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カリフォルニア大学の自律と統制をめぐる葛藤アメリカ高等教育のガバナンス改革

アメリカ高等教育のガバナンス改革 カリフォルニア大学の自律と統制をめぐる葛藤

A5判 252ページ 上製
価格:3,960円 (消費税:360円)
ISBN978-4-7985-0364-6 C3037
奥付の初版発行年月:2024年02月 / 発売日:2024年02月中旬

内容紹介

大学に社会から負託された使命をよりよく追求させるものは、大学の自律性か、それとも政府からの統制か。これは古くて新しい問いである。20世紀に公立高等教育機関のアクセス(量的拡大)とエクセレンス(学術的卓越性)を両立させた米国カリフォルニア州の高等教育マスタープランは、高等教育の機能別分化政策の成功例としてあまりに有名で、「カリフォルニア・アイデア」と称賛されてきた。特に、公立研究大学であるカリフォルニア大学(UC)の学術的卓越性は、同大学が有する州憲法に基づく高度な自治と共に、広く認知されてきた。

しかし、近年は深刻化する財政難のため、高等教育のアクセスもエクセレンスも危機に瀕しているとされる。また、同州では高等教育機関と州政府との間で政策調整に当たる「緩衝装置」であったカリフォルニア中等後教育コミッションが廃止されるなど、かつて称賛された分権的な性格にも変化が生じてきた。

こうした状況で、UCがアクセスとエクセレンスの両立という公的な使命を追求するためにより重要なものは、州民を代表する理事会に統治される公立大学としての自律性と、州民の代表であるはずの州政府からの公的な統制のどちらなのか。

本書は、UCの議事録、カリフォルニア州の議会資料や政策文書などの分析を行うことで、公的使命の追求を巡るUCと州議会・知事と対立を軸に「カリフォルニア・アイデア」を再検討し、この古くて新しい問いに答えようとする事例研究である。日本の高等教育の改革動向を考えるうえで、政策担当者、実務者、研究者必読の書。

前書きなど

《本書の帯より》
大学の自律性 vs 政府の統制             
アクセスとエクセレンスの両立という公的使命(マスタープラン)の実現を主戦場に繰り広げられたカリフォルニア大学と州議会・知事との抗争史。かつて世界から理想(アイデア)と賞賛されたカリフォルニア州高等教育の現実を探る。   

著者プロフィール

中世古 貴彦(ナカセコ タカヒコ)

九州産業大学基礎教育センター(兼)大学改革推進本部講師。専門は高等教育論。
2019年、九州大学大学院人間環境学府教育システム専攻博士後期課程退学。博士(教育学、九州大学)。

主要著作:
『カリフォルニア州高等教育マスタープラン──アメリカ大学モデルの創出1850−1960』
  玉川大学出版部(共訳、2023年)
『衡平な大学入試を求めて──カリフォルニア大学とアファーマティブ・アクション』
  九州大学出版会(共訳、2022年)
「公立大学の自律と統制──カリフォルニア大学を例に」『高等教育研究』第21集(2018年)

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

はしがき
 図表目次
 略語一覧
 初出一覧

序章 高等教育の公的使命をめぐる葛藤

 第1節 問題の所在  機関の自律性か公的な統制か  
 第2節 先行研究
  1 カリフォルニア州高等教育の構造と問題
  2 UCと公権力との関係
  3 州レベルの高等教育政策の調整枠組みの変化
 第3節 本研究の課題
  1 公的使命の追求を促すメカニズム
  2 本研究におけるUCの公的使命
  3 UCを主たる分析対象とする理由
  4 本研究の構成

第1章 緩やかな調整に対する評価の変化

 第1節 本章の目的と構成
 第2節 1990年代の主要な改革提言の分析
  1 CPECを介した「合理化によるコスト削減」の要求
  2 財政支援の条件とされた「構造改革」
  3 「頭金」としての高等教育投資を得るためのK-12への責任論
  4 調整強化のための当事者排除という論理
  5 2000年代の改革論への影響
 第3節 まとめ  統制を強調するロジックの形成とCPECへの焦点化  

第2章 「教育マスタープラン」構想と高等教育の独自性

 第1節 本章の目的と構成
 第2節 CPEC改革をめぐる攻防
  1 議会主導の改革議論の開始
  2 高等教育関係者に対する議会の不信感
  3 CPECの強化・存続を望んだUCの反論
  4 当事者の参画の必要性を主張したCPECの反論
  5 一定の歩み寄りを見せた第二次案への再反論
  6 当事者関与の容認と統制への期待
 第3節 まとめ  CPEC存続が孕んだ自律と統制の矛盾  

第3章 UC、議会、知事の思惑とCPECの廃止

 第1節 本章の目的と構成
 第2節 CPEC廃止直前の関係者の動き
  1 CPEC弱体化を進行させた議会の改革・廃止議論
  2 UCが露呈させたCPECの無力さ
  3 CPECが置かれた調整困難な状況
  4 財政難と新知事の下した廃止決定
 第3節 まとめ  矛盾の中で喪失された「緩衝装置」  

第4章 「緩衝装置」廃止の影響

 第1節 本章の目的と構成
 第2節 CPEC廃止後の混迷
  1 「公立高等教育セグメントからの独立」をめぐる攻防
  2 議会とUCの対立の先鋭化
 第3節 まとめ  自律性への批判と統制強化へ向けた圧力  

第5章 UCの教学経営をめぐる自律と統制

 第1節 本章の目的と構成
 第2節 公的使命をよりよく追求させるもの
  1 公的使命の追求を困難にする公的統制
  2 入学者選抜の裁量と州民への奉仕
  3 「自主的なコンプライアンス」による統制の不要化と支援の獲得
  4 理事会の政治的独立性の重要さ
 第3節 まとめ  政治的独立性に裏打ちされた自律性  

第6章 UCの自律性の限界

 第1節 本章の目的と構成
 第2節 憲法上独立した理事会の「社会の代表」性
  1 政治的独立性への批判と擁護
  2 理事任用プロセスの適正化
  3 「社会を代表する」姿勢
 第3節 新たな調整枠組みをめぐる課題
  1 引き続き望まれる調整機関を介した統制
  2 州知事交代後も続く新たな枠組みの模索
 第4節 まとめ  自律性に対する制限  

第7章 授業料と入学者受け入れをめぐる矛盾

 第1節 本章の目的と構成
 第2節 方針転換に至った構造
  1 経緯:2021-22年度予算をめぐる動き
  2 理想(州内学生優先)と現実(州外学生依存)のせめぎ合い
  3 解消困難な州内学生優先圧力
 第3節 まとめ  善意がもたらした州民負担の増加  

第8章 カリフォルニア州高等教育における調整の変容

 第1節 本章の目的と構成
 第2節 州政府、大学、州民の頂点からなる三角形を用いた分析
  1 調整の変容を捉える図式:三角形モデルの援用
  2 評価基準
 第3節 州調整機関の改革論に見る変容
 第4節 UC理事会の改革論に見る変容
 第5節 まとめ  公的使命を追求させる制度設計をめぐる葛藤  

終章 総括と今後の課題

 第1節 本研究の成果  カリフォルニアの現実とは一致しない自律性の理想  
 第2節 本研究の示唆と今後の課題

 あとがき
 引用文献
 索引


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