環境学入門 法学・経済学・自然科学から学ぶ
価格:1,980円 (消費税:180円)
ISBN978-4-7664-2957-2 C0030
奥付の初版発行年月:2024年06月 / 発売日:2024年06月上旬
循環型社会、生物多様性、気候変動と地球温暖化。
3つのテーマ、文理の双方から考える環境問題!
「本書を手に取ったみなさんは、どのような「環境問題」を思い浮かべるでしょうか。「環境」ということばそのものはニュートラルで、対象となるものの周囲を意味しますが、「環境問題」というときの「環境」は、人間を含む生物の周囲を指します。そして、人間の活動が影響を与えている、あるいは、人間の活動に影響を及ぼしている自然や社会の変化が、見過ごすことのできない状況に至ると、それが「環境問題」として人びとに認識されるようになるのです。
本書は、20世紀終盤から問題がより顕著にあらわれはじめて、現在も継続している環境問題である、「循環型社会」、「生物多様性」、「気候変動と温暖化対策」をテーマとして、それぞれを法学、経済学、自然科学の観点から解説しています。
なぜ、法学、経済学、そして、自然科学なのか。
現代国家は、法律というツールによって社会を運営します。社会の構成員である個人や企業の行動を決定づける大きな要因には、経済的動機があります。社会的にも経済的にも合理性のある政策が行われるべきですが、その政策は自然科学の知見にも裏打ちされたものであるべきです。
科学的に実現可能なことであっても、倫理的に許されず、法律が規制することもあるでしょう。他方で、法律の目標が科学的に達成不能であれば、意味がありません。ある問題に対して有効な科学的対策があっても、採算に見合わないことは実現困難でしょう。しかし、経済性が乏しいからといって、科学的解明をあきらめるわけにはいかないのです。
本書の読みかたは、みなさんの自由です。どこから読んでもよいし、どのような順番で読んでもよい。「循環型社会」、「生物多様性」、「気候変動と温暖化対策」のうち興味・関心のあるテーマから、あるいは、法学、経済学、自然科学のうち取り組みやすい学問分野から、読んでみてください。ところで、各章・各節の間で、内容の重複があるように見えるかもしれません。本書はあえて調整しませんでした。執筆者は、それぞれの専門分野に立って解説しています。同じテーマであっても、それぞれの専門分野から考えると、どのような説明がされるのか――本書を読むときの楽しみのひとつにしていただきたいと思います。」(本書「はしがき」から)
青木淳一(アオキジュンイチ)
1977年生まれ。慶應義塾大学法学部教授。エネルギー、情報通信、交通など公益事業の規制と競争を研究している。おもな著書に『判例から学ぶ憲法・行政法(第4版)』(共著、法学書院、2014年)、『行政法事典』(共著、法学書院、2013年)、『総合研究・日本のタクシー産業』(共著、慶應義塾大学出版会、2017年)がある。趣味は道の駅めぐり。
一ノ瀬大輔(イチノセダイスケ)
1982年生まれ。立教大学経済学部准教授。専門は環境経済学。経済学の視点から資源循環問題や環境法の効果について研究している。おもな著作に“On the relationship between the provision of waste management service and illegal dumping” (with M. Yamamoto), Resource and Energy Economics, 2011; ”Landfill Scarcity and the Cost of Waste Disposal”, Environmental and Resource Economics, 2024 がある。
小林宏充(コバヤシヒロミチ)
1971年生まれ。慶應義塾大学法学部教授。空気や水などの流れの力学、なかでも乱流、プラズマ、燃焼、量子乱流、それらを利用したエネルギー変換について研究している。おもな著作に『流体力学の基礎』(共著、数理工学社、2014年)、“The subgrid-scale models based on coherent structures for rotating homogeneous turbulence and turbulent channel flow”, Physics of Fluids, 2005; “Imaging quantized vortex rings in superfluid helium to evaluate quantum dissipation”, Nature Communications, 2023(共著) がある。趣味は野球、スキー、筋トレ。
