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グローバル・ミッションの近世宣教と適応

宣教と適応 グローバル・ミッションの近世

A5判 554ページ 上製
価格:7,480円 (消費税:680円)
ISBN978-4-8158-0977-5 C3022
奥付の初版発行年月:2020年02月 / 発売日:2020年02月上旬

内容紹介

異文化と出会った〈普遍〉の使者たち――。大航海時代から啓蒙時代にかけて、アジアやアメリカに派遣されたイエズス会士らは、現地社会に適応することで布教を試みる。だが、それは今日なお解決しえない難問の蓋を開けることだった。異文化適応を軸にキリスト教の世界宣教の全体像に迫る、待望の著作。

前書きなど

中世盛期ヨーロッパの神学者トマス・アクィナスは、晩年の著作『ローマの使徒への手紙の注釈』のなかで、福音はいつ全世界に広まったのかという問題を考察している。彼の議論の出発点はパウロの手紙のなかの「それでは、尋ねよう。彼らは聞いたことがなかったのだろうか。もちろん聞いたのです。「その声は全地に響き渡り、その言葉は世界の果てにまで及ぶ」のです」という言葉である。ここでパウロが引用している「詩編」の一節は、ダビデが来たるべき世界宣教を予言したものといわれるが、それが実現したのはいつなのだろうか。アクィナスはこの問題に関する古代の教父の見解を検討し、世界宣教は使徒の時代にほぼ完遂していたと結論づける。当時すでに、マタイは「エチオピア」(アフリカ)へ、トマスは「インド」(アジア)へ、ペトロとパウロは「西方(occidente)」(ヨーロッパ)へイエスの言葉を伝えていた。すべての民族のあいだに教会が設立されていたわけではないが、世界の三大陸への福音伝道はなされており、それゆえパウロは「もちろん聞いたのです」と言い切ることができたのである。

一五世紀末以降のヨーロッパの本格的海外進出、とりわけ世界の「第四の部分」であるアメリカの「発見」は、アクィナスの見解を正し、パウロの言葉がダビデのそれと同様、予言にすぎなかったことを明らかにした。それと……

[「序章」冒頭より/注は省略]

著者プロフィール

齋藤 晃(サイトウ アキラ)

1963年生
1994年 東京大学大学院総合文化研究科文化人類学専攻博士課程単位取得退学
現 在 国立民族学博物館人類文明誌研究部教授
著 書 『魂の征服――アンデスにおける改宗の政治学』(平凡社、1993年)
    『南米キリスト教美術とコロニアリズム』(岡田裕成との共著、名古屋大学
    出版会、2007年)
    『テクストと人文学――知の土台を解剖する』(編著、人文書院、2009年)
    Reducciones : la concentración forzada de las poblaciones indígenas en el
    Virreinato del Perú
(eds. Akira Saito & Claudia Rosas Lauro, Lima : Fondo
    Editorial de la Pontificia Universidad Católica del Perú, 2017)

ギジェルモ・ウィルデ(ギジェルモ ウィルデ)

アルゼンチン科学技術研究委員会研究員

折井 善果(オリイ ヨシミ)

慶應義塾大学准教授

新居 洋子(ニイ ヨウコ)

日本学術振興会特別研究員

中砂 明徳(ナカスナ アキノリ)

京都大学教授

真下 裕之(マシタ ヒロユキ)

神戸大学准教授

岡田 裕成(オカダ ヒロシゲ)

大阪大学教授

小谷 訓子(コタニ ノリコ)

大阪芸術大学准教授

岡 美穂子(オカ ミホコ)

東京大学准教授

網野 徹哉(アミノ テツヤ)

東京大学教授

鈴木 広光(スズキ ヒロミツ)

奈良女子大学教授

王寺 賢太(オウジ ケンタ)

東京大学准教授

金子 亜美(カネコ アミ)

宇都宮大学助教

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

凡例

序章 宣教師の異文化適応を再考する(齋藤晃)
1 近世カトリックの海外宣教
2 宣教師の異文化適応
3 適応の研究

I 宗教をめぐる対話

第1章 本質的なものと中立的なものの間で(ギジェルモ・ウィルデ、金子亜美訳)
――南米植民地の辺境地域における宣教師の知識と適応
1 本質的なものと中立的なもの――適応のジレンマ
2 教会制度と適応政策の限界
3 信仰を翻訳する
4 秘跡を置き換える
5 適応の裏面――先住民による流用とミメーシス
おわりに

