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神仏融合の東アジア史

神仏融合の東アジア史

A5判 726ページ 上製
価格:7,920円 (消費税:720円)
ISBN978-4-8158-1021-4 C3021
奥付の初版発行年月:2021年02月 / 発売日:2021年03月上旬

内容紹介

日本独自の宗教現象だと考えられてきた「神仏習合」。しかし、神信仰と仏教の融合はアジア各地域で広く見られる。インド・中国から北東・東南アジアまで多岐にわたる「神仏融合」の実態を解き明かし、一国史的な認識を超えて新たに日本の宗教文化を捉え直す。

前書きなど

仏法と神信仰の融合は、アジアの各地に広く見られる宗教現象である。日本では、これを「神仏習合」と呼ぶのが長く一般的になっている。本書は、日本に見られる神仏の融合を日本一国の歴史と文化の中で考察するのではなく、広くアジアの歴史と文化の中に位置づけ直し、そこから日本の宗教史、思想史、文化史を再考して、その特質を明らかにしようと試みるものである。

かつて、「神仏習合」は日本独自の宗教現象であり、日本の宗教、日本の文化の大きな特色であるとしばしば説かれた。そして、そうした理解を前提にして「神仏習合という日本独特の宗教構造」のあり方を考察し、「日本の宗教的特質である神仏習合現象の生成と展開の歴史をあきらかにし、それを通して文化全般と社会構造との有機的関係を解明」しようとする研究が進められてきた。しかしながら、この前提は妥当なものとは言えない。日本だけではなく、アジアの多くの国や地域に仏法と神信仰の融合が見られるから、神仏の融合は日本独自の宗教現象とは言えない。

交通手段が発達し、東アジア、東南アジア、南アジアをはじめとして世界の多くの国や地域を容易に訪れることができるようになった今日、また多くの外国人が日本で活動するようになった今日、アジアの多数の国や地域に仏……

[「序章」冒頭より/注は省略]

著者プロフィール

吉田 一彦(ヨシダ カズヒコ)

1955年、東京都に生まれる。1986年、上智大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。現在、名古屋市立大学大学院人間文化研究科教授、博士(文学)。著書、『日本古代社会と仏教』(吉川弘文館、1995年)、『古代仏教をよみなおす』(吉川弘文館、2006年)、『仏教伝来の研究』(吉川弘文館、2012年)、『『日本書紀』の呪縛』(集英社新書、2016年)、『日本宗教史を問い直す』(共編、吉川弘文館、2020年)他

曾根 正人(ソネ マサト)

就実大学名誉教授

荒見 泰史(アラミ ヒロシ)

広島大学大学院人間社会科学研究科教授

髙井 龍(タカイ リュウ)

大谷大学文学部助教

高志 緑(タカシ ミドリ)

日本学術振興会特別研究員

水越 知(ミズコシ トモ)

関西学院大学文学部教授

藤原 崇人(フジワラ タカト)

龍谷大学文学部准教授

大西 和彦(オオニシ カズヒコ)

アジア国際奨学財団研究員

松本 浩一(マツモト コウイチ)

筑波大学名誉教授

二階堂 善弘(ニカイドウ ヨシヒロ)

関西大学文学部教授

高橋 早紀子(タカハシ サキコ)

愛知学院大学文学部講師

脊古 真哉(セコ シンヤ)

同朋大学仏教文化研究所客員所員

松尾 恒一(マツオ コウイチ)

国立歴史民俗博物館教授

関山 麻衣子(セキヤマ マイコ)

三木市教育委員会

上島 享(ウエジマ ススム)

京都大学大学院文学研究科教授

伊藤 聡(イトウ サトシ)

茨城大学人文社会科学部教授

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序 章 東アジアの神仏融合と日本の神仏融合[吉田一彦]

第1章 多神教としての仏教とその東流[曾根正人]
――東アジア仏教における神仏信仰の基盤
はじめに――神仏習合論の現状と問題点
一 研究史におけるインド仏教と東アジア仏教
二 インド仏教の多神教世界
三 インド仏教世界の神々
四 多神教としてのインド仏教の中国流入
おわりに――東アジアの神仏関係の解明へ

第I部 中国における神仏融合の歴史的諸相
第2章 「神」「仏」理解からみた中国宗教[荒見泰史]
はじめに
一 言語からみた信仰・宗教上の理解の差異――「天」、「神」、「仏」を中心に
二 中国における「天」、「神」、「仏」の位置関係
おわりに

第3章 敦煌における儒教と仏教[髙井龍]
はじめに
一 敦煌における儒教社会
二 伯三八〇八「長興四年中興殿応聖節講経文」考
三 伯三〇九三「仏説観弥勒菩薩上生兜率天経講経文(擬)」考
四 儒教社会における講経文
おわりに

