賦霊の自然哲学 フェヒナー、ヘッケル、ドリーシュ
価格:9,680円 (消費税:880円)
ISBN978-4-7985-0288-5 C3010
奥付の初版発行年月:2020年09月 / 発売日:2020年09月中旬
物理学者フェヒナー、進化生物学者ヘッケル、そして発生生物学者ドリーシュ。本書はこれら実証主義的自然科学者としての出自を持つ3名が、「ネオ・ロマン主義的自然哲学者」へと変貌していく消息を追うものである。
自然科学は、ガリレオ・ガリレイに端を発する世界の数学的・数量的把握へと帰着する。フェヒナー、ヘッケル、ドリーシュはしかし、この数学的自然科学から出発しながら、世界の質を問う自然哲学へと移行する。フェヒナーは「植物の魂」の生活を語り、精神物理学から「物質に宿る魂」を導出、魂の存在とその不死を説く。ヘッケルはダーウィンの進化論を奉じ、キリスト教の神を廃したのちに、自然即神という一元論的宗教へと移行する。ドリーシュは、機械論の圧倒的優位の中で、ほとんど廃絶されていた生気論を復活させようとする。
さらに本書は、フロイトの心理学におけるフェヒナーとヘッケルの深甚な影響を跡づけ、ホフマンスタールとトーマス・マンの文学における自然哲学的思考を剔出する。また西田幾多郎、夏目漱石および稲垣足穂がフェヒナーをどう読んだかにも言及する。
はたして「ネオ・ロマン主義的自然哲学」は、啓蒙から神話への頽落なのか、あるいは道具的理性による人間疎外からの救済なのか。結論部ではスピノザ、フッサール、アドルノ/ホルクハイマーを援用し、「ネオ・ロマン主義的自然哲学」の思想的布置を展望する。
第11回九州大学出版会・学術図書刊行助成対象作
自然科学的「世界の数量化」に抗し
世界の「質」を問う哲学へ
科学者から哲学者へと変貌を遂げた3名が論じる
神と自然,魂の存在――彼らの思索を追い,フロイト,
トーマス・マン,漱石,足穂らへの影響も明らかにする。
福元 圭太(フクモト ケイタ)
1960年生まれ。大阪外国語大学ドイツ語学大学院修士課程修了。ベルリン・フンボルト大学, ボン大学留学, ミュンヘン大学日本センター客員講師。現在, 九州大学大学院言語文化研究院教授。九州大学博士(文学)。ドイツ文学・思想研究。主要著作:『「青年の国」ドイツとトーマス・マン―20世紀初頭のドイツにおける男性同盟と同性愛』(九州大学出版会, 2005年), 『アポロン独和辞典 [第3版]』(共編著, 同学社, 2010年)。
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
序 論
一.本書の目的と方法論
二.自然
三.本書の構成
第一部 グスタフ・テオドール・フェヒナー
第一章 魂は物理的に計測できるか
一.生涯
二.ロマン主義的自然哲学
第二章 フェヒナーにおけるモデルネの「きしみ」
一.自然哲学と自然科学
二.闇
三. 『ナナ、あるいは植物の魂の生活について』
三―一.自然科学的根拠
三―二.美的根拠
三―三.目的論的根拠
第三章 『ツェント?アヴェスタ』における賦霊論と彼岸
一. 『ツェント?アヴェスタ』の成立
二. 「天上の事柄についての教説の概観」
三. 「彼岸の事柄についての教説の概観」
四.物心並行論
第四章 『精神物理学原論』の射程
一. 『精神物理学原論』
一―一. 「外的精神物理学」
一―二. 「内的精神物理学」
二.閾と神
三.意義と展望
第五章 光明観と暗黒観の相克
一.成立の経緯
二.光明観と暗黒観
第六章 フェヒナーからフロイトへ
一.先行研究
二.フロイトとその周辺
三.伝記的並行関係
第七章 フロイトのメタ心理学とフェヒナー
一.メタ心理学
二.力動的観点
三.局所論的観点
三―一.夢
三―二.錯誤行為
三―三.機知
三―三―一. 「予備的快の原則」
三―三―二. 「一体化」
四.経済的観点
五.フロイトにおける快楽原則理論の変遷
第八章 ライプチヒのフェヒネル
一.西田幾多郎
二.漱石・ジェイムズ・フェヒナー
三.足穂と「死後の生活」
第二部 エルンスト・ヘッケル
第一章 ダーウィンからヘッケルへ
一.ヘッケルとダーウィニズム
二.講演「ダーウィンの進化理論について」
第二章 ゲーテとヘッケル
一.ゲーテの使徒
二.ゲーテと進化論
二―一.スピノザ研究と原型論
二―二.イタリア紀行
三.ゲーテとヘッケル
第三章 個体発生・系統発生・精神分析
一.講演「綜合科学との関係における現代進化論について」
二. 「反復説」とその影響 特にフロイトの精神分析との関連で
第四章 『宇宙の謎』の謎
一 . 『宇宙の謎』
一―一. 「自然認識の限界について」
一―二. 「宇宙の七つの謎」と『宇宙の謎』
二. 『結晶の魂』
補論(エクスクルス) ネオ・ロマン主義的自然哲学と文学
第一章 「ポエジーの自然科学的基盤」
一.リアリズム
二.実験
三.意志の自由と不死
四.愛
五. 「現実的理想」
第二章 マッハとホフマンスタールの「瞬間」
一.二人のエルンスト
二. 「救いがたい自我」
三.事物の蜂起
四. 「それがお前だ」
第三章 トーマス・マン『ファウストゥス博士』における「有機的なもの」と「無機的なもの」
小説全体のパラディグマとしての第Ⅲ章
一. 「有機的な(もの)」および「無機的な(もの)」
二. 『ファウストゥス博士』における「有機的な(もの)」と「無機的な(もの)」
三.有機的なものへの共感
四.無機的な構成としての死
五.危機の小説としての『ファウストゥス博士』
六.有機的なものへの愛
第三部 ハンス・ドリーシュ
第一章 「エンテレヒー」の行方
一.ハンス・ドリーシュ
二.生気論と「エンテレヒー」
第二章 ハンス・ドリーシュと超心理学
一.超心理学への関心
二. 『超心理学』
二―一. 『超心理学』第一部
二―二. 『超心理学』第二部
三.エンテレヒーと超心理学
四.エンテレヒー概念の拡大
結 論
一.ネオ・ロマン主義的自然哲学の特質
二.スピノザとフェヒナー、ヘッケル
三.精神物理学と「ヨーロッパ諸学の危機」
四. 「啓蒙の弁証法」とネオ・ロマン主義的自然哲学
初出一覧ならびに謝辞
あとがき
文献一覧
人名索引