歴史家と少女殺人事件 レティシアの物語 Laëtitia, ou la fin des hommes
価格:3,960円 (消費税:360円)
ISBN978-4-8158-0993-5 C3022
奥付の初版発行年月:2020年07月 / 発売日:2020年07月上旬
18歳の女性が誘拐・殺害された「三面記事」事件。だが、大規模な捜査と政治の介入によって、それはスキャンダラスな国家的事件となった。作者=歴史家は自ら調査を進め、被害者の生の物語を語り始める。そこから明らかになる「真実」とは――。メディシス賞、ル・モンド文学賞受賞作。フランスでテレビドラマ化。
レティシア・ペレは二〇一一年一月十八日から十九日にかけての夜に誘拐された。彼女はロワール=アトランティック県のポルニックに住む十八歳のウェイトレスだった。双子の姉とともに里親家庭に預けられ、ごく平凡な生活を送っていた。殺害犯は二日後に逮捕されたが、レティシアの遺体が発見されるまでにはなお数週間を要した。
事件はフランス全土に激しい動揺を与えた。共和国大統領ニコラ・サルコジは、この殺害犯に対する司法の追跡調査のあり方を批判し、判事たちの責任を問い、彼らの「過失」に対する「制裁」を約束した。大統領の発言は、司法史上かつてない大規模なストライキを引き起こした。二〇一一年八月には――事件中の事件として――里親の男性がレティシアの姉に対する性的暴行の容疑で取り調べを受けた。今日なお、レティシア自身が、里親あるいは殺害犯によって強姦されたか否かは定かでない。
この三面記事事件はあらゆる点で例外的である――与えた衝撃、メディアと政治における反響、遺体発見のために用いられた大規模な手段、十二週間にわたって続けられた捜査、共和国大統領の介入、司法官によるストライキ。もはや単なる事件ではなく、国家的事件だった。
しかし、レティシアについてわれわれは何を知っているだろうか――人目を引く三面記事事件の被害者だったことを除いて。何百もの記事やルポルタージュが彼女について語ったが、それはただ失踪の夜と裁判について語るためだった。ウィキペディアに彼女の名前が登場するのは、殺害犯のページの「レティシア・ペレ殺害事件」という項目においてである。彼女は自分の殺害犯を心ならずも有名にし、自分はその……
[本書冒頭より/注は省略]
イヴァン・ジャブロンカ(イヴァン ジャブロンカ)
1973年生まれの歴史家・作家。現在、パリ第13大学教授。『私にはいなかった祖父母の歴史』(2012年)によりギゾー賞、オーギュスタン・ティエリ賞、歴史書元老院賞を受賞。本作『歴史家と少女殺人事件――レティシアの物語』(2016年)は文学的な観点からも高く評価され、メディシス賞、ル・モンド文学賞を受賞。ほかの著作に『歴史は現代文学である』(2014年)、『公正な男性』(2019年)など。
真野 倫平(マノ リンペイ)
1965年、名古屋市に生まれる。パリ第8大学博士課程修了(文学博士)。
現在、南山大学外国語学部教授
著訳書 『死の歴史学』(藤原書店、2008年)
『近代科学と芸術創造』(編著、行路社、2015年)
『グラン=ギニョル傑作選』(編訳、水声社、2010年)
ジャブロンカ『歴史は現代文学である』(訳、名古屋大学出版会、2018年)
ミシュレ『フランス史I・II 中世』(共編訳、藤原書店、2010年)他
目次
1 ジェシカ
2 不在現場
3 カッターを突きつけられた母子
4 ル・カスポ
5 隅っこのパパ
6 「一縷の望み」
7 言葉なき子供時代
8 誘拐致死
9 判事の前の二人の少女
10 特別な一日
11 「傾斜屋根のある」家
12 近親者と歩み寄る者たち
13 デッサン
14 三面記事事件の誕生
15 里親家庭
16 泥濘の中で
17 パトロン氏
18 「性犯罪の多重累犯者」
19 「私はあなたの奥さんじゃない」
20 パトロン=サルコジ枢軸
21 マシュクール高校
22 人間としての犯罪者
23 大西洋沿岸地域
24 トルー・ブルー池
25 レティシアの肖像
26 「制裁」と「過失」
27 フェイスブック上のレティシア
28 犯罪ポピュリズム
29 美しい夏
30 フロンド
31 「たいようがたのしかた」
32 生きている顔
33 陰鬱なレティシア
34 「釣りはうまくいったかい?」
35 年越しパーティー
36 鑑定員の時代
37 遺書
38 のこぎりを持った男
39 最後の日々
40 その後の生活
41 一月十八日午前
42 ブリオール池
43 一月十八日午後
44 葬儀
45 一月十八日晩
46 取り引きの終わり
47 「あの子はおれに「やめて」と言った」
48 「書類」と「売女」
49 原初的な欠落
50 女性殺し
51 夜中の沈黙
52 不正の領分
53 翌日
54 三面記事事件、民主的事件
55 正義
56 レティシアは私だ
57 レティシアの時代
訳者あとがき
訳注
主要参考文献
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