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新型溶融塩原子炉の実用をめざして溶融塩の性質と利用

溶融塩の性質と利用 新型溶融塩原子炉の実用をめざして

B5判 334ページ 上製
価格:9,900円 (消費税:900円)
ISBN978-4-7985-0365-3 C3053
奥付の初版発行年月:2024年03月 / 発売日:2024年02月下旬

内容紹介

溶融塩は、高温安定性、酸素や水蒸気との低反応性、水と同程度の粘性、高いイオン伝導度や熱伝導度に優れた材料である。使用温度に合わせたいろいろな融点の溶融塩を提供できるため、原子力、水素、太陽熱、電力を結びつけることを目的に、原子炉の高温冷却材や太陽熱蓄熱材、高温作動燃料電池電解質材料、水素製造用熱媒体など多方面への利用可能性が期待されている。また、フッ化物塩や塩化物塩だけでなく、硝酸塩や硫化物塩の酸素酸塩などの多様な塩の組み合わせにより、多様な性質を発現する可能性に満ちた材料でもある。

本書では、溶融塩物性値の予測と整理をはじめ、金属材料腐食性を解決する酸化還元制御の基礎を説明するとともに、原子炉概念においては溶融塩燃料を使用した新たなモジュラー炉設計が進み、溶融塩の利用可能性が一段と広がっていると考え、ウランあるいはトリウム溶融塩原子炉を利用した水素製造をはじめ、太陽熱蓄熱装置や乾式燃料再処理への利用、溶融塩高速炉を使用したマイナーアクチニド核種の核変換処理による放射性廃棄物中の長寿命核種低減など、溶融塩に関する国内外の最新の研究成果を取りまとめたものである。

エネルギー工学を目指す学生や技術者が、溶融塩をより広く効果的に利用していくうえで好個の参考資料となるであろう。

著者プロフィール

深田 智(フカダ サトシ)

1976年、九州大学工学部応用原子核工学科卒業。1978年、同大学院修士課程修了。
九州大学大学院工学研究科応用原子核工学専攻助手、同大学院工学研究院准教授を経て
2006年、九州大学大学院総合理工学研究院先端エネルギー理工学専攻教授。九州大学
水素エネルギー国際研究センター水素製造部門教授も併任。現在、九州大学名誉教授。
博士(工学、九州大学)。専門は原子力化学工学。

著書
『次世代エネルギーへの燃料 水素吸蔵合金による水素同位体の分離技術』(2000年、NTS)
『水素 将来のエネルギーを目指して』(共著、2006年、養賢堂)

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

はじめに

第1章 溶融塩の物性値

  1. 溶融塩の性質
   (a) 溶融塩の⼀般的性質
   (b) 溶融塩を原⼦炉熱サイクルへ利⽤
  2. 溶融塩利⽤への必要条件
  3. 溶融塩の熱伝導率,熱容量,粘度等の物性値データベース
  4. 溶融塩を構成する分⼦の電気陰性度
  5. 溶融塩物性値評価のための分⼦動⼒学数値解析
  6. 分⼦動⼒学解析とマクロ物性値との関係
  7. フッ化物溶融塩のイオン構造
  8. 溶融塩単体の融点と沸点
  9. 溶融塩混合物の融点と2成分状態図
   (a) 状態図決定のためのモデル
   (b) 液相側の過剰⾃由エネルギー
   (c) 固相側のGibbs⾃由エネルギー
  10. 実際の溶融塩状態図と融点の決定
   (a) 2成分系で共晶反応がある場合の状態図(LiF-BeF2系,NaF-BeF2系)
   (b) LiF-NaF-BeF2系の状態図
   (c) 共晶反応がないときの3成分系状態図(LiF-NaF-KF)
   (d) LiF+BeF2+UF4およびLiF+BeF2+ThF4状態図
   (e) LiF+BeF2+PuF3状態図
   (f) LiF+BeF2+UF4+ThF4状態図と融点
  11. 溶融塩原⼦炉燃料に関わる燃料組成
  12. LiF-NaF-BeF2 3成分混合溶融塩の活量係数の予測
  13. 擬化学モデルによる溶融塩混合物の熱⼒学量の評価
  14. 溶融塩蒸気圧
  15. 溶融塩の粘度
  16. 溶融塩の電気伝導度
  17. 溶融塩熱伝導率
  18. 溶融硝酸塩分解反応
  19. 溶融塩へのガス吸収
  20. 溶融塩中の溶解ガス拡散
  21. 溶融塩中の⽔素同位体の透過
   (a) 平板間の定常⽔素透過
   (b) ⼆重円環内溶融塩中の⽔素同位体拡散と透過
  22. 溶融塩と気体との反応
   (a) フッ化物溶融塩と酸素・⽔蒸気との反応
   (b) 溶融塩冷却材中のトリチウム
   (c) 溶融塩による不純物ガス回収と分解
  第1章の参考⽂献