第2章 福音以前の祖先と「粗野な人びと」の救済(齋藤晃)
――16世紀の日本とペルー
1 中近世ヨーロッパの救済論
2 日本人の祖先の救済
3 ペルーの「粗野な人びと」の救済

II 理性と科学

第3章 「奇跡」と適応(折井善果)
――イエズス会宣教師による「理性」概念の形成と日本
1 「適応」「理性」「奇跡」――インドの事例
2 「奇跡」の不在の意味――日本での経験
3 神の摂理としての適応
4 “理性的な”カテキズム
5 “理性的な神の存在証明”とは何か
おわりに

第4章 学知と宣教(新居洋子)
――在華イエズス会士による適応の変容
1 西洋の学問体系の漢訳
2 朱子学への対応からみる適応
おわりに

III 翻訳と包摂

第5章 天主と耶蘇(中砂明徳)
――明末における受難のナラティブ
1 テクストの性質
2 ルッジェーリ『天主実録』からリッチ『天主実義』へ
3 ポスト・リッチ
おわりに――顔を持つイエス

第6章 帝国のなかの福音(真下裕之)
――ムガル帝国におけるペルシア語キリスト教典籍とその周辺
1 ムガル帝国という環境――16世紀後半~17世紀初頭
2 J・ザビエルの活動と著作
3 『神聖性の鏡』
4 『鏡』と既存の文献群との関係
5 『鏡』の記事の分析
おわりに――『鏡』と帝国の普遍史

IV 美術を介した交渉

第7章 適応/消費/収奪(岡田裕成)
――征服後メキシコにおける宣教と先住民共同体の美術
1 托鉢修道会による布教区建設と先住民の共同体
2 宣教師と羽根モザイクの美術
3 消費される「先住民的なもの」
4 収奪か、交渉の回路か
おわりに

第8章 教育と芸術におけるヴァナキュラー(小谷訓子)
――日本イエズス会セミナリオの学校教育と絵画制作
1 ヴァリニャーノの指針
2 セミナリオ
3 教育プロジェクトにおける現地への適応
4 日本イエズス会の芸術制作
5 芸術作品に見る現地への適応
6 模倣の芸術――イエズス会セミナリオの絵画
おわりに

V 適応の限界

第9章 僧形の宣教者(岡美穂子)
――日本イエズス会の同宿と「適応」の限界
1 ヴァリニャーノによる「適応」方針と日本人宣教者
2 日本人イルマン
3 「適応」廃止論と同宿の離脱
おわりに

第10章 適応に抗した宣教者たち(網野徹哉)
――アルバレスとデ・ラ・クルスの場合
1 背景となる歴史
2 アコスタの適応論
3 反適応論者バルトロメ・アルバレス
4 ペルー教皇フランシスコ・デ・ラ・クルス――仮想的世界における適応
おわりに

VI 普遍と文明

第11章 「適応」と言語普遍(鈴木広光)
――他者認識のプロセスと〈普遍〉の変容
1 非西欧世界の階層化と言語普遍
2 2つの逆説――古典ナワトル語文法書に見る「再バベル」化と〈普遍〉の強化
3 語尾変化から助辞接続へ――アラウコ語名詞における〈双数〉表示
4 〈普遍〉の後――投影された「スペイン語」とラテン語
5 他者認識のプロセスと「適応」の論理

第12章 「文明化」の方向転換(王寺賢太)
――レナル/ディドロ『両インド史』のイエズス会パラグアイ布教区叙述をめぐって
1 イエズス会宣教論と「野生人の文明化」
2 『両インド史』と七年戦争後のパラグアイ布教区叙述
3 神権政と共有財産制の理想郷?――インカ帝国とパラグアイ布教区の対比論
4 消え去る理想郷――パラグアイ布教区評価の反転
5 「文明化」の方向転換とその裏面

あとがき
図表一覧
索引


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