占領期ラジオ放送と「マイクの開放」 支配を生む声、人間を生む肉声
価格:4,620円 (消費税:420円)
ISBN978-4-7664-2802-5 C3021
奥付の初版発行年月:2022年02月 / 発売日:2022年02月下旬
「人間宣言」をしたのは誰だったのか?
GHQの指導のもと制作されたラジオ番組『真相はこうだ』『真相箱』『質問箱』『街頭録音』を分析し、アメリカの占領政策と「ウォー・ギルト」、そして戦後日本の民主化の内実を問いなおす。
大本営発表を放送しつづけていたラジオは、敗戦後、連合国の占領下におかれてからは民衆の声を流しはじめた。日本の放送史ではこれを「マイクの開放」といい、戦後に達成された「思想・言論の自由」の結実だと評価している。
ところが、この「マイクの開放」が、誰に対してなされ、民衆が実際に何を語っていたかはこれまで明らかにされてこなかった。
本書は、NHKの未公刊一次資料やGHQ文書を用いながら、批判的談話研究(CDS)の枠組みに依拠して、占領期のラジオ番組『真相はこうだ』『真相箱』『質問箱』『街頭録音』における民衆の声の分析を行い、「マイクの開放」の内実を検証する。ラジオからの声を、GHQによる支配構造を強化するために発信される〈声〉と、占領下を生きる民衆間の共鳴を喚起した〈肉声〉として捉えなおすことで、アメリカの占領政策、天皇の戦争責任、戦後日本の民主化を再考する。
太田 奈名子(オオタ ナナコ)
1989年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程修了。博士(学術)。専門は、メディア史、批判的談話研究。現在、日本学術振興会特別研究員(PD)、東洋大学・東京大学非常勤講師。
主な業績に「占領期ラジオ番組『真相箱』が築いた〈天皇〉と〈国民〉の関係性」『マス・コミュニケーション研究』第94号、2019年、“The voiceful voiceless: Rethinking the inclusion of the public voice in radio interview programs in Occupied Japan.”(2019). Historical Journal of Film, Radio and Television 39(3)など。
目次
はじめに
1 支配のなかで共鳴を生むラジオ――本書の問題意識
2 「マイクの開放」を問い、〈声〉に〈肉声〉を聴く――本書の目
的と分析視点
3 声をことばから探究する――本書の理論的・方法論的枠組み
4 占領期ラジオ放送がもつ可能性――本書の特色
5 時を超え流れだす数多の声――本書の構成
第一部 マイクに拾われた声を聴きなおす
第一章 占領期ラジオ放送の批判的談話研究──理論と方法
1 ラジオに関する先行研究
2 批判的談話研究(CDS)とは何か
3 ディスコースの歴史的アプローチ(DHA)とは何か
4 支配の〈声〉に抗う〈肉声〉を聴くために
第二章 「マイクの開放」からみるラジオ史──本放送開始から占領開始まで(1925~1945年)
1 いきものへの「マイクの開放」
2 ラジオドラマへの「マイクの開放」
3 臣民への「マイクの開放」
4 天皇への「マイクの開放」
5 占領下の「マイクの開放」
6 CIEと情報番組
7 日本人意識変革のためのキャンペーン
8 ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラムと民衆の声
9 CIEとPPBによる指導・統制
10 戦後ラジオ放送への戸惑いと非難
第二部 支配を生む〈声〉
第三章 「真実」が進軍を始める〈声〉――『真相はこうだ』(1945年12月)
1 『真相はこうだ』とは何か
2 分析手法と、分析する放送内容
3 太郎と文筆家の役割
4 太郎と文筆家の関係性
5 聴取者の位置付け
6 太平洋戦争史観の提示
7 日本占領をめぐるメッセージ
8 占領初期における「真相」・「真実」の意味
9 聴取者の反応
第四章 「我々」の戦争責任を問う〈声〉――『真相箱』(1946年5~7月)
1 『真相箱』とは何か
2 分析する投書の一覧
3 黙りこむ/口を開く天皇
4 ラジオが伝えた「人間宣言」
5 平和を祈る天皇/戦争に突き進む「我々」
6 東京裁判への準備としての『真相箱』
7 天皇免責から国民有責へ
8 聴取者の反応
第五章 親米民主化を「面白く」する〈声〉――『質問箱』(1946年12月)
1 『質問箱』とは何か
2 分析する投書の一覧
3 模範的国民としての司会者
4 常識を共有する〈模範的日本人の共同体〉
5 物語としてのウォー・ギルト
6 為政者の物語としてのウォー・ギルト
7 勝利熱に燃えていた日本
8 忘れてはならないアメリカの歴史
9 長期戦の終局に目をむけない軍閥・日本軍将兵・国民
10 戦争にかりたてられた過去/平和を選択できる今日
11 『情報玉手箱』としての『質問箱』
12 聴取者の反応
13 スポットアナウンスがつなぐ『質問箱』と『街頭録音』
第三部 人間を生む〈肉声〉
第六章 CIEとNHKが集める『街頭録音』の〈声〉――「民主化ショー」から「生々しい社会番組」へ
1 「マイクの開放」の矛盾
2 アメリカの「マン・オン・ザ・ストリート」
3 自由を管理するCIE
4 自由を演出するNHK
5 銀座から全国を旅した「民主化ショー」
6 CIEが見過ごしたマンネリズム
7 NHKが追求した「生々しい社会番組」
8 CIEとNHKの複雑な関係
9 隠されたマイク
第七章 大衆を露わにする〈肉声〉、あるいは民衆を消す〈声〉――涙する投書と太宰治「家庭の幸福」
1 『街頭録音』への感銘の謎
2 声を上げるべき真の大衆
3 大衆を顕現させる「マイクの差しだし」
4 お説教を嫌う〈血の交う人間の共同体〉
5 「家庭の幸福」で描かれた『街頭録音』
6 廻る支配下に置かれた民衆の涙
7 「マイクの差しだし」、あるいは「マイクによる分断」
第八章 「人間」を廻り合わせる〈肉声〉――「ガード下の娘たち」(1947年4月)と田村泰次郎「女狩りの夜」
1 戦後史の記録の誤引用
2 警めの〈声〉のストーリー
3 有楽町ガード下に集う〈占領下共同体〉
4 娘たちの温かみと希望
5 パンパンの肉体が秘めた人間性
6 「女狩りの夜」で描かれた「ケダモノ」、あるいは「レデイ」
7 人間を再生させる〈肉声〉
8 「マイクによる邂逅」
終章 占領期ラジオ放送と「マイクの開放」──からっぽのラジオの向こう側へ
1 後付けの紐帯と人間――日米合作による天皇免責のシナリオ
2 天皇から主権を託された国民――直接・間接参加の〈声〉による
日本再建
3 方便としてのウォー・ギルト――親米民主的国民づくりをする
『真相はこうだ』『真相箱』
『質問箱』の〈声〉
4 「どうして」を問う「マイクの開放」――自助・共助の社会づく
りをする『街頭録音』の〈声〉
5 耳障りな〈声〉の割れ――為政者結託の痕跡をことばからあぶり
だす
6 紐帯を結いなおす人間の〈肉声〉――有楽町ガード下という「胎
内くぐり」からの再生
7 メディアの〈声〉に〈肉声〉を聴く――「未来について考える批
判」の実践
8 《私の現在》に響いてくる《日本の過去》――本書の限界と今後
の展望
9 ガード下の娘・後日談――〈肉/声〉を聴く、それから
注
あとがき
参考・引用文献一覧
索引