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資源・人的資本・グローバル経済世界史のなかの産業革命

世界史のなかの産業革命 資源・人的資本・グローバル経済 The British Industrial Revolution in Global Perspective

A5判 380ページ 上製
価格:3,740円 (消費税:340円)
ISBN978-4-8158-0894-5 C3033
奥付の初版発行年月:2017年12月 / 発売日:2017年12月中旬

内容紹介

中国やインド、大陸ヨーロッパではなく、イギリスで産業革命が起こり得たのはなぜか? 食事、健康などの生活水準をもとに、世界史的な視野でその起源を捉えなおし、エネルギーなどの自然環境が果たした役割も視野に、産業革命の新たな全体像を示した決定版。

前書きなど

産業革命は、18世紀後半から19世紀前半にかけて、イギリスで始まった。それは、とても昔の、遠い世界の話であると思われるかもしれない。しかしながら、21世紀の日本の読者にとって、産業革命は知っておくべき必要のあることなのである。なぜ知らなければならないのか、その深い理由を説明しよう。

産業革命は、経済成長の近代的局面の始まりであり、現代社会を創造する最初の一歩であった。産業革命の前から製造業は普及していたけれども、それは文字通り「手工業」を意味していた。技術は単純なもので、作業を行う男女の労働者の筋力で動かされる仕掛けがほとんどであり、糸車と手織り機は、もっとも一般的な道具であった。このような状況は、工場の発明によって一変した。工場の中枢で生み出された動力を使って、機械を動かした最初の工場は、綿紡績工場であった。1780年代に、何百もの綿紡績工場が建設され、19世紀初めには、織布工程も動力によって工場でなされるようになった。蒸気機関が発明され、金属溶鉱・精錬業は、小規模な鍛造所から変貌し、巨大な溶鉱炉や圧延工場でなされるようになった。さらに、産業革命が引き起こした変化のなかでもっとも広範囲に及ぶ影響を生み出したのは、組織上の変革である。研究開発は、それまでは職人の余技として散発的になされるものであったが、産業革命以降は事業の成功に欠かせない継続的な活動となった。社会全体が、持続的で長期的な経済成長のプロセスへと乗り出したのである。

なぜ産業革命はイギリスで起きたのか。当時のイギリスの制度はどちらかといえば近代的であり、イギリスの文化は進取の気性を奨励するものであった。しかしながら、このような制度・文化面では、イギリスがとくに際立っていたわけではない。世界の他の地域や国々とイギリスとの大きな違いは、イギリスにおける生産投入要素価格の構造が独特であったということである。イギリスでは、比較的賃金が高く、燃料は安価であった。この価格構造は、17世紀と18世紀前半に築き上げられた貿易帝国から結果的に生み出されたものである。……

[「日本語版への序」冒頭より]

著者プロフィール

ロバート・C.アレン(ロバート シー アレン)

Robert C. Allen
1947年生まれ。オックスフォード大学ナッフィールド・カレッジ・フェロー、経済史教授を経て、現在、同カレッジ・シニア・リサーチフェロー兼ニューヨーク大学アブダビ校グローバル特別栄誉教授。著書に、Enclosure and the Yeoman: The Agricultural Development of the South Midlands, 1450-1850(1992)、Farm to Factory: A Re-interpretation of the Soviet Industrial Revolution(2003)。いずれも、経済史学会(アメリカ)のラーンキ賞を受賞。

眞嶋 史叙(マジマ シノブ)

現在、学習院大学経済学部教授。主著、Fashion and the Mass Consumer Society in Britain, c.1950-2000, VDM Verlag Dr. Müller, 2009

中野 忠(ナカノ タダシ)

現在、早稲田大学名誉教授。主著、『イギリス近世都市の展開』創文社、1995年

安元 稔(ヤスモト ミノル)

現在、駒澤大学名誉教授。主著、『製鉄工業都市の誕生』名古屋大学出版会、2009年

湯沢 威(ユザワ タケシ)

現在、学習院大学名誉教授。主著、『鉄道の誕生』創元社、2014年

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

日本語版への序
謝辞

第1章 前工業化経済と産業革命
産業革命を説明する
文化と経済――原因それとも結果か
消費主義と勤勉
結婚と子ども
近代文化の成立
産業革命への経済的アプローチ
ヨーロッパ経済の変容 1500~1750年
近世の拡大から産業革命へ

第I部 工業化以前の経済

第2章 前工業化イギリスの高賃金経済
賃金と価格
イギリスにおける賃金の収斂
熟練労働者
高賃金経済は生活の質にどのような意味を持つのか
高賃金と経済成長

第3章 農業革命
マクロの視点――人々はどのように食料を供給されたのか
農業労働者の1人当たり産出量
なぜ産出量と生産性は上昇したのか
囲い込みは産出量と生産性を上昇させたのか
開放耕地農民はどのように農業の近代化を達成したのか
農民たちはなぜ自分たちの農法を改良したのか
結論

第4章 低価格エネルギー経済
ロンドンの成長と石炭取引の興隆
家庭用石炭暖房の方法
北東部炭鉱地帯以外の石炭生産の増加
世界を視野に入れたイギリスのエネルギー
オランダの都市化と「木材危機」
結論

第5章 なぜイギリスが成功したのか
進歩と貧困のモデル
19世紀への多様な経路
イギリスが成功した要因
含意するものとさらなる疑問
補遺 近世経済の方程式

第II部 産業革命

第6章 なぜ産業革命はイギリスで起きたのか
イギリス――高賃金で安価なエネルギー経済
なぜイギリスの独特な賃金・価格構造が問題となるのか――労働を資本で代替する
イギリスと中国にモデルを応用する
イギリスとフランスにモデルを応用する――ピン工場の例
第2段階――ミクロレベルの発明の流れ
3つのマクロレベルの発明の歴史
補遺

第7章 蒸気機関
第1段階――ニューコメンのマクロレベルの発明
第2段階――1世紀半にわたる改良
蒸気機関の普及

第8章 綿業
マクロレベルの技術革新、第1段階――ジェニー紡績機
リチャード・アークライトの発明
なぜフランスではないのか
なぜフランスではなくてイギリスで紡績機械が発明されたのか
第2段階――紡績機械の改良
結果
補遺1 ジェニー紡績機の収益率
補遺2 アークライト工場の収益率

第9章 コークス溶鉱法
マクロレベルの発明、第1段階――エイブラハム・ダービー1世の業績
マクロレベルの発明、第2段階――コークス溶鉱鉄の競争力を高める発明、1720~55年
1755~1850年までのマクロレベルの発明への一層の改良
ヨーロッパ大陸におけるコークス溶鉱法の導入
アメリカにおけるコークス溶鉱法の導入
コークス溶鉱法はなぜイギリスで発明されたのか

第10章 発明家、啓蒙主義そして人的資本
産業的啓蒙主義
重要な発明家に関する統計分析
産業的啓蒙主義と実験
長期的視点で見た産業的啓蒙主義
経済的、社会的発展の水準
産業革命の原因としての文化
補遺 重要な発明家リスト

第11章 産業革命から近代経済成長へ

参考文献
訳者解説
図表一覧
索引


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