朝鮮出版文化の誕生 新文館・崔南善と近代日本
価格:5,500円 (消費税:500円)
ISBN978-4-7664-2851-3 C3022
奥付の初版発行年月:2022年11月 / 発売日:2022年10月下旬
日本と朝鮮を結びつけた「出版」という知識の源泉――
朝鮮最大の知識人・崔南善の活動を中心に、近代朝鮮の思想・文化・運動を形作った「出版」の歴史を明らかにする。
本書は、近代朝鮮の出版文化の形成過程を、同時代の日本の出版界との関係を通して実証的に解明する。
1919年3月に植民地期朝鮮最大の民衆運動である三・一独立運動が起こると、朝鮮総督府は武断政治から文化政治へと統治政策を切り替えた。それによって1920年代には『開闢』をはじめとする雑誌が続々と刊行され、今日まで継続している『東亜日報』や『朝鮮日報』といった朝鮮人経営の民間新聞も創刊された。
1920年代に開花する出版文化の基礎を築いたのが、三・一独立運動の独立宣言書の起草で知られる崔南善が興した出版社・新文館である。新文館は、1908年に漢城(現・ソウル)に設立された朝鮮初の本格的な出版社であり、朝鮮「初の近代雑誌」と称される『少年』や、植民地化されて間もない1910年代の朝鮮で人気を博した「総合教養」雑誌『青春』など、近代朝鮮の出版文化史に名を残す数々の出版物を刊行した。崔南善の出版活動と新文館の実態を、日本の出版界の影響と照らし合わせながら明らかにする。
田中 美佳(タナカ ミカ)
1990年佐賀県生まれ。九州大学大学院人文科学府歴史空間論専攻博士課程修了。博士(文学)。専門は、朝鮮近代史、メディア史。現在、九州大学大学院人文科学研究院助教。
主な業績に「植民地期朝鮮における民間読本──1920年代初頭の青年読本を中心に」『韓国朝鮮の文化と社会』第21 号、2022 年、「崔南善の初期の出版活動にみられる日本の影響──1908年創刊『少年』を中心に」『朝鮮学報』第249・250 輯合併号、2019年(2020年度朝鮮学会研究奨励賞受賞)など。
目次
序 章 「一国史」を超える朝鮮出版文化史――研究の対象と課題
1 韓国出版文化の起源
2 新文館の創設者・崔南善とは
3 研究史
4 研究方法と史料
5 内容構成
第一章 出版社新文館の設立と『少年』の創刊
1 崔南善の日本体験
二度の日本留学/日本での活動と出版界の衝撃
2 新文館と『少年』にみられる日本の影響
新文館の運営方式/『少年』の誌面構成とレイアウト
3 啓蒙の手段としての日本書の受容
「少年」の概念および目指す少年像の違い/『少年』における翻
訳記事の底本/翻訳にみられる特徴
第二章 新文館の児童雑誌と日本の児童文学界――朝鮮の植民地化と武断政治のなかで
1 児童雑誌の刊行の背景と崔南善の児童観
韓国併合の余波――「少年」から児童へ/新文館の目指した児童
教育
2 児童への接近手段としての日本書
崔南善の日本滞在と当時の児童文学界/教訓の要素を含んだ童
話/「子どもらしさ」を表す構成物
3 「朝鮮的なもの」を通した民族的自負心の涵養
朝鮮の昔話と歴史上の人物/ハングル表記と固有語の創造
4 児童雑誌から「総合教養」雑誌『青春』へ
新文館の方針転換――『アイドゥルボイ』第13号/児童雑誌が
果たした役割と『セビョル』
第三章 『青春』が目指したもの――「世界的知識」の発信と民衆啓蒙
1 「総合教養」雑誌『青春』の世界性
2 執筆者たちの世界認識と日本経験
主要執筆者たちの世界認識/主要執筆者たちの日本経験
3 「世界的知識」の発信方法
『青春』にみられる日本の出版物の影響/底本の選択と使い方の
変化――『少年』から
『青春』へ/朝鮮の世界化の試みとその底本
4 『青春』の終焉
第四章 新文館の刊行物と女性
1 近代朝鮮の女性向け刊行物と新文館
2 保護国期における女性観と『少年』
保護国期の新聞記事や雑誌などにみる女性観/『少年』における
「女子」/日本の少年雑誌における「少女」
3 1910年代における女性をめぐる言説と新文館の児童雑誌
1910年代の新聞記事や雑誌などにみる女性観/新文館の児童雑
誌における女子像/崔南善の女性読者
4 近代朝鮮の出版史上における画期性
第五章 シリーズ書籍という試み――韓国併合前後の単行本
1 多種多様な新文館の単行本
2 叢書企画とその背景
朝鮮初のシリーズ書籍「十銭叢書」/『少年』との関係/叢書企
画の由来
3 翻訳小説シリーズと日本の出版社
翻訳小説について/日本の出版界との関係/翻訳にみる雑誌事業
との関連性
第六章 新文館初のロングセラー『時文読本』の編集過程――三・一独立運動前夜の単行本
1 朝鮮初の現代文教科書『時文読本』
2 日本の中等国語教科書との関係性
『中等国語読本』について/翻訳物の底本とその再構成
3 『時文読本』の独自性
翻訳上の工夫と自社の刊行物の再活用/『時文読本』と雑誌事業
4 『自助論』にみる再構成と啓蒙の手法
『自助論』刊行の背景とその概要/崔南善の弁言による再構成
第七章 時事週報『東明』と新文館の終焉――三・一独立運動後の崔南善の出版活動
1 三・一独立運動と新文館
2 新文館から東明社へ
主なき新文館――印刷所としての活動/東明社の設立と『東明』
の創刊
3 『東明』の概要と刊行目的
4 「民族的完成」に向けた取り組み
民族意識の高揚を企図した時事報道/民主主義と社会主義/多様
な見解の提示
5 『東明』のなかの娯楽要素――新文館の残像
終 章 朝鮮出版文化の誕生
1 東明社のその後
2 新文館・崔南善と近代日本
3 今後の課題
注
付録 崔南善年譜
参考文献
あとがき
付表 新文館および東明社の雑誌における翻訳記事の底本一覧
付表1 『少年』における翻訳記事の底本一覧
付表2 児童雑誌における翻訳記事の底本一覧
付表3 『青春』における翻訳記事の底本一覧
付表4 『東明』における翻訳記事の底本一覧
索引