贈与とふるまいの人類学 トンガ王国の〈経済〉実践
価格:3,630円 (消費税:330円)
ISBN978-4-8140-0024-1 C3039
奥付の初版発行年月:2016年03月
贈与とは,単にモノを与えることではない。モノとその場の状況に即した「ふるまい」とが組みあわさってこそ,贈与が立ちあがる。トンガの人びとは日々さまざまに「ふるまい」ながら,互いにそれを注視し,関係を維持する。詳細なフィールドワークに基づいて,「モノ」と「ふるまい」の絡み合いが駆動する社会経済を描きだす。
比嘉 夏子(ヒガ ナツコ)
1979年生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程満期退学。博士(人間・環境学)。専門は人類学で.ポリネシアにおける経済実践,身体的相互行為などを研究テーマとする。現在,日本学術振興会特別研究員(PD) /国立民族学博物館外来研究員。
主要著作には,「対他的な〈ふるまい〉としての粗放的飼育—トンガのブタをめぐる儀礼的相互行為—」(2015年,木村大治(編) 『動物と出会うII (相互行為と社会の生成)』ナカニシヤ出版),Economic, Religious and Social Practice of Giving: A Microanalysis of Donating Event in the Kingdom of Tonga (2011年, Research Economic Anthropology. 31: 243-265) などがある。
目次
第1章 〈ふるまい〉としての〈贈与〉
1 なぜ「ふるまい」と「贈与」なのか
2 トンガの「ふるまい」
3 卜ンガの「贈与」
(1)贈与するモノのカテゴリー
(2)贈与の機会と人びとの関係
4 本書がもたらす視座
(1)「ふるまい」とモノとの相乗としての「贈与」
(2)贈与をめぐる研究の問題点
5 「ふるまい」
(1)儀礼と日常との連続性
(2)「ふるまい」とパフォーマンスの関連性
6 経済人類学としての本書の位置
(1)首長制に基づく経済実践の再考
(2)人類学における貨幣論
7 トンガにおける先行研究
第2章 トンガの生活世界
1 トンガの社会と経済
(1)階層社会と土地制度
(2)生業と経済
(3)キリスト教と経済
2 村落生活と平民の日常
(1)調査地概要
(2)村の一日
3 海外移民と季節労働
(1)村落の人々にとっての海外移住
(2)季節労働の経験と収入の用途
(3)贈与の維持と活性化
4 調査の概要と方法論的特色
(1)調査の期間と概要
(2)調査上の困難と方法の吟味
第3章 モノを〈ふるまう〉——手放すことの意義
1 贈与儀礼におけるモノとふるまい
(1)贈与とふるまいに満ちた生活
(2)葬儀と親族の役割
(3)弔問における贈与とふるまい
2 食物の贈与・分配
(1)教会行事と饗宴
(2)頻発する饗宴と食物分配
(3)モノの積極的なやりとり
第4章 貨幣を〈ふるまう〉——宗教贈与の盛大さ
1 教会への献金行事ミシナレ misinale
(1)多額の宗教献金
(2)各教会の献金行事
(3)自由ウエスレアン教会の組織と献金行事
2 宗教贈与の制度と信者たちの貢献
(1)献金行事ミシナレのシステム
(2)ミシナレ当日の進行
(3)集められた献金の用途
(4)「一定の目標金額」の設定と共有
3 キリスト教と貨幣経済の歴史的もつれあい
(1)ウェスレー派メソジス卜の布教と卜ンガの国家形成
(2)ヤシ油による教会への寄付
(3)精巧に作り出された装置としての宗教的贈与
第5章 踊りと共に〈ふるまう〉——貨幣と身体
1 寄付集めの行事コニセティ koniseti
(1)寄付行事における踊りの役割
(2)寄付行事コニセティの進行
(3)踊り手をめぐるふるまい(1) ——共に踊る
(4)踊り手をめぐるふるまい(2) ——紙幣を貼る
2 「身体に紙幣を貼る」寄付の手法
(1)寄付金額と踊り,ファカパレの相関性
(2)ふるまいにおける同調性
(3)同調的なふるまい
3 承認の道具としての貨幣
(1)ファカパレの歴史的背景と変容
(2)貨幣とアカウンタビリティ
(3)貨幣のタンジビリティ
第6章 道化として〈ふるまう〉——笑いの創出
1 献金行事における道化的ふるまい
(1)献金行事前の道化的ふるまい
(2)献金行事当日の道化的ふるまい
2 寄付行事における道化的ふるまい
(1)「適切さ」を侵犯するふるまい
(2)「社会的弱者」を包摂するふるまい
3 道化による協働と達成
(1)トンガにおける道化の位置づけ
(2)人びとによる「達成感」の共有
第7章 所有という〈ふるまい〉の困難さ
1 速やかにモノを手放す日々
(1)現金の即時的な消費と分配
(2)食物の即時的な消費
(3)個人所有や蓄財に対する批判的概念
2 村内の貯蓄組合と消費の抑制
(1)現金積み立ての組織
(2)貯蓄組合の仕組みと人びとの実践
(3)積み立てられた現金の用途
(4)「貯蓄組合」と「奨学金のカラプ」との比較
3 掛け売りと「恥」:商店経営者の葛藤
(1) 村の商店と掛け売り
(2)対照的な2つの商店とその経営
(3)経営者の葛藤と「トンガ的」な価値観
第8章 〈ふるまい〉とそれを覆う認知環境
1 贈与,ふるまい,認知
(1)〈まなざし〉の交錯する生活
(2)相互的認知環境と分配の発生
2 贈与や分配を回避する手段
(1)秘匿というふるまい
(2)所有の秘匿と恥の概念
3 つつましく所持するふるまい
(1)ブタの儀礼的重要性と組放的飼育
(2)聞かれた所有のありかた
(3)対他的なふるまいとしての家畜飼養
第9章 〈ふるまい〉に満ちた社会
1 ローカルな概念と認識世界
(1)「ふるまい」 anga の束と経済実践
(2)「ゆるやかに保持し,積極的に手放す」nima homo
(3)「あいだを育む」tauhi va
2 「あいだ」へと投げかけつづける実践
(1)二項間贈与モデルの再考
(2)「あいだ」の維持と鉱張する世界
おわりに
参照文献
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