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他者 人類社会の進化

他者 人類社会の進化

菊判 466ページ 上製
価格:4,620円 (消費税:420円)
ISBN978-4-8140-0002-9 C3039
奥付の初版発行年月:2016年03月 / 発売日:2016年03月下旬

内容紹介

今日「他者」は諸学問の流行テーマである.しかし本書はそれらの議論とは一線を画す.すなわち,一切の思弁を排し,ヒトとサル(そして他の動物)の参与的な観察事例にこだわった厳密な経験科学として,「他者」なるものを析出していく.哲学的な思索の対象としてではなく,個体と個体(集団と集団)の相互行為のプロセスとしての「他者」の中に,人類の社会性の本質を見る.

著者プロフィール

河合 香吏(カワイ カオリ)

東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授
1961年生まれ.京都大学大学院理学研究科博士課程修了,理学博士.
主な著書に,『野の医療―牧畜民チャムスの身体世界』(東京大学出版会,1998年),『集団―人類社会の進化』(編著,京都大学学術出版会,2009年),『ものの人類学』(共編著,京都大学学術出版会,2011年),『制度―人類社会の進化』(編著,京都大学学術出版会,2013年)など.

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序章 進化から「他者」を問う―人類社会の進化史的基盤を求めて[河合香吏]
1 「他者とともに生きる」ということ
2 「集団」,「制度」から「他者」へ――本書が生まれた経緯
3 インタラクションの相手としての「他者」――本書における「他者」の立ち位置
4 「他者」を語る二つの相
5 「他者」を進化の文脈で語るということ
6 本書の構成

第1部 他者の諸相──その生成,成立,変容をめぐって

第1章 霊長類社会における承認する他者,不可解な他者[黒田末寿]
Keywords:承認する他者,不可解な他者,チンパンジー,ボノボ,平等原則,逸脱
1 〈他者〉を霊長類社会学に持ち込む
2 承認する他者と不可解な他者
3 初期発達過程での承認する他者の不在
4 共在の承認を求める主体と承認する他者
5 チンパンジーにおける不可解な他者
6 平等原則と不可解な他者
7 他者性を認める行為
8 逸脱から物語が始まる
第2章 動物は「他者」か,あるいは動物に「他者」はいるのか?[中村美知夫]
Keywords:動物,チンパンジー,マハレ山塊国立公園,他者の条件,社会的な相手
1 他者と動物
2 「他者」とは?
3 人間にとってどんな相手が他者か
4 動物にとってどんな相手が他者か
5 チンパンジーにとっての他者
6 チンパンジー以外では?
7 結論に代えて――「他者」を進化史的に理解するには
第3章 他者が立ち現れるとき[曽我 亨]
Keywords:相互作用,三項関係,巻き込み,他者の感知,参照基準
1 得体の知れぬ「他者性」の感知
2 他者を「理解」する
3 三項関係と他者
4 参照基準と他者
5 他者を感知する三つの仕組み
第4章 「拒否できる他者」の出現――人間社会への移行における不可避の条件[北村光二]
Keywords:相互行為システム,コミュニケーション,拒否できる他者,循環的過程,社会の秩序
1 相互行為システムのコミュニケーション
2 人間以前の社会における相互行為システム
3 人間社会への進化
4 人間の原初的な社会における秩序の形
第5章 共感と社会の進化――他者理解の人類史[早木仁成]
Keywords:同調,共感,認知,共進化,重層社会,私たち性
1 他者と同調する
2 自己と他者の生成
3 集団の中で他者となじむ
4 人類集団の進化
5 〈私たち〉の生成

第2部 他者と他集団─いかに関わりあう相手か

第6章 続・アルファオスとは「誰のこと」か?――チンパンジー社会における「他者」のあらわれ[西江仁徳]
Keywords:剥き出しの他者,制度的他者,相互認知/行為の構え/よどみ,認知的強靭さ
1 「他者」――「制度」を可能にする/召喚するものとして
2 事件の背景と顛末――アルファオスの「失踪」とその後の「不安定感」
3 最初の「ニアミス」――ファナナの接近と逃避
4 二度目の「ニアミス」――アロフたちの「捜索」とファナナへの「突進」
5 チンパンジー社会における「剥き出しの他者」と「認知的強靭さ」
6 「他者」の進化史的基盤――「剥き出しの他者」と「制度的他者」
第7章 出会われる「他者」――チンパンジーはいかに〈わからなさ〉と向き合うのか[伊藤詞子]
Keywords:〈すきま〉,〈わからなさ〉,探索,集中/非集中,チンパンジー
1 〈わからなさ〉と向き合う――ヒトの認識に還元しない「他者」論のために
2 〈わからなさ〉を探索する
3 野生の森へ―きざしの「他者」
4 チンパンジーのやりとり
5 集中性と非集中性
6 〈わからなさ〉に寄り添う――語られる「他者」から出会われる「他者」へ
第8章 見えないよそ者の声に耳を欹てるとき――チンパンジー社会における他者 [花村俊吉]
Keywords:知り合い・仲間/よそ者,他者性への対処の仕方,プロセス志向,声や痕跡を介した相互行為,離れていることの可能な社会
1 「よそ者」の現れとその他者性への対処の仕方
2 チンパンジーの集団間関係
3 不意に到来するよそ者の声
4 プロセス志向的/ゴール指向的な対処の仕方
5 チンパンジー社会における他者――「よそ者」と「知り合い」
第9章 「敵を慮る」という事態の成り立ち―ドドスにとって隣接集団とはいかなる他者か [河合香吏]
Keywords:東アフリカ牧畜民,隣接集団間関係,共感,倫理・道徳,ともに生きる
1 略奪の応酬のなかの共在・共存
2 「共感」の進化的基盤
3 問題の所在――「敵」であるはずの隣接集団トゥルカナへの「慮り」
4 ドドスのレイディングの特徴と,隣接民族集団との関わり
5 ドドスの他者/他集団認識の成り立ち
6 隣人トゥルカナとともに生きること

