イメージによる救済へ ——。西洋中世において爆発的に拡大したイメージの世界は、何を顕わにし、それを観る者にいかなる経験や認識をもたらしたのか。黙示録写本、ステンドグラス、聖遺物など、イメージが切り拓いた多様な視覚宇宙を探究し、「見えるようになること」 を根底から問い直したゴシック美術論。
目次
序 論
1 はじめに
2 「文字を読めない人々のための聖書」 を超えて
3 見えるようになることへ向けて――隠蔽から開示へのレトリック
4 辺境と終末 : 空間と時間の末端で —— 記憶と想起のトポグラフィー
5 キリスト教徒とは何か —— 「鏡」 としてのユダヤ
6 救済史のなかのイメージ —— 聖顔 : 不在と現前のディアレクティック
第Ⅰ部 隠蔽から開示へのレトリック
第1章 レヴェラティオをめぐるレヴェラティオ
—— 視覚的タイポロジーの試み
1 はじめに —— 隠すことと顕わになること
2 「タイポロジー」 という思考法
3 視覚的タイポロジーとその二類型
4 不可視性から可視性へ
5 おわりに
第2章 「天に開かれた門」
—— 黙示録写本の挿絵と読者/観者の内的ヴィジョン
1 はじめに
2 挿絵における幻視表現と読者/観者の内的ヴィジョン
3 『ベアトゥス黙示録註解』 写本におけるヨハネの幻視表現
4 開口部と視線
5 フォリオの表裏両面とヨハネの視線
6 おわりに
第3章 空の向こう側へ
—— 『ホルトゥス・デリキアールム』 における 「神殿の垂れ幕」
1 はじめに
2 蒼穹としてのカーテン
3 モーセのヴェールとしてのカーテン
4 おわりに
第Ⅱ部 記憶と想起のトポグラフィー
第4章 イェルサレム・コンスタンティノポリス・パリ
—— サント=シャペルとその装飾
1 はじめに —— サント=シャペルのコレクション
2 宮廷礼拝堂の系譜 —— ソロモンからルイ9世へ
3 マクロとミクロの聖遺物容器
4 聖遺物の奉遷 (トランスラティオ) をめぐって
5 おわりに
第5章 過去の物質的引用
—— サン=ドニ大修道院長シュジェールのスポリアを中心に
1 はじめに
2 「スポリア」 とは何か
3 西洋中世におけるスポリアを考えるために
4 サン=ドニ大修道院長シュジェールの 「スポリア」
第6章 信仰と伝統が交差する場所
—— 『詩編』 109編と 「三位一体」 図像
1 はじめに
2 図像における規範と自由
3 「わたしの右の座に就くがよい」
4 図像と場の規範性 —— キリスト着座の主題の残存と発展
5 信仰表明と伝統への回帰
6 おわりに
第Ⅲ部 「鏡」 としてのユダヤ
第7章 反転した自己表象
—— 「ユダヤの帽子」 の解釈をめぐって
1 はじめに
2 ユダヤ教徒の服装と美術
3 「内なる他者」 としてのユダヤ教徒
4 「シナゴーガ」 の冠とユダヤの帽子
5 『ビーブル・モラリゼ』 の挿絵におけるユダヤの帽子
6 ナウムブルク大聖堂西内陣障柵の浮彫におけるユダヤの帽子
第8章 「恐るべき不信仰」 とイメージの聖性
—— 聖ニコラウス像を罰するユダヤ教徒
1 はじめに
2 聖人像への懲罰 —— 西洋中世におけるイコノクラスムの一形態
3 「聖像破壊者としてのユダヤ教徒」 というトポス
4 イメージをめぐるキリスト教徒とユダヤ教徒の論争
5 キリスト教会内部に発されたメッセージ
6 むすびにかえて —— ジャン・ボデルにおける聖ニコラウス像
第Ⅳ部 聖顔 : 不在と現前のディアレクティック
第9章 痕跡としてのイメージ
—— 奇跡的イコンと刻印のメタファー
1 はじめに
2 中世における複製
3 聖顔 —— 刻印による複製
4 古代、ビザンティンにおける印章と刻印のメタファー
5 西洋盛期中世における印章と刻印のメタファー
第10章 「顔と顔とを合わせて」
—— 13世紀イギリス写本における聖顔と祈念
1 はじめに
2 メディアとしての聖顔
3 13世紀イギリス写本におけるヴェロニカ
4 ヴェロニカの祈禱文と祈念の構造
5 聖顔における可視性と不可視性
第11章 ヴェロニカと印章
—— 《グルベンキアン黙示録》 の一挿絵をめぐって
1 はじめに
2 挿絵とベレンガウドゥスによる註解
3 印章 —— 父と子と神の僕を結ぶもの
4 ヴェロニカ —— イコンとナラティヴ
5 おわりに —— ヴェロニカがもたらすヴィジョン
結 論