一九一〇年代に上海を中心に隆盛をきわめた「文明戯」すなわち中国の「新劇」は、日本演劇の影響を強く受けている。中国の「新劇」の成立そのものに日本演劇が深くかかわったという意味で、この時代は日中演劇交流史上たいへん重要である。本書は、日本から中国へ移植された「文明戯」の演目に関する専門的な研究として学術的な意義が大きい。日本の明治文学（創作脚本や翻訳脚本）の中国への伝播、日中両国における西洋演劇の受容についての事例が数多く紹介され、広く日本文学や演劇の研究者、愛好者の関心にも応える内容となっている。