慶應義塾大学東アジア研究所叢書
台湾で日本人を祀る 鬼(クイ)から神(シン)への現代人類学
価格:5,940円 (消費税:540円)
ISBN978-4-7664-2812-4 C3039
奥付の初版発行年月:2022年03月 / 発売日:2022年03月中旬
記憶の媒体としての「日本神」を探る
台湾には、かつての支配者を信仰対象とする廟や祠が多数存在する。本書では、これを「日本神」と名付け、民間信仰に埋め込まれた植民地経験・戦争経験と民衆の歴史認識や、新しいメディアを通した観光化の中で生成する「日本神」像を探る。
▼「台湾で日本人を神として祀る」という行為はなぜ成立しているのか。
▼台湾に現存するうちの49か所の祭祀施設(廟)の調査結果をもとに、その問いに迫る。
▼台湾の日本人祭祀を日本統治の肯定と結びつける風潮に対しても、歴史人類学の立場から論考を行う。
台湾では日本人を祀る祭祀施設(廟)が相当数ある。
日本統治時代の記憶と台湾の民間信仰の関係から、民衆の歴史認識がどのようにかたちづくられていくのかを探る。
三尾 裕子(ミオ ユウコ)
慶應義塾大学文学部教授。博士(学術)。専門は文化人類学。
慶應義塾大学東アジア研究所所長。
東京大学大学院社会学研究科博士課程中退。東京大学教養学部、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所などを経て現職。
主著:『王爺信仰的歴史民族誌――台湾漢人的民間信仰動態』(2018年、台北:中央研究院民族学研究所)、Memories of the Japanese Empire: Comparison of the Colonial and Decolonisation Experiences in Taiwan and Nan’yo-gunto. (2021) ed. by Yuko Mio. Routledge. 『帝国日本の記憶』(共編著、2016年、慶應義塾大学出版会)など。
藤野 陽平(フジノ ヨウヘイ)
北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授。博士(社会学)。専門は文化人類学。
1978年生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究機関研究員などを経て現職。
主著『台湾における民衆キリスト教の人類学』(2013年、風響社)、『モノとメディアの人類学』(共編著、2021年、ナカニシヤ出版)、『ポストコロナ時代の東アジア』(共編著、2020年、勉誠出版)など。
原 英子(ハラ エイコ)
岩手県立大学盛岡短期大学部教授。博士(文学)。専門は文化人類学・宗教人類学。
九州大学大学院博士後期課程修了。東北大学非常勤講師、宮城学院女子大学非常勤講師、岐阜市立女子短期大学講師などを経て現職。
主著『台湾アミ族の宗教世界』(2000年、九州大学出版会)、『台湾原住民研究の射程』(共著、2014年、風響社)、『もっと知りたい台湾 第2版』(共著、1998年、弘文堂)など。
林 美容(リン ビョウ)
中央研究院民族学研究所兼任研究員。社会科学博士。専門は文化人類学、民俗学。
University California, Irvine 校博士課程修了。台湾大学考古人類学系助教、中央研究民族所助理研究員・副研究員・研究員、慈済大学宗教與人文研究所教授などを経て現職。
主著『台灣民俗的人類学視野』(2014年、台湾:翰蘆図書出版)、『魔神仔的人類學想像』(共著、2014年。台北:五南図書出版)など。
劉 智豪(リュウ チゴウ)
泉州師範学院文学伝播学部歴史学科准教授。博士(哲学)。専門は宗教学。
北京大学大学院哲学研究科博士課程修了。中国社会科学院民族学與人類学研究所、泉州師範学院シルクロード言語文化センターなどを経て現職。
主著『日本鹿兒島林家媽祖研究』(『世界宗教文化』第1期、2021年、北京:中国社科院世界宗教研究所)、「地方傳統民俗文化中的两岸連接:以閩台東石元宵燈俗為核心的考察」(『地域文化研究』(第5期、2020年、吉林:吉林省社会科学院)、「東正教在台灣的現狀及其適應」(『世界宗教文化』第3期、2014年、北京:中国社会科院世界宗教研究所)など。
山田 明広(ヤマダ アキヒロ)
奈良学園大学人間教育学部准教授。博士(文学)。専門は中国宗教、道教。
1976年生まれ。関西大学大学院文学研究科中国文学専攻博士課程後期課程修了。台湾中央研究院歴史語言研究所訪問学員、関西大学アジア文化交流研究センターPD、慶應義塾大学東アジア研究所研究員(非常勤)等を経て現職。
主著『台湾道教における斎儀』(2015年、大河書房)、『怪異学講義』(共著、2021年、勉誠出版)、『東アジア海域文化の生成と展開』(共著、2015年、風響社)など。