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
第1章 循環型社会
1 循環型社会をつくるために法ができること【法学】
● 循環型社会とは/● 日本の循環管理法の沿革/● 循環型社会の形成にかかわる根本的な問題/● 循環型社会にかかわる環境法の基本理念/● リサイクルをすすめる法制度の仕組み/● いまの制度の問題点──プラスチック問題から考える
Column 環境政策の手法
レポート課題・小テスト
2 経済学からみる循環型社会【経済学】
● 本節の構成について/● 経済学からみた廃棄物/● 循環経済への取り組み/● 日本型循環経済を目指して
レポート課題・小テスト
3 循環型社会を支える地球の生態系【自然科学①】
● 自然生態系の物質循環/● バイオマスの利用/● ヒトは生態ピラミッドの頂点に立つ/● 生態系内で蓄積され、分解と循環が困難なものによる影響/● 3R の前に意識すべきこと
レポート課題・小テスト
4 プラスチックの過去・現在・未来【自然科学②】
● プラスチックを構成する元素/● プラスチックは炭素(C)の化学/● プラスチックは高分子化合物/● プラスチックの分類/● プラスチックによる環境問題/● マイクロプラスチック/● バイオプラスチック/● プラスチックの廃棄による環境問題とリサイクルの現状
Column プラスチックの歴史
レポート課題/小テスト
エッセイ① 人類の窒素の獲得が生んだ環境問題
第2章 生物多様性
1 法と生物多様性【法学】
● 生物多様性とは/● 生物多様性を守るべき理由/● 生物多様性を脅かす4つの危機/● 生物多様性保全の考え方/● 生物多様性条約などの国際的な枠組み/● 生物多様性基本法などの国内法の枠組み
レポート課題・小テスト
2 経済学から考える生物多様性問題【経済学】
● 生物多様性と経済/● 生物多様性と生態系サービス/● 生物多様性が失われている原因/● 生物多様性の保全に向けて/● 生物多様性保全のこれから
Column 生物多様性の経済学:ダスグプタレビュー
レポート課題・小テスト
3 生物多様性に影響する生物学的要因【自然科学①】
● 地球上の生物/● 生物多様性に影響する要因
レポート課題・小テスト
4 生物多様性の保全と持続的利用を目指して【自然科学②】
● 日本列島の自然環境と生物多様性/● 日本列島の生物多様性が直面する4 つの危機/● 第6 の大量絶滅時代/● レッドリストとレッドデータブック/● 生物多様性とジオパーク/● ジオパークで学ぶ生物多様性とジオ多様性
Column 里地・里山の自然と生物多様性:慶應義塾日吉キャンパスの事例
レポート課題・小テスト
エッセイ② 地球の宝~南北両極地~をゆく
第3章 気候変動と温暖化対策
1 国際社会の合意形成と日本の取組み【法学】
● 地球規模の問題/● 人びとの暮らしと温室効果ガス/● 気候変動枠組条約/● 京都議定書とパリ協定/● 地球温暖化対策推進法──日本における温暖化緩和策の基礎/● 緩和の取組み① 省エネ/● 緩和の取組み② 経済的手法/● 気候変動適応法──日本における適応策の柱
Column 環境基本法の基本理念
レポート課題・小テスト
2 経済的なしくみによる解決【経済学】
● 気候変動による(経済)被害の可能性の概観/● 緩和と適応/● 課税と排出量取引/● その他の経済的手法
Column 地球温暖化政策の経済的影響
レポート課題・小テスト
3 地球温暖化のメカニズムと自然界での影響【自然科学①】
● 気候変動と地球温暖化/● コンピュータによって表現された地球/● 気象現象の将来変化と近年の事例
レポート課題・小テスト
4 物理学の視点から考えるエネルギーと温暖化対策【自然科学②】
● 化石燃料とエネルギーの起源/● エネルギー資源とエネルギー保存則/● 電力構成比/● 化石燃料・原子力によるエネルギーの変換方法/● 再生可能エネルギーの変換方法/● 温暖化対策としてのカーボンニュートラル/● 日本のエネルギー政策
Column ジオエンジニアリング(気候工学)
レポート課題・小テスト
エッセイ③ 「水俣病問題」は私たちに何を問いかけるか