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欲求の視点に基づく一般理論の提案サービス論争の300年

サービス論争の300年 欲求の視点に基づく一般理論の提案

A5判
価格:9,680円 (消費税:880円)
ISBN978-4-7985-0360-8 C3033
奥付の初版発行年月:2023年10月 / 発売日:2023年10月上旬

内容紹介

300年もの間続くサービス労働をめぐる論争は決着しないまま、「経済のサービス化」時代を迎えた。論争が混迷に陥る原因はサービスに関する古典学説と現代理論との「掛け違い」にある。本書では、人間の欲求に注目してサービス労働の本質を探り、古典経済学の時代から続くサービスをめぐる論争に決着をつけようとするものである。

著者プロフィール

高 晨曦(コウ シンギ)

1993年生まれ。サービス論、デジタル労働、欲求理論、資本主義成立史を含む政治経済学の幅広いテーマに関心がある。経済学の手法のみならず、思想史、社会史、社会学、人類学、比較政治学などの視野を入れる総合社会科学的なアプローチで、社会経済の課題を歴史的・ダイナミックに捉える。
2016年 中国・清華大学社会科学学部卒業(経済学学士)
2018年 一橋大学経済学研究科経済理論修士課程修了.修士(経済学)
2021年 一橋大学経済学研究科総合経済学博士課程修了.博士(経済学)
2021年 -2022年3月 一橋大学経済学研究科特任講師
2022年4月- 九州産業大学経済学部専任講師

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

第一章 理論と現実のミスマッチ
 はじめに
 第一節 「サービス」産業とサービス理論のミスマッチ
  問題の所在
  1. 「第三次産業」の合理性
  2. 「財―サービス」二元論の登場
  3. 現代「サービス」の社会的性格(生産性と価値形成性)
  結び
 第二節 史的唯物論の射程・前資本主義社会に対する構造分析の可能性
問題の所在
  1. 非資本主義社会の「下部構造」は経済的諸関係だろうか
  2. 「経済的下部構造」と「上部構造」の関係
  3. 前資本主義社会における史的唯物論の射程
  結び
 第三節 欲求体制の歴史的理論
1. 先行研究の到達点
2. 先行研究の限界と問題の所在
3. マルクスの欲求体制の歴史的再編成
4. 最初の歴史的欲求としての直接的欲求
5. 労働者の直接的欲求から必要な欲求へ
6. 必要な欲求
結び

第二章 古典派経済学の課題
はじめに
第一節 スミスの生産的労働への二つの基準
 1. 生産的労働の規定に埋め込まれたサービス労働
 2. 生産的労働:第一の、本源的な基準
 3. 生産的労働:第二の、副次的な基準
第二節 現物サービス:古典的サービスを「財―サービス」二分法から捉える誤り  
第三節 サービスの古典的規定:スミスの時代の社会経済的環境の変化
 1. サービス関係とサービスへの「形態的・歴史的」解釈
 2. 生産的労働への第二の基準の歴史的背景:スミス時代の労働の形態
第四節 サービスの古典的規定:素材主義的解釈および資本主義的生産的労働の拡張 
まとめ  

第三章 サービス提供の古典的形態:直接的欲求のための生産の解体
 はじめに
 第一節 負の因果性の打破
1. 最初の障壁:蓄えの合理性と余剰の創出
2. 第二の障壁:社会の階層化および剰余生産の強制
3. 第三の障壁:社会的欲求およびその代理人の登場
 第二節 商人資本が媒介する社会的使用価値の生産
  1. 商人が果たす資本の本来の機能・問屋制
  2. 流通資本としての商人資本の特殊な機能
 第三節 直接的欲求を中心とする欲求体制の解体
1. 高利貸資本の直接的欲求を中心とする欲求体制への侵食
2. 土地の収奪・資本の本源的蓄積
3. 植民地における直接的欲求のための生産の破壊
 第四節 サービス関係の壊滅と生産的労働の形成
  1. 直接的欲求のための手工業生産
  2. 商人と職人の階級闘争:家内工業とプロト工業化の発展
  3. ツンフト合同
  4. 労働のサービス形態から労働の資本主義的形態へ:資本のもとへの労働の形式的包摂
  5. 農業労働の資本主義的生産労働への転換
 第五節 「現代サービス」の前提:資本主義的欲求体制の確立
  1. ファクトリーとマニュファクチャーにおける労働過程の相違
  2. 資本主義的欲求体制の形成:「必要な欲求」の範疇
  3. 新産業にとっての「有利な歴史的諸関係」
  4. 資本主義的欲求体制における支配的欲求
  
第四章 近代社会科学の課題
第一節 サービス労働論争
1. 「サービス」の前史:Dienstとしてのサービス
2. 各国におけるサービス労働論争とその評価
 第二節 「サービス」産業の経済学説史
1. 「第三次産業」の合理性論争
2. 流通・消費サービスと欲求の操作
3. コスト病と公的「サービス」
4. 労働者の分化・変革の抑制
5. 批判理論からの反省

第五章 資本主義的欲求体制に組み込まれている資本による「サービス」提供
第一節 サービスの古典理論から現代理論へ
第二節 資本主義的欲求体制における「サービス」提供:
社会的再生産の全契機の資本の必要な欲求への従属
  1. 必要な欲求の「法則」性
  2. 資本主義的経営の成立条件:新しい部門の進出への資本の躊躇
  3. 不生産的諸部門における資本主義的経営の成立:
「経済のサービス化」と階級間の力関係の推移
  4. 「法則」の徹底、必要な欲求の範囲が支配する賃金と労働時間
 第三節 労働者の必要な欲求の対象範囲:賃金の限界と労働日の限界との代替効果
 
付論 「サービス利潤」の可能性:剰余価値の分配の仕組み
 1. 資本による「個人サービス」の供与にかかわるジレンマ
 2. 「個人サービス」供与の資本主義的形態:労働手段と労働力の現物貸付
3. 「サービス」商品の擬制:「サービス利潤」と「サービス価格」
 4. 国民所得の再分配とサービス提供部門の収入の源泉
 結論

参考文献
あとがき


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