陳 梅卿(チン バイキョウ)
国立成功大学歴史系兼任教授。博士(文学)。専門は東洋史。
1952年生まれ。立教大学文学研究科(東洋史専攻)博士後期課程修了。成功大学歴史系專任副教授、專任教授を経て2017年退職、現在に至る。
主著『走在五條港:五條港的傳統產業與宗教信仰』(2011年、台南市台湾五條港發展協會)、『府城大街工作日誌2003-2007』(2011年、台南市五條港發展協會)、『宜蘭縣基督教傳教史宜蘭縣基督教傳教史』(2000年、宜蘭縣政府)、『說聖王・道信仰:透視台灣廣澤尊王』(2000年、台南:台灣建築與文化資產出版社)など。
遠藤 協(エンドウ カノウ)
記録映像作家。ドキュメンタリー映画や民俗映像の制作・配給・配信に携わりながら、映像民俗学を実践。
1980年生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科修士課程修了。大学院修了後、映画美術学校にてドキュメンタリー制作を学ぶ。上位世代の監督・スタッフのもとで記録映画の制作に従事し、現在に至る。初の劇場公開作『廻り神楽』が2018年毎日映画コンクールのドキュメンタリー映画賞を受賞。
主な映像作品『廻り神楽』(共同監督・プロデューサー、2017年、ヴィジュアルフォークロア)、『むらのしばいごや 加子母明治座耐震改修工事の一年』(演出ほか、2016年、加子母風起こし実行委員会)、『落合西光寺双盤念仏』(ディレクター、2016年、埼玉県飯能市)、『西久保観世音の鉦はり』(ディレクター、2014年、埼玉県飯能市)など。
五十嵐 真子(イガラシ マサコ)
博士(人間文化学)。専門は文化人類学。
1965年生まれ。南山大学大学院博士後期課程満期退学。野外民族博物館リトルワールド研究員を経て、神戸学院大学人文学部教授(2015年3月まで)。
主著『現代台湾宗教の諸相』(2006年、人文書院)、『アジアの社会参加仏教』(共著、2015年、北海道大学出版会)、『台湾における〈植民地〉経験』(共著、2011年、風響社)など。
目次
まえがき
序章 台湾の民間信仰と日本神(三尾裕子)
はじめに
第一節 日本神とは何か
第二節 台湾漢人の民間信仰
第三節 民間信仰に埋め込まれた日本神
第四節 日本神の霊験の顕現
第五節 陰神から正神へ?
おわりに
第1部 メディアと観光の中の日本神
第一章 英霊と好兄弟のあいだ――メディア言説、現地の実践、新たな
コミュニケーション(藤野陽平)
はじめに
第一節 日本のメディア言説上の日本神
第二節 現地の宗教実践上の日本神
第三節 英霊と好兄弟の間の新たなフィールド
おわりに
第二章 台湾の日本神をめぐる信仰と観光――高雄の保安堂における歴
史の選択と新たな展開(原 英子)
はじめに
第一節 台湾高雄保安堂が日本神を祭祀するまで
第二節 新堂建立と日本神祭祀の廟としての新たなる出発
第三節 インターネットの活用による史実との照合
第四節 日本神祭祀の新たなる展開
おわりに
第2部 民衆の記憶と日本神
第三章 田中綱常から田中将軍への人神変質――民族・国家の境界を超
える民衆史学(林 美容・三尾裕子・劉 智豪(五十嵐真子・三尾裕子
訳))
はじめに
第一節 田中綱常の生涯と台湾との関係
第二節 〈抓乩〉〈成神〉および廟建立の経緯
第三節 田中大元師の祭祀と行事
第四節 討論と結論:民族・国家の境界を超える民衆史学
おわりに
第四章 植民地経験、戦争経験を「飼いならす」――植民地・戦争経験
の記憶の媒体としての日本人の霊魂(三尾裕子)
はじめに
第一節 集合的記憶、社会的記憶
第二節 霊聖堂の建立と伝承
第三節 民間信仰への埋め込み
第四節 「日本」を飼いならす
おわりに
第3部 台湾の在来宗教信仰と日本神
第五章 廟神の出自により儀礼に差異は見られるか
――台湾の日本神を祀る廟と中華神を祀る廟における儀礼・祭祀の比較
(山田明広)
はじめに
第一節 日本神を祀る廟における道教儀礼
第二節 日本神を祀る廟におけるその他の儀礼・祭祀
第三節 考察
おわりに
第六章 台南市内における日本人の神々――主に航空事故に起因する事
例から(陳 梅鄕)
はじめに
第一節 日本人神の諸廟
第二節 考察
おわりに
第七章 漂流物が神となる――日本神の外来性解析(林 美容(五十嵐
真子・三尾裕子訳))
はじめに
第一節 民間信仰における漂流物が神になることについての概観
第二節 日本神の漂流事例と分類
第三節 水漂成神の外来性の分析
おわりに
補章 日本神信仰と出会う――民族誌映画撮影の経験と視点(遠藤
協)
はじめに
第一節 日本神信仰と出会う
第二節 神の肖像写真と縁起
第三節 成長する青年の神
おわりに
あとがき
「日本神」の分布
「日本神」一覧
索引
執筆者・訳者紹介