一人っ子政策と中国社会
価格:3,300円 (消費税:300円)
ISBN978-4-8140-0262-7 C3022
奥付の初版発行年月:2020年02月 / 発売日:2020年03月上旬
70年代末から続いた一人っ子政策は,中国の社会構造を大きく変えた。近代化路線と同時に始まったリプロダクションにおける強権の行使と黙認・容認,抵抗と打算,家族・労働の変化等々,生殖コントロールをめぐる実践の中で,女性は酷く傷ついたが,結果として,男性中心社会は大きく揺らぎつつある。「圧縮された近代」の隣人たちが経験した,リプロダクティブ・ヘルス&ライツの変貌を鋭く分析する。
小浜 正子(コハマ マサコ)
1958 年,大阪府に生まれる。
京都大学文学部東洋史学科卒業,お茶の水女子大学大学院人間文化研究科単位修得退学。お茶の水女子大学博士(人文科学)。
鳴門教育大学助教授をへて,現在,日本大学文理学部教授。(公財)東洋文庫研究員。
著書に,『中国ジェンダー史研究入門』(共編著,京都大学学術出版会,2018 年),『アジアの出産と家族計画—「産む・産まない・産めない」身体をめぐる政治』(共編著,勉誠出版,2014 年),『歴史を読み替える—ジェンダーから見た世界史』(共編著,大月書店,2014 年),『近代上海の公共性と国家』(研文出版,2000 年)等。
目次
序章
1 元産科医の「伯母」は蛙の悪夢を見る——はじめに
2 中国の計画出産
3 アジアのリプロダクション
4 計画出産をめぐる議論
5 本書の視点と資料、構成
解説 アジア近代のリプロダクションの変容
——出産の近代化と家族計画の普及
1 リプロダクションの変容
2 リプロダクションのテクノロジー
3 リプロダクションの政治
第一部 中国の人口問題と計画出産
第一章 中国の人口と人口政策
——ジェンダーとリプロダクションからみる中国人口史
1 前近代中国の人口と人口調節
2 近代中国における民族と生育
3 中華人民共和国の人口動態
4 中華人民共和国の人口政策——計画出産の展開
第二章 非合法堕胎から計画出産へ
——中華人民共和国成立前後の性と生殖をめぐる言説空間の変容
1 新聞紙上に出現する「避妊」と「堕胎」
2 中華民国期の堕胎をめぐる観念
3 中華人民共和国初期の言説空間
4 政策の変化と言説の変容——生殖コントロールの制限緩和(一九五四〜五八年)
5 倫理から政治へ——言説空間を統御する力
第二部 上海の計画出産
第三章 都市の女性に浸透する計画出産
——一九五〇~六〇年代上海におけるリプロダクションの変化
計画出産がもっとも浸透した街・上海
1 上海の人口動態
2 中華人民共和国成立前後の上海における母子保健政策の展開
3 人口政策の変化と計画出産の普及
4 上海における生殖コントロールの特徴とジェンダー構造
5 性と生殖をめぐる国家と女性、技術と社会
第四章 上海における一人っ子体制の成立——一九七〇~八〇年代
1 一人っ子の街、上海——七〇年代以降の上海の人口動態
2 「一人っ子政策」前夜の上海——一九七七年まで
3 一人っ子体制の確立へ——一九七八年以降
4 上海市第二商業局における情況
5 上海における一人っ子体制の定着と少子社会の到来
第三部 中国農村の計画出産
第五章 先進的農村における計画出産の展開——遼寧省Q村
村の計画出産とリプロダクションの変容
1 Q村の概要——「はだしの医者」の活躍した村
2 Q村における生殖コントロールの普及
3 女性たちはなぜ、どのように計画出産を受け入れたのか——自発と強制の間
4 「一人っ子政策」下のQ村——一九八〇年代以後
5 なぜ中国では国家の生殖への介入が自明視されるようになったのか
第六章 「遅れた」農村における計画出産の紆余曲折——湖南省B村
「魚米の郷」のリプロダクション
1 B村の概要と女性たちのプロフィール
2 B村における計画出産のはじまり——一九七〇年代以前
3 計画出産の強化——一九七八年以降
4 厳しい政策執行——一九九〇年代
5 政策執行の緩和と出産観の変化——二〇〇〇年代以降
6 中国農村の計画出産
終章
1 本書の各章の内容
2 一九五〇年代以来の計画出産の延長としての「一人っ子政策」
3 地域と現場による差異の大きさ
4 計画出産および「一人っ子政策」は、中国の女性にとってどのような意味を持ったのか
5 中国家族のジェンダー構造から見た計画出産と「一人っ子政策」
6 東アジアのリプロダクション——多様なアクターの交渉のアリーナ
コラム1 決まり(「規定」)
コラム2 人工流産と「引産」
コラム3 婚前健康検査と優生
コラム4 「工作」「動員」「説服」
コラム5 「超過出産」と罰金
コラム6 訓練産婆と迷信
参考文献一覧
あとがき