環境保全のための地下水水質化学 上 地球化学、地下水および汚染 Geochemistry, Groundwater and Pollution, 2nd edition
価格:6,600円 (消費税:600円)
ISBN978-4-7985-0307-3 C3043
奥付の初版発行年月:2021年05月 / 発売日:2021年04月下旬
本書は1993年に初版が刊行され、水文地球化学において権威ある解説書としての地位を確立している Geochemistry, Groundwater and Pollution, 2nd edition (2005年) の翻訳書である。
本書は地下水に関する地球化学と、水・鉱物・ガス・汚染物質・微生物間の相互作用について、重要で基礎的な概念と数多くの知見を紹介するものである。地下水を取り巻く環境保全を実現し清澄な水環境を実現するといった観点からは、地下水に溶存する汚染物質が地下環境中を移流・分散する過程で帯水層構成物質と生物・化学反応するといった一連のプロセスを理解しておく必要があり、こうした目的にも最適な内容である。地下水水質化学モデリングのツールとして主にPHREEQCコードを用いており、現場や実験室のデータを用いて計算しシミュレーションするための具体的な手順を解説している。また、世界各地の調査実測例をはじめとする数多くの図や表を使用して、計算や理論的な説明を含む現実的な例題と問題(解答つき)も収録し、読者が地下水の水質化学に関する概念をより深く理解できるように工夫されている。
本書は大きく分けて、?地下水の地球化学、地下水の流れと物質輸送(1章から3章)、?化学反応プロセス(4章から10章)、?数値計算モデル(11章及び付録A)から構成されているが、訳書の出版にあたっては2分冊とし、上巻を第6章まで、下巻を第7章以降とした。これまでにこうした地下水の物理的挙動から生物・化学反応の理論と実際までの広範な内容を詳細に取り扱った類書はない。その一方で、各章は他の章とは独立しており、必要に応じてどこからでも参照できるハンドブック的な使用ができるものにもなっている。環境、農学、工学を専攻する学生・研究者はもちろん、地下水利用やその汚染対策に係る研究者・実務者にも有用な情報を提供できるだろう。
本書は、1993年に第1版が刊行され,水文地球化学において権威ある解説書としての地位を確立している Geochemistry, Groundwater and Pollution の翻訳である。2005年刊行の原著第2版では第1版以降の研究成果に基づき全面的な再編集が施されており,現在10刷まで好調に版次を重ねている。
C. A. J. アペロ(シーエージェーアペロ)
水文化学コンサルタント
D. ポストマ(ディーポストマ)
デンマーク工科大学
中川 啓(ナカガワ ケイ)
長崎大学教授
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
まえがき
監訳者まえがき
例の一覧
記号
1章 地下水地球化学への入門
1.1 飲料水としての地下水
1.1.1 飲料水の水質基準
1.2 分析の単位
1.3 地下水の水質
1.4 地下水のサンプリング
1.4.1 深さ方向の積算値かそれとも特定深度の試料か
1.4.2 地下水のサンプリング手順
1.5 地下水の化学分析
1.5.1 現場分析と試料の保存
1.5.2 化学分析の精度
章末問題
参考文献
2章 雨水から地下水になるまで
2.1 水文循環
2.2 雨水の組成
2.2.1 大気汚染物質の起源と輸送
2.3 雨水中の安定同位体
2.3.1 同位体比とδ表記
2.3.2 レーリー過程
2.3.3 雨水の同位体組成
2.4 乾性沈着と蒸発散
2.5 物質収支と生態系動態
2.5.1 不飽和土壌における水質分布
2.6 水質に関与する諸過程
章末問題
参考文献
3章 流れと輸送
3.1 不飽和領域における流れ
3.2 飽和領域における流れ
3.2.1 ダルシーの法則
3.2.2 下層土中の流線
3.2.3 不均一性の影響
3.2.4 化学反応器としての帯水層
3.3 地下水の年代測定
3.4 遅延
3.4.1 遅延方程式
3.4.2 直線的および幅広の濃度フロント
3.4.3 先鋭化濃度フロント
3.4.4 固相上および液相中の濃度
3.5 拡散
3.5.1 拡散係数
3.5.2 ランダム過程としての拡散
3.5.3 拡散輸送
3.5.4 同位体の拡散
3.6 分散
3.6.1 カラムの破過曲線
3.6.2 分散係数と分散長
3.6.3 巨視的分散長
章末問題
参考文献
4章 鉱物と水
4.1 化学平衡と鉱物の溶解度
4.2 溶解度計算の補正
4.2.1 濃度と活量
4.2.2 水溶液中の錯体
4.2.3 複合錯体と活量補正
4.2.4 飽和度の計算
4.3 質量作用定数と熱力学
4.3.1 質量作用定数の計算
4.3.2 様々な温度における質量作用定数の計算
4.4 PHREEQCを用いた平衡計算
4.4.1 PHREEQCを用いた化学種計算
4.4.2 PHREEQCデータベース
4.4.3 鉱物の平衡論
4.5 固溶体
4.5.1 基礎理論
4.5.2 固溶体の分配係数
4.5.3 分配係数における反応速度論的効果
4.6 地球化学過程の反応速度論
4.6.1 反応速度論と平衡
4.6.2 化学反応と速度
4.6.3 反応速度の温度依存性
4.6.4 溶解と結晶化のメカニズム
4.6.5 鉱物の溶解と沈殿の反応速度則
章末問題
参考文献
5章 炭酸塩と二酸化炭素
5.1 炭酸塩鉱物
5.2 炭酸塩鉱物の溶解平衡
5.2.1 炭酸系
5.2.2 地下水中の炭酸化学種の決定
5.3 土壌中の二酸化炭素
5.4 カルサイトの溶解度とPCO2
5.4.1 CO2ガスに対して開放系および閉鎖系内でのカルサイトの溶解
5.4.2 現場における2つの例
5.5 炭酸塩岩の帯水層
5.5.1 ドロマイトと脱ドロマイト化
5.5.2 更新世の炭酸塩帯水層
5.6 炭酸塩反応の反応速度論
5.6.1 溶解
5.6.2 析出
5.7 炭素の同位体
5.7.1 帯水層内の13Cの傾向
5.7.2 14Cと地下水の年代
5.7.3 吸着およびよどみ域での拡散による遅延
章末問題
参考文献
6章 イオン交換
6.1 塩水/淡水境界におけるイオン交換
6.2 土および帯水層における吸着体
6.2.1 粘土鉱物
6.3 交換反応式
6.3.1 交換係数の値
6.3.2 交換体組成の計算
6.3.3 PHREEQCを用いた交換体組成の計算
6.3.4 交換性陽イオンの定量
6.4 陽イオン交換クロマトグラフィー
6.4.1 現場における淡水化の事例
6.4.2 陽イオン交換に対する塩濃度の影響
6.4.3 塩水化における水質パターン
6.4.4 フロントとクロマトグラフ系列
6.4.5 PHREEQCによるクロマトグラフ系列のモデル化
6.5 物理的な非平衡
6.5.1 非可動域のモデル化
6.6 二重層に対するグーイ・チャップマン理論
6.6.1 二重層方程式の数値積分
6.6.2 二重層理論の実際的な有用性
6.7 灌漑水の水質
章末問題
参考文献
付録B 章末問題解答
上巻索引