第4章 宋代の水陸会にみる三教融合[高志緑]
―─南宋仏画における普度儀礼と使者を中心に
はじめに
一 水陸会に招請される三教の諸尊
二 水陸会に内包される普度儀礼と追善供養
三 南宋仏画に描かれる使者の役割と分類
おわりに

第5章 明清時代の祠廟信仰と仏教[水越知]
――城隍神の冥界裁判を中心に
はじめに
一 中国における冥界裁判の観念と城隍神の台頭
二 城隍神の冥界裁判
三 “幽明一体”の司法
四 空間から見た城隍廟
おわりに

第II部 東アジアにおける神仏融合の地域的展開
第6章 祭山儀にみる契丹の信仰[藤原崇人]
――謁菩薩堂儀の位置づけをめぐって
はじめに
一 契丹とその後継国家における信仰
二 祭山儀について
三 契丹後期における祭山儀と仏教
おわりに

第7章 ベトナムの神仏融合と道教[大西和彦]
はじめに
一 ベトナムの「神道」における道教の優勢
二 李朝期の神仏融合と巫覡ならびに道教
三 貝渓寺の菩薩真人
四 後黎朝期に観音を祭祀する女巫と符水師
五 柳杏聖母信仰と仏教の関係に介在する道教
おわりに

第8章 台湾における道教と仏教[松本浩一]
はじめに
一 台湾の道教と仏教
二 台湾の宗教儀礼
おわりに

第9章 マレーシアの寺廟にみる神仏融合[二階堂善弘]
はじめに
一 マレーシアの寺廟
二 民間信仰の受容と展開
三 マレーシアの民間宗教の発展と独自性
おわりに――マレーシアにおける神仏融合

第III部 東アジアのなかの日本の神仏融合
第10章 鬼と神と仏法[吉田一彦]
――インド・中国・日本:役行者の孔雀王呪法を手がかりに
はじめに
一 『続日本紀』に記される役小角
二 『日本霊異記』上巻第二八の役優婆塞
三 孔雀王経典の翻訳
四 奈良時代における孔雀王経典と孔雀王信仰
五 役行者と葛城峯一語主大神の関係
六 孔雀王経典における仙と鬼神
おわりに――鬼神と仏法

第11章 地天の変容[高橋早紀子]
――毘沙門天の脚下で
はじめに
一 地天単独系統の成立と展開
二 地天・二鬼系統の成立と展開
三 地天に支えられた毘沙門天の日本的展開
おわりに

第12章 ガラン神考[脊古真哉]
――三河・信濃・遠江国境地域から見た神仏交渉史の一断面
はじめに
一 中国の伽藍神
二 日本禅宗における中国伽藍神の受容
三 伽藍神と土地神
四 顕密仏教の伽藍神
五 民俗宗教のガラン神
おわりに

第13章 観音・媽祖・マリア[松尾恒一]
――近世長崎における清国海商とかくれキリシタン
はじめに
一 長崎貿易と媽祖信仰
二 キリスト教禁制下における明清国海商の管理
三 航海の女神としての媽祖と観音
四 マリアと観音─―慈母神となった白衣観音
五 潜伏キリシタンのマリア信仰と観音
おわりに

第IV部 日本における神仏融合の歴史的展開
第14章 古代における神仏の融合[吉田一彦]
はじめに
一 中国の神仏融合思想の受容
二 中国の仏書の記述
三 八、九世紀における神宮寺の建立
四 〈護法善神〉の思想の受容
五 〈鎮守〉の思想
六 神仏の聖地としての山――山岳寺院と神信仰
おわりに――日本の神仏融合の歴史的特質

第15章 平安時代における神の変容[関山麻衣子]
――神仏融合と神仏隔離
はじめに
一 神身離脱と神宮寺の建立
二 神の罪の実相
三 神仏関係に求められたもの
四 新羅の神仏融合との比較
おわりに

第16章 中世の神と仏[上島享]
――〈神仏習合〉再考
はじめに――新たな視座を求めて
一 日本古代の神身離脱説話を読みなおす
二 地主神の力
三 新たな神仏習合の進展――神と仏との接近
四 本地垂迹思想形成の歴史過程――その社会的背景
五 和光同塵――神々が果たす独自の役割
おわりに――日本という枠組を超える日本の神々

第17章 中世の神仏関係から近世へ[伊藤聡]
――特に神本仏迹説をめぐって
はじめに
一 神本仏迹説をめぐる研究史
二 中世神道説の出現と本地垂迹説
三 神本仏迹説の登場
四 神本仏迹説の展開
五 吉田神道の神本仏迹説
おわりに

終 章 神仏習合説形成史の批判的考察[吉田一彦]
はじめに
一 宗教の構成
二 辻善之助の学説の成果と問題点
三 津田左右吉の学説の成果と問題点
四 「神仏習合」説の展開と研究の現段階
おわりに

編者あとがき 
図表一覧
索引
執筆者一覧


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