科学的対象の歴史性を考える ——。細菌学の成立とともに、その歴史も誕生した。「では細菌もそのとき誕生したのか」との問いに、どのように向き合うのか。それは、細菌学の歴史によっても、細菌についての思想史によっても答えられない。本書は、フラカストロ、レーウェンフック、パストゥール、コッホという4人の「父」それぞれの認識と実践を問うとともに、その衝突と対立、いや孤立をすら思考し、そこに初めて浮かび上がる歴史の力を批判的に捉えた斬新な著作である。
目次
序 章 細菌学の歴史と細菌学の知覚
Ⅰ 本書の対象について —— 「病原菌」 と細菌学の歴史
1 細菌学小史
2 細菌学の成立と歴史の生成という問題について
Ⅱ 実在と認識の問題系 —— 「細菌は外在するか」
1 「事物」 と 「意味」 について —— 混在と政治性の主題
2 ラトゥール 「事物の歴史性」 と客体の否定
3 不可能となる外部 —— 知覚そして歴史
Ⅲ 4人の 「父」 たち —— 本書の構成と論点について
第Ⅰ部 前史とされたもの
第1章 フラカストロと伝染する病いのたね —— 「感覚できない極小の粒子」 を見ること
Ⅰ 「千里眼者」
1 フラカストロ
2 再発見、またはアナクロニスム
Ⅱ 「感覚できない極小の粒子」
1 particulae minimae et insensibiles と seminaria contagionum をめぐって
2 「種子」 の系譜へ —— 逆の道筋
Ⅲ フラカストロの 「孤立」 について
第2章 レーウェンフックとアニマルキュール —— 「微生物との最初の接触」
Ⅰ 失われていた 「微生物学の父」
1 レーウェンフック
2 「父」 の発掘 —— レーウェンフックの言葉を読むこと
Ⅱ アニマルキュール
1 記録と呈示
2 例外的視覚を共有すること
Ⅲ 視覚の優位と言葉の不在
—— レーウェンフックにおける微生物との 「直接接触」 について
第Ⅱ部 細菌学という制度的知覚の誕生
第3章 パストゥールと胚種 —— 微生物学の誕生
Ⅰ 文脈 —— 2つの否定
1 ミアスマ説 —— 瘴気と化学
2 自然発生説 —— 被造物と合成
Ⅱ パストゥールの 「パストゥール化」 —— その諸条件と運動
1 パストゥール
2 「パストゥール化」
3 パストゥールの科学①
—— 「天然有機物の分子不斉」 から 「乳酸発酵についての報告」 まで
4 パストゥールの科学② —— 「胚種理論とその医学・外科学への応用について」
第4章 コッホと細菌学的方法 —— 対象の完成と歴史の始まり
Ⅰ 他者としてのコッホ
1 コッホ
2 細菌学
3 特異性と生活環
Ⅱ コッホの科学 —— 「病原菌」 の制度的知覚
1 細菌学的証明の技術的確立 —— 抽出・代理・表象
2 視覚の規程と再度の包摂 —— 「コッホの条件」 と 「因果性」
終 章
1 細菌学/微生物学
2 実在・表象・歴史性