舞台の上の障害者
価格:3,520円 (消費税:320円)
ISBN978-4-7985-0225-0 C3070
奥付の初版発行年月:2018年03月 / 発売日:2018年03月中旬
「健常者」と「障害者」、「排除」と「包摂」、「芸術」と「芸術でないもの」......不自由な身体を人前にさらしながら、彼/彼女らはさまざまな境界を越えてゆく。障害者による劇団やアート表現の現場を取材し、障害者の「生きる権利」と「表現する権利」を考えることで、今日の障害/障害者観に変革を迫る一冊。
長津 結一郎(ナガツ ユウイチロウ)
東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科卒業。
同大学大学院 音楽研究科博士後期課程修了。
2016年4月より九州大学大学院芸術工学研究院
コミュニケーションデザイン科学部門助教。
博士(学術、東京藝術大学)。
目次
はじめに
第1部 研究の背景と立場
第1章 研究の背景
1 障害者の表現活動の何が問題か?
2 先行研究・事例の概観
(1)「障害」と「文化」をめぐるいくつかのトピック
(2) 日本における障害者の表現活動、その歴史的な展開
3 「福祉」「芸術」「療法」の融解 近年の新展開
(1) 福祉施設での「表現」の現在 かがやきキラキラ仕事館、たけし文化センター
(2) 創造的なセラピスト 音楽療法を事例にとって
(3) 野村誠 現代音楽と「老人ホーム」
(4) 小 括
第2章 障害者の芸術表現活動が抱える課題と問題提起
1 「障害」の立ち位置 障害学における当事者議論をもとに
(1) 障害学とはどのような学問であったか
(2) 障害の「他者化」にどのように立ち向かうか 平等派/差異派の議論をもとに
2 障害と芸術 精神科医から、芸術家から、福祉施設から
(1) アウトサイダー・アート、アール・ブリュットの系譜
(2) 何が「アウトサイダー」か?
(3) 福祉施設からの芸術表現 日本における「アウトサイダー・アート」「アール・ブリュット」小史
(4) 90年代以降の展開
3 アウトサイダー・アートと障害の他者化
(1) 障害者「自立支援」としての表現
(2) 日本での受容と原義との距離
(3) 人々がアウトサイダー・アートに希求するもの
(4) 表現を通じた障害の「他者化」
4 関係性への視点
(1) アウトサイダー・アート市場への挑戦
(2) こぼれ落ちるものと「齟齬」
(3) 行為としての表現 アルス・ノヴァでの1日
(4) 欠落する「関係性」の視点の価値化に向けて
第2部 事例研究
第3章 「差異」と「共同」 マイノリマジョリテ・トラベル
1 公演《ななつの大罪》
2 エイブル・アート・ムーブメントとマイノリマジョリテ・トラベル
(1) エイブル・アートとは
(2) エイブル・アートの展開と批評
(3) マイノリマジョリテ・トラベルのコンセプトと活動の変遷
3 見世物小屋の「毒」 マイノリマジョリテ・トラベルとは何だったのか?
(1) マイノリマジョリテ・トラベルの活動の意義 批評をもとに振り返る
(2) 見世物小屋の「毒」
4 マイノリマジョリテ・トラベルは誰のもの?
(1) マイノリマジョリテ・トラベルの共同制作物としての一面
(2) 障害者アートの範疇を超える「共同性」
5 マイノリマジョリテ・トラベルの意義
(1) マイノリマジョリテ・トラベルの意義とエイブル・アートの展開
(2) 活動の継続の困難さと、参加者たちの新たな活動の萌芽
第4章 「関わり」から生まれる表現 森田かずよ
1 義足と「歩く」こと 《アルクアシタ》
(1)《アルクアシタ》
(2) 自らの「リアル」を追求する
2 表現者としての萌芽 母親にとっての「障害」の受容
(1)「どうか娘が死にますように」から「あなたと私は別々の人間です」へ
(2)「障害があるから余計に研ぎ澄まされる」
(3)「私、ダンス教室はじめるわ!」
3 伝え、向き合い、突き付ける 劇団「夢歩行虚構団」での7年間
(1) 障害ではなくいかに「伝わる」か
(2) 自らと向き合う関係性
(3) 観客への「障害」の提示
(4) 夢歩行虚構団を支えるスタンスと変化
4 循環プロジェクト
(1) 公演《≒2》と、プロジェクト開始の経緯
(2) イコールになりきれないイコール 循環プロジェクトの理念
(3) 向き合い、枷をはめ、しんどさをも抱きこむ 実際に起こった関係性
(4) 常に新しい気持ちで向き合う 森田が得たもの
5 小 括
第3部 分析と考察
第5章 「障害」「健常」再考 思考実験を通じて
1 異形の身体としての「障害」
2 2つの主体の転覆 ジャック・デリダの「歓待」の思想
(1)「歓待」の思想、その背景
(2)「条件付き歓待」「絶対的な歓待」
(3) 芸術を媒体とした「歓待」としての「襲撃」
(4) 一瞬の「絶対的歓待」を求めて
第6章 障害者の芸術表現活動が持つ多元的な価値
1 作品制作プロセスの中での関わり 「共同性」とその限界
(1)「共同性」とその限界
(2)「共犯性」、その概念モデル形成に向けて
2 「共犯」の孕む課題 アートプロジェクトの議論を援用して
(1) 非専門家が介入する表現の場
(2) 共同の「ファシズム」「暴力性」
(3)「抑圧的寛容」としてのアートプロジェクト
3 「共犯性」から見える多元的な価値
(1) 3つの主体と、3つの芸術的価値
(2) 障害者との芸術表現活動の方途
(3)「共犯性」の概念モデル形成に向けて
4 本研究の今後の展望
補 章 アール・ブリュットの先へ
おわりに
索 引