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重い電子系の理解のために磁性と超伝導の物理

磁性と超伝導の物理 重い電子系の理解のために

A5判 400ページ 並製
価格:6,270円 (消費税:570円)
ISBN978-4-8158-0726-9 C3042
奥付の初版発行年月:2013年03月 / 発売日:2013年03月下旬

内容紹介

超伝導状態は磁性不純物で容易に壊されることから、磁性と超伝導は一見相容れないが、ある種の物質では両者が共存し、相関すらしている。本書は、このメカニズムを理解するために、磁性と超伝導を統一的に把握。レアアースをはじめとするf電子系物質に、実験・理論双方から迫る。

前書きなど

ビッグバンにより宇宙が誕生して140億年近くが経過する。この間に宇宙の温度は下がり続け、いくつかの“相転移”を経て現在の宇宙が形成されたと考えられている。宇宙の誕生以降もっとも不思議な出来事は、地球上における生命の誕生かもしれない。たった4種の塩基の配列を変えるだけで無数ともいえる多種多様な生命体が生み出されるのは、真に驚くべきことである。

多様性においては物質も引けをとらない。銅のように独特の金属光沢を放ち電気を良く通すものもあれば、ガラスのように透明で電流を流さない絶縁体もある。ある温度で電気抵抗が突然消失する超伝導は劇的である。超電導線でできたループに一旦電流が流れると、超伝導電流は減衰することなく流れ続けるであろう。磁石に対する応答もさまざまである。鉄釘のように磁石に強く引きつけられるものもあれば、水のようにわずかではあるが磁石に反発するものもある。日常的な物質ではないが、大気圧化ではどんなに冷却しても固体にならないヘリウムは、極低温で超流動という不思議な現象を示す。最近では、準結晶と呼ばれる周期性を持たない系が示す絶対零度近傍における奇妙な振舞いも、物性研究の俎上に載せられてきている。このように地球上には多種多様な物質が存在するが、それを構成している(天然に存在する)元素の数は100種にも満たない(最も重い元素が本書の主役の一翼を担うウランである)。この限られた数の元素を組み合わせることにより、私たち自身を含めた全ての物質が出来上がっているのは驚きである。この多様性とそこに通底する普遍性を理解することが物性物理学の目的である。

本書の主要な内容はf電子系における磁性と超伝導である。従来、磁性体を扱う磁性物理学と超伝導・超流動を対象とする低温物理学は、物性物理学を支える大きな柱を形成しつつも、互いに独立に発展してきた。というのは、磁性は電子間に働くCoulomb斥力を起源とする一方で、超伝導は電子間に働く引力を起源としていたからである。1979年のF. SteglichらによるCeCu2Si2の超伝導の発見は、このような状況を大きく変える契機となった。何故なら、電子間斥力に起因する“重い電子状態”と呼ばれる“有効質量の大きな状態”にあるCeCu2Si2において、電子間に引力を必要とする超伝導が出現したからである。しかし、彼らの発見はすんなりとは……

[「はじめに」冒頭より]

著者プロフィール

佐藤 憲昭(サトウ ノリアキ)

1955年生
1984年 東北大学大学院理学研究科博士課程修了
    東北大学助手などを経て
現 在 名古屋大学大学院理学研究科教授、理学博士

三宅 和正(ミヤケ カズマサ)

1949年生
1976年 名古屋大学大学院理学研究科博士課程単位取得退学
    名古屋大学助教授、大阪大学教授、
    豊田理化学研究所フェローなどを経て
現 在 大阪大学名誉教授・同大学大学院理学研究科招へい教授、理学博士

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

はじめに

第1章 自由原子・イオン中の電子
1-1 角運動量と磁気モーメント
1-2 Hund則と原子内交換相互作用
1-3 J多重項と磁気モーメント
1-4 自由イオンの磁性

第2章 結晶中の局在電子
2-1 結晶場効果
2-2 結晶場と物性
2-3 局在スピン間の直接交換相互作用
2-4 局在スピン系の磁気秩序
2-5 相転移と自発的対称性の破れ
2-6 臨界現象

第3章 結晶中を遍歴する電子
3-1 電子の非局在化とバンドの形成
3-2 相互作用の衣を着た電子
3-3 重い電子と価数揺動
3-4 de Haas-van Alphen効果
3-5 遍歴電子系における強磁性
3-6 遍歴電子系における反強磁性
3-7 磁気秩序の崩壊と量子相転移

第4章 超伝導
4-1 完全反磁性とMeissner効果
4-2 超伝導の基底状態
4-3 超伝導引力の起源
4-4 超伝導励起状態
4-5 臨界磁場
4-6 超伝導における対称性の破れ
4-7 異方的超伝導
4-8 UPd2Al3とUNi2Al3

第5章 伝導電子が媒介する局在スピン間相互作用
5-1 cf相互作用
5-2 金属中の局在モーメント
5-3 伝導電子のスピン偏極
5-4 RKKY相互作用
5-5 磁気励起子

第6章 近藤効果
6-1 近藤-芳田基底状態
6-2 位相シフトから見た近藤効果――重い電子の起源
6-3 電気抵抗極小の現象
6-4 スピンゆらぎの観測
6-5 近藤効果に対する結晶場効果
6-6 多チャンネル近藤効果

第7章 Fermi液体としての重い電子系
7-1 希薄近藤効果から高濃度近藤効果へ
7-2 重い電子の起源――直観的説明
7-3 断熱接続とFermi液体
7-4 Green関数による準粒子の表現
7-5 Fermi液体としての重い電子系
7-6 門脇-Woodsの関係
7-7 f2電子配置での重い電子系

第8章 量子臨界現象
8-1 量子臨界現象とは?
8-2 磁気臨界点にともなう量子臨界現象
8-3 遍歴磁性のモード結合理論
8-4 単サイト量子臨界現象
8-5 価数転移にともなう量子臨界現象

第9章 重い電子系超伝導
9-1 重い電子系超伝導体の概観
9-2 超伝導状態の記述
9-3 物理量の低温(TTc)での温度依存性
9-4 ペア相互作用の起源
9-5 斥力起源超伝導の系譜
9-6 臨界価数ゆらぎによる「高温超伝導」
9-7 スピン軌道相互作用と超伝導ギャップの構造
9-8 異方的超伝導状態における不純物散乱の効果

第10章 磁性と超伝導の相関
10-1 磁気励起から見た遍歴性と局在性
10-2 磁気モーメントの超伝導に対する影響
10-3 反強磁性秩序と超伝導の共存・競合
10-4 遍歴・局在2重性モデル
10-5 UPd2Al3における遍歴・局在2重性と超伝導
10-6 強磁性秩序と超伝導の共存と競合
10-7 超伝導転移温度

付録A 生成・消滅演算子
A-1 Fermi粒子とBose粒子
A-2 Cooper対の生成と消滅
A-3 計算例

付録B 結晶場と群論
B-1 結晶場と群論
B-2 Stevensと等価演算子法
B-3 時間反転とKramers 2重項

付録C 動的磁化率と中性子散乱
C-1 一般化磁化率
C-2 中性子散乱実験

付録D Green関数と準粒子
D-1 松原Green関数と遅延Green関数
D-2 Green関数のスペクトル表示

付録E 準粒子の「スピン」保存則の破れ

索 引


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