自前の思想 時代と社会に応答するフィールドワーク
価格:4,840円 (消費税:440円)
ISBN978-4-8140-0300-6 C1010
奥付の初版発行年月:2020年10月 / 発売日:2020年10月中旬
今,学問は科学は,社会と本当に向き合っているだろうか? 社会を解釈するに止まってはいないだろうか? グローバル化,ネオリベラル経済,AIシステムが暮らしの場に浸透する一方,地球環境問題は深刻化し災害やパンデミックが社会を脅かす。こうした状況がもたらす危機と可能性を前にして,我々には,課題がある現場に身を置き,そこから考え行動することが求められているのだ。時代の激動に思いがけず巻き込まれながら,時代と強く向き合った10人の先人――中村哲,波平恵美子,本多勝一,石牟礼道子,鶴見良行,中根千枝,梅棹忠夫,川喜田二郎,宮本常一,岡正雄――に学び,学問・科学の責務を問う。
清水 展(シミズ ヒロム)
1951年,横須賀市生まれ。東京大学助手,九州大学助教授・教授,京都大学教授を経て,関西大学特任教授。主な著書に『噴火のこだま』『草の根グローバリゼーション』など。第11回日本文化人類学会賞(2016)や第107回日本学士院賞(2017)を受賞。
飯嶋 秀治(イイジマ シュウジ)
1969年,埼玉県本庄市生まれ。九州大学准教授。主な水俣関係のエッセイ・論文には「あらゆるものが大地から―『本願者』へと至ったプロセス」(『季刊 魂うつれ』37号),「失敗のフィールドワーク史」(『フィールド+』No.10),「Crossingする花弁―エスノグラフィとReconciliations」(『Quadrante』No.21),「自己治癒的コミュニティの形成」(『臨床心理学』増刊12号)など。
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
はじめに―現場と社会のつなぎ方 [清水 展]
私の経験から
一〇人の先達
時代の子として
フィールドワークから自前の思想へ
字義通りのフィールド=ワーカー
1章 中村 哲 [清水 展]
1 中村医師への畏敬
2 「トウキョウ」を撃て
3 野に身を置く文化人類学者として
4 現場主義、あるいは現地の困窮者を最優先する応答の実践
5 丸腰から放つ礫
おわりに
微笑み越しの覚悟と戦略
2章 波平恵美子 [青木恵理子]
1 曇りなきまなこで
2 生まれ来たりし時より―原体験と立ち位置
3 「今―ここ」を見据えた人類学
4 再び、波平さんをめぐる私の原体験から
5 応答する思想
調査する側とされる側、観念的同一化と共感
3章 本多勝一 [伊藤泰信]
1 「アイヌネノアンアイヌ」(人間らしい人間)
2 人類学へ/からの影響
3 本多は「本」を書いていない―遡及的/同時代的評価
4 立場のない報道はありえない
5 調査される者の眼
6 二分法と同一化
おわりに
「決して往生できない魂魄」を知の合わせ鏡として刻む
4章 石牟礼道子 [飯嶋秀治]
1 水俣での出遭い
2 「決して往生できない魂魄」との出遭い
3 『苦海浄土』はどう理解されたか
4 覚悟と表現と距離と―石牟礼道子から学ぶもの
うちなる壁の向こうへ―知米派知識人の「脱米入亜」
5章 鶴見良行 [赤嶺 淳]
1 知米派知識人・鶴見良行
2 アジアを歩き、アジアを学ぶ
3 『バナナと日本人』をめぐって
4 点と点をつなぐ―マルチサイテッド・アプローチの可能性
5 偶発性の絡まりあいを読み解く
遠くから眺め、近寄って凝視し、比較して考える
6章 中根千枝 [清水 展]
1 日本社会を外から見る―社会人類学者・中根千枝の位置取りとスタイル
2 個人的な思い出から
3 華やかなデビューに至る道―フィールドワークと異文化体験
4 ベストセラー『タテ社会の人間関係』のインパクト
5 草の根の国際協力へのコミット―「協力隊を育てる会」の会長として
6 結 語―精神の自由人
「二番煎じは、くそくらえ、だ」
7章 梅棹忠夫 [山本紀夫]
1 「みんぱく」
2 昆虫少年から探検家へ
3 ポナペ島調査
4 大興安嶺探検
5 モンゴルにて
6 牧畜文化への目ざめ
7 学問の横あるき
8 雌伏の時代
9 「旭日昇天教」
10 名誉と挫折と
11 漆黒の闇のなかで
12 「月刊 うめさお」
13 「二番せんじは、くそくらえ、だ」
21世紀に届く文明論的・生命論的応答
8章 川喜田二郎 [関根康正]
1 不均衡な人類学的遺産
2 川喜田二郎先生との出会い―近代西洋文明に抗する本物の学者の迫真性
3 ヒマラヤ・チベット・ネパールでの民族誌的業績とその社会的共有
4 KJ法・W型問題解決モデル・野外科学
5 海外技術協力にみるアクション・リサーチ
6 移動大学・参画社会・チベット文明
7 応答の人類学への示唆
ニヤッと笑って「いかがわしい奴っちゃのお」
9章 宮本常一 [香月洋一郎]
1 思想の核としての郷里
2 二つの視座の交錯点から
3 ある日の宮本常一
4 「在野」という立ち位置
5 歩き続け 書き続け そしてなによりも語り続けて
6 深夜の研究会
7 「みんなが助かるんじゃが」
8 可能性としての民俗誌
9 立ち戻り得る基点
想外の挑戦―戦地の民族政策と民族研究所設立運動
10章 岡 正雄 [清水昭俊]
1 戦時の民族学、戦後の文化人類学
2 民族学を志すまで
3 文献研究から現実の民族へ、中欧バルカンを踏査
4 民族研究所設立運動
5 戦時の深み―踏み込みと抑制
6 「時」に従う、に乗る、に逆らう、を越える―結語
自前の思想の「向こう側」へ―おわりに [飯嶋秀治]
1 遭遇―自前の思想は遭遇したものへの応答から「はじまる」
2 動員―自前の思想の応答はあらゆるものを「資源化する」
3 共鳴―自前の思想は「徒弟化しない」
4 自前の思想の「向こう側」へ
索 引