災後日本の電力業 歴史的転換点をこえて
価格:4,950円 (消費税:450円)
ISBN978-4-8158-1015-3 C3033
奥付の初版発行年月:2021年02月 / 発売日:2021年02月上旬
東日本大震災と原発事故は、日本電力業のすがたを根底から変えてしまった。福島への補償から電源エネルギー構成の再編、10電力体制の終焉まで、政策と経営戦略の包括的検討により原発事故前後25年の実態を解明、真の課題のありかを特定し、電力業の歴史的再生へむけた道筋を示す。
2011(平成23)年3月11日午後2時46分、マグニチュード9.0に達する巨大地震、東北地方太平洋沖大地震が発生した。この地震とそれが引き起こした大津波は、第2次世界大戦後の日本で最大規模となる自然災害、東日本大震災を引き起こし、震災による死者および行方不明者は2万人近くに及んだ。
東日本大震災は、東京電力・福島第一原子力発電所事故をともなった点でも、特筆すべき歴史的出来事であった。福島第一原発事故は、原子力施設の事故・故障等の事象を評価する国際原子力事象評価尺度(INES)で、史上最悪と言われた1986(昭和61)年のチェルノブイリ原子力発電所事故(旧ソ連)と並ぶレベル7(「深刻な事故」)とみなされるに至り、現在でも多くの住民が避難を余儀なくされている。日本全国で原子力発電に対する批判が高まり、2012年5月にはいったん、国内のすべての原発が運転を停止する事態となった。そして、2012年7月には東京電力が実質的に国有化され、国主導で同社の再建が図られることになり、今日にいたっている。日本の電力政策全体もゼロベースでの見直しを迫られ、2016年4月には電力小売市場の全面自由化が、2020(令和2)年4月には発送電分離が、それぞれ実施された。
本書の課題は、電力小売市場の部分自由化が始まった1995(平成7)年以降福島第一原発事故から10年後の2021年までの約四半世紀の時期を対象にして、日本電力業のあゆみを包括的に明らかにすることにある。本書は、2つの性格をもつ。
ひとつは、日本電力業の最近史という性格である。本書の執筆時点は2020年9月であるが、記述の重点はその時までの25年余の時期に置かれる。
もうひとつは、筆者が2004年に刊行した『日本電力業発展のダイナミズム』……
[「序章」冒頭より]
橘川 武郎(キッカワ タケオ)
1951年生。1983年 東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。青山学院大学経営学部助教授、東京大学社会科学研究所教授、一橋大学大学院商学研究科教授、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授等を経て、現在 国際大学大学院国際経営学研究科教授。著書 『日本電力業の発展と松永安左ヱ門』(名古屋大学出版会、1995年)『日本電力業発展のダイナミズム』(名古屋大学出版会、2004年)『原子力発電をどうするか』(名古屋大学出版会、2011年)『日本石油産業の競争力構築』(名古屋大学出版会、2012年)『東京電力 失敗の本質』(東洋経済新報社、2011年)『応用経営史』(文眞堂、2016年)他多数。
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
序 章 歴史的転換への道
第1章 電力小売部分自由化の時代
――1995~2010年
第1節 頓挫した自由化
第2節 市場の飽和
第3節 電源開発の一巡
第4節 競争の限定性
第5節 ダイナミズム再生の頓挫
第2章 東京電力福島第一原子力発電所事故と原子力安全・保安院
第1節 事故の概要
第2節 原子力安全・保安院をめぐる問題状況
第3節 保安院が認識していながら解決されなかった問題
第4節 保安院が認識していなかった問題
第5節 事故調査委員会も認識しなかった問題
第6節 原子力安全・保安院に対する全体的な評価
第3章 電力小売全面自由化の時代
――2011~2020年
第1節 小売全面自由化と発送電分離
第2節 節電と電化の交錯
第3節 電源構成の激変と政策の混迷
第4節 10電力体制の崩壊
第5節 ダイナミズムは再生するか
終 章 歴史的転換の先にあるもの
参照文献
参照Webサイト
あとがき
図表一覧
事項索引
組織・企業・人名索引