朝貢・海禁・互市 近世東アジアの貿易と秩序
価格:5,940円 (消費税:540円)
ISBN978-4-8158-0984-3 C3022
奥付の初版発行年月:2020年02月 / 発売日:2020年03月上旬
「天下を統べる皇帝と朝貢する蕃夷諸国」という美しい理念の外形を辛うじて保っていた明代の通商外交体制も、海陸の辺縁からの衝撃で転換を迫られ、やがて清代には互市が広がる。西洋とは異なる「もう一つの自由貿易」への構造変動を、日本の役割も含めて跡づけ、新たな歴史像を実証。
本書の標題とした朝貢・海禁・互市は、中国を中心とした東アジアの通商と外交の展開を理解するうえで、鍵となる概念である。朝貢は中国の皇帝と諸外国の君長とのあいだでおこなわれる外交儀礼の制度である。海禁は、海防を目的として実施された航海制限や、居住制限を意味した。互市は広義には交易のことであるが、貿易の制度としては、政府の管理のものに交易の場所を制限し、徴税や積荷・人員の臨検をともなう管理貿易を意味した。
一三八四年(洪武十七)以降、明は海防を強化するとともに、民間の貿易を禁圧し、朝貢と貿易とを一体化する政策に転じた。明の海禁は、海防にかかわる航海制限だけでなく、民間貿易の禁止という特殊な政策を意味することとなった。
この三者は、別の領域の制度でありつつも、密接な関係のもとに通商と外交の基軸を構成していた。三者がどのようにつながり、相互にどのような作用を及ぼしたのかという問題を解くことによって、十四世紀後半から十九世紀前半におよぶ時期の東アジアの通商と外交の展開、およびその歴史的な意味を明らかにすることができるであろう。このような見通しのもとに、一つの試論を提供することが本書の目的である。
……
[「序章」冒頭より]
岩井 茂樹(イワイ シゲキ)
1955年 福岡県に生まれる
1980年 京都大学大学院文学研究科修士課程修了
現 在 京都大学人文科学研究所教授、博士(文学)
主 著 『中国近世財政史の研究』(京都大学学術出版会、2004年)
目次
凡例
序 章 朝貢体制論の再検討
1 天朝にとっての朝貢と互市
2 制度と概念
3 朝貢体制の論理とその性格
第1章 明の朝貢拡大策と礼制の覇権主義
はじめに
1 覇権の構造
2 対外関係の再構築
3 礼制の反対と屈折
小結
第2章 貿易の独占と明の海禁政策
はじめに
1 宋元時代の市舶司と貿易の独占
2 自然経済と礼法秩序
3 対日経済制裁としての海禁の強化
4 貿易独占と朝貢一元体制
小結
第3章 辺境社会と「商業ブーム」
はじめに
1 越境する華人たち
2 辺縁の商業ブーム
3 中心と辺縁
4 辺縁をかけめぐる銀
小結
第4章 16世紀中国における交易秩序の模索と互市
はじめに
1 「祖宗の典章」
2 広東、礼部、戸部
3 抽分制度の確立
4 「一切の法」と客綱
5 「不治もてこれを治む」
小結
第5章 清代の互市と「沈黙外交」
はじめに
1 「反清復明」の終焉と海禁の解除
2 互市の遠心性と合理性
3 正徳新令をめぐる紛糾
4 1740年のジャワ華僑虐殺事件と互市
小結
第6章 南洋海禁の撤回とその意義
はじめに
1 南洋海禁とその前後
2 海外華人情報と海防
小結
終 章 互市における自由と隔離
はじめに
1 朝貢・海禁・互市の相渉
2 独占と自由
3 互市における自由
4 政権と商人との互動
5 外交への消極性
6 「互市諸国」の概念
7 貿易の管理と隔離
終わりに
注
引用文献書目
後書き
索引