第2章 溶融塩容器材料の腐⾷とフッ化物,塩化物溶融塩の酸化還元制御

  1. 材料腐⾷の⼀般的傾向
  2. フッ化物と塩化物のGibbs⾃由エネルギー変化
  3. フッ化物,塩化物の酸化還元ポテンシャル
  4. 溶融塩のフッ素ポテンシャル制御
   (a) HF/H2混合ガス吹き込みによるフッ素ポテンシャル制御
   (b) 固体Beあるいは固体Li制御棒挿⼊によるフッ素ポテンシャル制御
   (c) U3+⇔U4++e-あるいはCe3+⇔Ce4+酸化還元反応によるフッ素ポテンシャル制御
  5. 溶融塩のフッ素ポテンシャル制御の実例
   (a) Redox制御試験装置
   (b) Beによる溶融塩酸化還元制御のモデル計算と試験
  6. 酸化物や硫化物のHF還元
  7. 溶融塩内の⾦属腐⾷
  8. ⻑時間の構造材料腐⾷試験
  9. 溶融塩原⼦炉全体のRedox制御
  10. 溶融塩FLiBeの中性⼦照射とその後のAr+H2ガスパージによるトリチウム放出挙動
  11. サイクリック・ボルタメトリ
  12. 抗腐⾷抵抗材料
  13. 溶融塩酸化還元制御への中性⼦エネルギーの影響
  14. 凍結壁(frozen walls)
 第2章補⾜説明
  1.フッ化物⽣成反応のGibbs⾃由エネルギー変化
  第2章の参考⽂献

第3章 溶融塩燃料電池

  1. 燃料電池の種類と特徴
  2. 燃料電池のI-V曲線
  3. 交流インピーダンス解析
   (a) RC回路
   (b) ⾼温⽤固体酸化物燃料電池のインピーダンス解析
  4. 溶融塩燃料電池に関係する物性値
  5. 溶融塩燃料電池の電極材料とセル構成
  6. 電解質内のイオン濃度の時間変化と出⼒の時間変化
  7. 定置式燃料電池の具体的実施例
  8. ⾼温作動型燃料電池
  第3章の参考⽂献

第4章 溶融塩を利⽤した太陽熱利⽤システムと輻射伝熱

  1. 太陽光発電と太陽熱集熱
  2. 地表が受ける太陽エネルギー
  3. 光の反射と吸収,透過
   (a) 熱輻射の範囲と物質による熱輻射波の反射,吸収,透過
   (b) 放射率
  4. ステファン-ボルツマン則
  5. 熱放射線の放射と散乱
  6. 形態係数
  7. 太陽光集熱システム
   (a) ⽇照変化
   (b) 集光システム
  8. 太陽エネルギー集熱効率と発電効率
   (a) 太陽熱集熱効率
   (b) 太陽電池発電効率
  9. 溶融塩熱貯蔵システム
   (a) 蓄熱材料の種類
   (b) 溶融塩蓄熱材の物性値
  10. 蓄熱装置
  11. 潜熱変換と顕熱変換システム
  12. 溶融塩蓄熱材,太陽熱利⽤への適⽤
  13. 融解凝固を伴う熱貯蔵
   (a) Neumann型熱伝導式の解
   (b) 融解凝固を伴う熱伝導の簡易解析
  第4章の参考⽂献