第3部 人類における他者の表象化と存在論

第10章 他者のオントロギー――イヌイト社会の生成と維持にみる人類の社会性と倫理の基盤[大村敬一]
Keywords:他者に対する責め,「真なるイヌイト」,生業システム,所有,主体性,共食
1 出発点――レヴィナスから人類学への二つの問い
2 「真なるイヌイト」(Inunmariktuq)のジレンマ――他者に取り憑かれた主体たちの疑心
3 生業システム――生活世界と拡大家族集団を生成する装置
4 共食――食べ物を通したジレンマの先送り
5 他者のオントロギー――人類の社会性と倫理の進化史的基盤
第11章 祖霊・呪い・日常生活における他者の諸相――ザンビア農耕民ベンバの事例から[杉山祐子]
Keywords:関係性としての他者,ナカマ,集合的他者,祖霊,物語
1 他個体と他者
2 関係性としての自己と他者,物語と集合的他者の生成
3 ベンバの日常生活と祖霊
4 呪い・災厄と他者
5 集団の離合集散と他者を作る物語
6 物語のすりあわせと集合的他者の生成
第12章 「顔」と他者――顔を覆うヴェールの下のムスリム女性たち[西井凉子]
Keywords:ダッワ運動,受動性,ムスリム女性,顔,ヴェール
1 顔を覆う布
2 ダッワ運動と女性の活動
3 顔を覆うヴェール着用の事例から
4 ヴェール着用者が対峙する他者
5 顔と他者をめぐる考察
第13章 道義と道具――他者論への実践的アプローチ[田中雅一]
Keywords:資源,ソーシャル・キャピタル,関わり合い,セックスワーク,パトロン―クライエント,名誉殺人
1 身内,他人,他者,よそ者
2 道義と道具
3 身内,他人,他者
4 よそ者の消滅
第14章 他者としての精霊――イバン民族誌から[内堀基光]
Keywords:精霊,霊魂,二重世界,夢見,狩猟,首狩
1 ほぼ絶対的にヒト(だけ)的な他者というもの―他者性の度合
2 イバンの生活誌から一つのエピソード
3 経験の語り方――霊魂と夢
4 精霊の存在
5 精霊は自己の鏡像としての他者である
6 「他我」としての精霊
7 他者=異者の展開

第4部 広がる他者論の地平

第15章 野生動物との距離をめぐる人類史[山越 言]
Keywords:農作物被害,人獣共通感染症,野生動物観光,スポーツ・ハンティング,馴化
1 「他者」としての野生動物
2 人と野生動物との接合面
3 人類史の中でのヒト――野生動物関係の変遷
4 近代におけるヒトと野生動物の新たな関係
5 野生動物を観察すること
6 類人猿観光の現実と諸問題――ギニア・ボッソウ村のチンパンジー保全
7 新たな他者としての野生動物
第16章 環境の他者へ――平衡と共存の行動学試論[足立 薫]
Keywords:混群,環境,コミュニケーション,種間関係,生態学
1 生物学に「他者」を開く
2 動物のコミュニケーション
3 「他者」とはだれのことか
4 「他者」の場所
5 「生態学的他者」は可能か
第17章 社会という「物語」――分業,協同育児と他者性の進化[竹ノ下祐二]
Keywords:物語,分業,協同育児,他者=役/役者
1 本章における他者
2 「心の理論」と誤信念課題
3 ヒトと動物を隔てるふたつのギャップ
4 ゴリラの「育児における協働」と,ヒトの「協同育児」の対比にみられる,他者のあらわれの差違
5 他者=役/役者の進化―協同育児と分業
第18章 野生のチューリング・テスト――非人間の〈もの〉が他者となるとき[床呂郁哉]
Keywords:人間/非人間の境界の可変性,他者Ⅰと他者Ⅱ,機械のアニミズム,野生のチューリング・テスト
1 非人間の他者へ
2 非人間の他者の諸相
3 チューリング・テストという補助線
4 「野生のチューリング・テスト」(広義のチューリング・テスト)
5 「他者」の再帰性・恣意性
6 なぜ人間は「非人間(人間でないもの)」を「他者化」するのか?―まとめと課題
終章 苦悩としての他者――三者関係と四面体モデル[船曳建夫]
Keywords:苦悩,四面体,手紙,排他的・包括的一人称,フンボルト
1 これまでの議論と前置き
2 困難ではなく,苦悩としての他者
3 ムボトゥゴトゥの儀礼における,二者間関係と第三項αの不在の克服
4 「手紙」という二者間関係
5 包括的一人称と排他的一人称
6 他者という苦悩とその可能性

あとがき  [河合香吏]
索 引


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