張することで、言語のみならず図像などの記号へも応用するという、現代の記号論にも通じる発想があったと主張する。
井奥 陽子(イオク ヨウコ)
2018年、東京藝術大学美術研究科博士後期課程修了。博士(美術)。
現在、東京藝術大学教育研究助手。二松學舎大学、青山学院女子短期大学、日本女子大学、大阪大学非常勤講師。
おもな業績に「A・G・バウムガルテンとG・F・マイアーにおける固有名とその詩的効果」『美学』70(1) 、2019年、""""Rhetorik der Zeichen: A. G. Baumgartens Anwendung rhetorischer Figuren auf die bildende Kunst,"""" Aesthetics 22, 2018など。
目次
はじめに――バウムガルテン、顔の見えない哲学者
序 論 学問としての美学の誕生――修辞学から美学へ
一 バウムガルテン美学と伝統的修辞学の連続性
二 先行研究における修辞学の扱い
三 学芸体系を改編し、修辞学を鋳直す
第一章 バウムガルテン前史――自由学芸から近代哲学へ
一 過渡期にあった哲学部
二 ヴォルフ――〈技術の哲学〉と〈自由学芸の哲学〉の提言
三 ロイシュ――〈アルスの哲学〉という視点
四 ビルフィンガー――論理学に並ぶ〈下位認識能力の学〉の要請
五 ヴァイゼ、ファブリキウス――修辞学の哲学的転回
第二章 哲学的百科事典のなかの美学――初期思想
一 バウムガルテンの美学思想の形成――生涯と著作
二 詩学、修辞学、記憶術――『詩に関する少なからざることについての哲学的省察』、『形而上学』初版
三 アルスの収集――『形而上学』第二版、『哲学的百科事典の素描』、『一般哲学』
四 認識、記号、自由学芸――哲学の再編
第三章 〈感性的認識の学〉とは何か――定義再考
一 感性的認識の担い手は受動的感性ではない
二 能力論と創作論という解釈の問題――バウムガルテン美学の“二重性”?
三 修辞学からの解釈の試み――〈事柄と言葉〉
四 〈認識論〉としての美学
第四章 規則で美を捉える――基本構造
一 規則の衝突とその解消――存在論における規定
二 例外と完全性――世界論における規定
三 美の規則における例外の許容
四 詩の自由と完全性
第五章 『美学』の体系問題――認識と記号の交叉
一 美学と詩学・修辞学
二 修辞学におけるフィグーラ
三 『美学』におけるフィグーラ概念の一般化――部門とジャンルの拡張
四 思考の美としての修辞的表現
第六章 フィグーラ――修辞学概念の改鋳(一)
一 フィグーラの記号一般への応用
二 絵画論と音楽論におけるフィグーラの応用とバウムガルテンの位置付け
三 絵画への適用例(一)――同義法
四 絵画への適用例(二)――省略法
第七章 アルグーメンタ――修辞学概念の改鋳(二)
一 根拠として認識された表象
二 力の種類に応じた六分法
三 論理的アルグーメンタと美的アルグーメンタの例――例証と帰納法
四 美的アルグーメンタの射程――図像への適用
結論
註
あとがき
資料1~5
文献表
索引