第5章 溶融塩冷却材の強制対流流動と熱伝達

  1. 強制対流流動の区分分け
  2. 完全流体の⽅程式
  3. 流体の運動量式,エネルギー式
   (a) 層流の保存式
   (b) 乱流モデル
  4. 隔壁を通しての流体からの熱伝達
   (a) エネルギー式
   (b) 熱伝達係数と無次元数
  5. 熱伝達解析の例
   (a) 円管内層流熱伝達のGraetzの解
   (b) Levequeの解
   (c) 層流境界層⽅程式
   (d) 乱流境界層熱伝達
  6. 次元解析
   (a) バッキンガムのπ定理
   (b) 抗⼒係数の次元解析
   (c) 流路抵抗
   (d) 強制対流熱伝達の次元解析
   (e) ⾃然対流熱伝達の次元解析
   (f) ⾃然対流熱伝達整理式の予測
  7. 原⼦炉内の核熱発⽣率と燃料部の温度
  8. 溶融塩の強制対流熱伝達
   (a) 溶融塩熱伝達
   (b) 熱交換器の総括熱伝達係数と対数平均温度差の評価
  9. 沸騰熱伝達
  10. 溶融塩の⾃然対流熱伝達
  第5章の参考⽂献

第6章 原⼦炉の構成要素と⾼温熱利⽤システム

  1. 世界と⽇本の原⼦⼒発電の現状
  2. 原⼦炉型式
   (a) PWR
   (b) BWR
   (c) 重⽔減速炉
   (d) ⿊鉛減速炭酸ガス冷却炉
   (e) ⾼温ガス炉
   (f) ⾼速増殖炉
   (g) 溶融塩炉
  3. 原⼦炉技術成熟度評価
  4. 軽⽔炉受動安全システム
  5. ⾼速炉の安全性
   (a) Na冷却⾼速炉の安全性
   (b) 溶融塩⾼速炉の安全性
  6. 原⼦炉熱利⽤の促進を図るシステム
   (a) 軽⽔減速原⼦炉冷却システム
   (b) 超臨界⽔冷却原⼦炉の熱利⽤サイクル
   (c) ⽯炭ガス複合⽕⼒発電
   (d) ⾼温ガス原⼦炉熱利⽤システム
   (e) 溶融塩原⼦炉⽤⾼温熱利⽤サイクル
   (f) ⾼速増殖炉超臨界CO2冷却熱利⽤サイクル
   (g) 超臨界炭酸ガス冷却システム
   (h) 太陽熱と原⼦⼒発電複合システム
   (i) コンバインドサイクルと⾼温熱利⽤
  7. ⽇本における⽔素の製造・利⽤状況
  8. 電気分解による⽔素製造
   (a) アルカリ⽔電気分解による⽔素製造の現状
   (b) 電解効率と電解液抵抗
   (c) ⾼圧アルカリ⽔電解
   (d) 固体⾼分⼦⽔電解プロセス
   (e) ⽔酸化Ni電極⽔電解
   (f) ⾼温固体酸化物電解質⽔蒸気電解
   (g) ⽔蒸気電解の熱⼒学
  9. 炭化⽔素改質反応による⽔素製造
  10. バイオマス⽔素製造
  11. 熱化学⽔素製造
   (a) 酸化法と還元法
   (b) I-Sサイクルの技術的進展
   (c) I-S法以外の熱化学⽔素製造法
  12. ⽔の光分解
  13. ⽔素の精製,圧⼒スウィング法
  14. 脱硫反応
  15. ⽔素燃焼タービンとアンモニア燃焼タービン
   (a) CH4混焼タービン
   (b) NH3燃焼タービン
   (c) ⽔素燃焼システム
  16. ⽔素⾃動⾞と航空機
   (a) FCVの構造
   (b) FCVの技術⽬標
   (c) ⽔素燃焼エンジン(ICE)
   (d) ⽔素航空機
  17. ⽔素貯蔵と移送
   (a) ⽔素貯蔵法の⽐較
   (b) 圧縮⽔素による貯蔵と輸送
   (c) ガスパイプラインによる⽔素移送
   (d) 液体⽔素貯蔵と運搬
  18. ⽔素安全性
  19. ⽔素調達コスト⾒積り
 第6章補⾜説明
  1. NH3燃焼ボトミングサイクルの熱⼒学
  2. 圧⼒スウィング法による⽔素精製解析
   (a) 2成分平衡関係
   (b) PSA操作時の濃度変化
  第6章の参考⽂献

