歴史教育の比較史
価格:4,950円 (消費税:450円)
ISBN978-4-8158-1011-5 C3022
奥付の初版発行年月:2020年12月 / 発売日:2020年12月下旬
「歴史認識」を語る前に――。なぜ歴史をめぐって国どうしが争うのか。世界各地で歴史はどのように教えられてきたのか。歴史家と教育学者の共同作業により、自国史と世界史との関係を軸に、四つの地域の現在までの「歴史教育」の歴史を跡づけ、歴史とは何か、教育とは何かを問い直す、未曾有の試み。
本書は、世界史教育と自国史教育という表裏一体をなす二つの教育活動に注目し、中国、オスマン帝国/トルコ共和国、ドイツ、アメリカの四ヵ国におけるそれらの発展過程を描き出すことで、歴史を教えるという行為が持つ歴史的な多様性に光を当てるものである。
日本の高校に学んだことがある者なら、誰でも一度は、なぜ世界史と、自国史としての日本史が分けて教えられているのかという疑問を抱いたことがあるのではないだろうか。中学校の教育課程にそのような区別はなく、逆に大学では日本史学や東洋史学、そして西洋史学を学べる学科は普通に存在するのに対し、世界史学を掲げる機関は今も限られる。そもそも日本は世界の一部ではなかったのかという素朴な疑問は、多くの高校生にとってそれほど遠いものではないはずである。
このありふれた疑問は、なぜ日本史・東洋史・西洋史の三科目ではないのかという問いと、反対になぜ一科目にまとめられないのかという問いの二つの側面を持っているが、それらに同時かつ的確に答えることは容易ではない。
もちろん、今日の世界史―日本史体制が成立した経緯を説明することは、ある程度できる。ある程度と限定をつけたのは、特に世界史という科目が成立する経緯については必ずしも明確ではないところがあるためだが、基本的……
[「序章」冒頭より]
近藤 孝弘(コンドウ タカヒロ)
早稲田大学教育・総合科学学術院教授。博士(教育学)。1963年生まれ。専門は政治・歴史教育の比較研究。ドイツならびにオーストリアを主なフィールドとして、民族と国家を超える社会の形成を目指す教育政策の可能性について研究している。主著に『ドイツ現代史と国際教科書改善――ポスト国民国家の歴史意識』(名古屋大学出版会、1993年)、『国際歴史教科書対話――ヨーロッパにおける「過去」の再編』(中公新書、1998年)、『自国史の行方――オーストリアの歴史政策』(名古屋大学出版会、2001年)、『ドイツの政治教育――成熟した民主社会への課題』(岩波書店、2005年)、『政治教育の模索――オーストリアの経験から』(名古屋大学出版会、2018年)など。
岡本 隆司(オカモト タカシ)
京都府立大学文学部教授。博士(文学)。1965年生まれ。専門は東洋史・近代アジア史。主著に『近代中国と海関』(名古屋大学出版会、1999年)、『属国と自主のあいだ――近代清韓関係と東アジアの命運』(名古屋大学出版会、2004年)、『中国の論理――歴史から解き明かす』(中公新書、2016年)、『中国の誕生――東アジアの近代外交と国家形成』(名古屋大学出版会、2017年)、『「中国」の形成――現代への展望』(岩波新書、2020年)など。
武 小燕(ウ ショウエン)
名古屋経営短期大学子ども学科准教授。博士(教育学)。1975年生まれ。専門は比較教育学、教育課程論。中国と日本の愛国教育、歴史教育、道徳教育および日本社会の多文化教育について研究している。主著に『改革開放後中国の愛国主義教育――社会の近代化と徳育の機能をめぐって』(大学教育出版、2013年、日本比較教育学会平塚賞)、共著『変容する中華世界の教育とアイデンティティ』(国際書院、2017年)など。
小笠原 弘幸(オガサワラ ヒロユキ)
九州大学大学院人文科学研究院イスラム文明学講座准教授。博士(文学)。1974年生まれ。専門はオスマン帝国史、トルコ共和国史。主著に『イスラーム世界における王朝起源論の生成と変容――古典期オスマン帝国の系譜伝承をめぐって』(刀水書房、2014年)、『オスマン帝国――繁栄と衰亡の六〇〇年史』(中公新書、2018年)、編著に『トルコ共和国 国民の創成とその変容――アタテュルクとエルドアンのはざまで』(九州大学出版会、2019年)など。
貴堂 嘉之(キドウ ヨシユキ)
一橋大学大学院社会学研究科教授。博士(学術)。1966年生まれ。専門はアメリカ合衆国史、移民・人種問題。主著に『アメリカ合衆国と中国人移民――歴史のなかの「移民国家」アメリカ』(名古屋大学出版会、2012年)、『移民国家アメリカの歴史』(岩波新書、2018年)、『南北戦争の時代――19世紀』(岩波新書、2019年)、編著に『「ヘイト」の時代のアメリカ史――人種・民族・国籍を考える』(彩流社、2017年)など。
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
序 章 歴史教育を比較史する[近藤孝弘]
第1章 中国(1)[岡本隆司]
――史学から俯瞰する
はじめに
1 史学という前提
2 宋学という教育と歴史
3 史学の変遷――明清時代
4 歴史教育へ
むすびに代えて
第2章 中国(2)[武 小燕]
――共和国の歴史教育:革命と愛国の行方
はじめに
1 東洋史学の影響と主体性の追求
2 実証史学の影響と民族主義教育の高まり
3 唯物史観の優位とその動揺
おわりに
第3章 オスマン帝国/トルコ共和国[小笠原弘幸]
――「われわれの世界史」の希求:万国史・イスラム史・トルコ史のはざまで
はじめに
1 普遍史の時代――中世・近世のイスラム世界
2 万国史とイスラム史の相克――近代オスマン帝国
3 トルコ史的世界史叙述の挑戦――トルコ共和国
おわりに
第4章 ドイツ[近藤孝弘]
――果たされない統一
はじめに
1 多様性のなかの一体性
2 学校における歴史教育の始まり
3 ドイツ帝国における爆発的な拡大
4 緩慢な変容
おわりに
第5章 アメリカ合衆国[貴堂嘉之]
――近代から始まった国として
はじめに
1 アメリカ合衆国の独立と市民教育――一七世紀から一九世紀
2 分水嶺としての南北戦争と愛国教育――南北戦争~二〇世紀転換期
3 革新主義期の教育改革から現代の歴史教科書へ
おわりに――二一世紀アメリカ歴史教育の行方
終 章 歴史教育学の展望[近藤孝弘]
あとがき
図表一覧
索引
執筆者紹介