第7章 溶融塩原⼦炉システム

  1. 原⼦炉開発の歴史
  2. 溶融塩原⼦炉のこれまでの開発設計の経緯
  3. 溶融塩原⼦炉の中性⼦と熱の流れ
  4. 溶融塩原⼦炉中の予想される核分裂⽣成物の分布
  5. 溶融塩原⼦炉の分類
  6. 溶融塩燃料の再処理
   (a) フッ化物揮発法
   (b) 液液間還元抽出
   (c) フッ化物溶融塩の電解処理
   (d) 塩化物溶融塩中の電解処理
   (e) 腐⾷防護のための対策
  7. ⾼速炉⽤の塩化物溶融塩の構造材腐⾷と溶融塩塩化物の精製
   (a) MSFR溶融塩燃料の精製
   (b) 塩化物溶融塩燃料の腐⾷抑制のための精製
  8. 酸化物燃料の溶融塩や溶融⾦属を使った乾式処理
   (a) ⾦属による還元処理
   (b) 酸化物燃料の電解処理
   (c) ⾦属燃料電解処理
   (d) 塩化物溶融塩からのリン酸化物や炭酸塩を使った再処理
  9. 最近の世界と⽇本の溶融塩研究の動向
  10. トリウム原⼦炉の特徴
  11. トリウム燃料の利⽤実績
  12. 溶融塩原⼦炉の安全性向上への対策
   (a) 溶融塩原⼦炉安全性の全般的考察
   (b) 原⼦炉反応度制御
   (c) 凍結バルブ
   (d) ⾃然対流による受動安全性
  13. 排熱回収と崩壊熱の回収
  14. トリチウム発⽣と回収
   (a) 炉内でのトリチウム発⽣量
   (b) 溶融塩炉トリチウム回収装置
  15. 溶融塩炉の受動的安全性
  16. 溶融塩ループシステム
   (a) 溶融塩遠⼼ポンプ
   (b) 遠⼼ポンプ設計
   (c) 溶融塩熱交換器
   (d) 配管とバルブ
  17. 溶融塩炉の将来計画
  18. 塩化物溶融塩⾼速炉とMA核種の核変換
  第7章の参考⽂献

第8章 安全性を⾼めた新型原⼦炉

  1. 第3+世代原⼦炉
  2. ⼩型モジュール炉(SMR)
  3. 第4世代原⼦炉の特徴
  4. 新型溶融塩原⼦炉の特徴
   (a) 溶融塩炉の⻑所
   (b) 溶融塩炉の⽋点
  5. 溶融塩原⼦炉の概念設計計画
   (a) 提案された溶融塩炉
   (b) 溶融塩熱中性⼦炉
   (c) 溶融塩⾼速炉
   (d) 溶融塩静⽌炉
  6. 加速器駆動溶融塩炉
  7. ⽇本の溶融塩炉の炉設計概要
   (a) 塩化物溶融塩⾼速炉
   (b) フッ化物溶融塩熱中性⼦炉
  第8章の参考⽂献

 索引


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