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超伝導接合の物理

超伝導接合の物理

A5判 356ページ 上製
価格:6,380円 (消費税:580円)
ISBN978-4-8158-1028-3 C3042
奥付の初版発行年月:2021年08月 / 発売日:2021年08月下旬

内容紹介

ジョセフソン効果をはじめとした、超伝導界面に現れ得るさまざまな現象は、アンドレーエフ束縛状態という視点から統一的に説明できる。超伝導のもつ対称性や接合先によって界面での挙動が変わる様子を、見通しよく整理。トポロジカル超伝導の背景を深く理解する上でも必読の書。

前書きなど

この著書は、超伝導接合における基礎的な物理の理論をまとめたものである。超伝導体においては、2個の電子がクーパー対と呼ばれる電子対を形成するが、このクーパー対の作るペアポテンシャルと呼ばれる超伝導特有のポテンシャルにより、接合部で超伝導体中に入射した電子がホールとして反射するアンドレーエフ反射という過程が存在する。超伝導体界面で現れるアンドレーエフ反射の存在は、位相干渉効果を作り出し、その結果超伝導のエネルギーギャップ内にアンドレーエフ束縛状態と呼ばれる超伝導固有の束縛状態が形成される。今日アンドレーエフ束縛状態の特殊な状態として、マヨラナフェルミオンと呼ばれる生成と消滅が区別できない準粒子状態が形成されることも明らかになっており、トポロジカル超伝導と呼ばれる新分野の中心的テーマとなっている。したがって、アンドレーエフ束縛状態の視点から超伝導接合のトンネル現象を広く俯瞰することは非常に意義がある。本書はアンドレーエフ束縛状態を軸として超伝導接合、界面で現れる基礎的現象を理論的に俯瞰したものである。

アンドレーエフ束縛状態の存在は1960年代から知られていた。アンドレーエフ束縛状態は超伝導体と接合した常伝導金属中、磁束芯、磁性不純物など不均一な超伝導において存在する。1990年代、銅酸化物超伝導体のクーパー対対称性の決定が凝縮系物理の重要な問題となったことが契機となり、異方的超伝導体の表面状態の研究が盛んに行われ、その結果表面近傍に局在する表面アンドレーエフ束縛状態(surface Andreev bound states, SABS)が存在することが明らかになった。SABSがエネルギーギャップの中央に形成される場合は、ゼロエネルギー表面アンドレーエフ束縛状態(zero energy surface Andreev bound states, ZESABS)とも呼ばれ、フェルミ面上で符号変化する異方的ペアポテンシャルに起因する。実際、ZESABSは銅酸化物超伝導体がd波対称性を持つことを確定させるうえで重要な役割を果たした。ZESABSはd波だけに限ったものではなく、スピン3重項p波、f波などフェルミ面上でペアポテンシャルが符号変化(位相変化)をする超伝導体で遍く見られるものである。

まず本書第I部で超伝導の基礎について解説する。量子統計力学の基礎事項の復……

[「はじめに」冒頭より/参考文献は省略]

著者プロフィール

田仲 由喜夫(タナカ ユキオ)

1962年生。1990年、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。新潟大学助手・助教授などを経て、現在、名古屋大学大学院工学研究科教授、理学博士。

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

はじめに

第I部 超伝導の基礎

第1章 量子統計力学の復習
1.1 フェルミ-ディラック統計
1.2 ボース-アインシュタイン統計

第2章 第2量子化
2.1 多粒子系の波動関数
2.2 生成消滅演算子
2.3 フェルミ粒子の生成消滅演算子
2.4 場の演算子
2.5 平均場近似

第3章 超伝導の基礎
3.1 超伝導現象
3.2 電子対形成によるフェルミ面の不安定性

第4章 超伝導における平均場の理論
4.1 超伝導の基底状態
4.2 BCS理論
4.3 ゴルコフのグリーン関数理論

第5章 異方的超伝導
5.1 平均場理論
5.2 異方的超伝導体におけるペアポテンシャル
5.3 異方的超伝導体におけるゴルコフのグリーン関数

第6章 BdG方程式とアンドレーエフ反射
6.1 不均一超伝導を扱う平均場理論
6.2 アンドレーエフ反射
6.3 アンドレーエフ束縛状態

第7章 アンドレーエフ反射とトンネル現象
7.1 準粒子トンネル効果の理論
7.2 ジョセフソン効果の理論

第II部 表面アンドレーエフ束縛状態と超伝導対称性

第8章 異方的超伝導体における表面アンドレーエフ束縛状態(SABS)
8.1 異方的超伝導体におけるBdG理論
8.2 異方的超伝導体におけるトンネル効果の理論

第9章 異方的超伝導体のジョセフソン効果の理論
9.1 d波超伝導体接合における位相干渉効果
9.2 古崎・塚田理論のd波超伝導体への拡張
9.3 s波/d波超伝導体接合のジョセフソン効果の理論
9.4 d波/d波超伝導体接合のジョセフソン効果の理論

第10章 超伝導体接合におけるスピンに依存したトンネル効果の理論
10.1 強磁性体/超伝導体接合のトンネル効果の理論
10.2 スピン軌道相互作用のある系のトンネル効果の理論

第11章 バリスティック伝導領域での奇周波数クーパー対
11.1 クーパー対対称性の一般化
11.2 ペア対称性とゴルコフのグリーン関数
11.3 ゴルコフのグリーン関数を用いた解析
11.4 準古典近似:アイレンバーガー方程式
11.5 準古典近似に基づく接合系の理論

第12章 拡散伝導領域での超伝導近接効果と奇周波数クーパー対
12.1 超伝導近接効果とは
12.2 ウサデル方程式とは
12.3 ウサデル方程式を用いたs波超伝導体接合の理論
12.4 ナザロフの境界条件
12.5 ナザロフの境界条件の異方的超伝導体接合への拡張
12.6 異方的超伝導体接合の近接効果と超伝導対称性

第III部 トポロジカル超伝導

第13章 表面アンドレーエフ束縛状態とトポロジカル不変量
13.1 トポロジーと物質科学
13.2 量子ホール系とトポロジカル不変量
13.3 分散のないゼロエネルギー表面アンドレーエフ束縛状態
13.4 バルク・エッジ対応と指数定理
13.5 バルク・エッジ対応のより一般の関係
13.6 分散のある表面アンドレーエフ束縛状態とトポロジカル不変量:2次元系の場合
13.7 分散のある表面アンドレーエフ束縛状態とトポロジカル不変量:3次元系の場合

第14章 トポロジカル物質の分類とマヨラナフェルミオン
14.1 トポロジカル物質の周期表
14.2 マヨラナフェルミオン

第15章 トポロジカル超伝導の人工設計
15.1 1次元ラシュバ超伝導体
15.2 トポロジカル絶縁体のエッジ状態を用いた人工設計

第16章 ドープしたトポロジカル物質の超伝導
16.1 超伝導トポロジカル絶縁体
16.2 超伝導ワイル半金属

第17章 トポロジカル結晶超伝導
17.1 ミラー対称性とマヨラナフェルミオン
17.2 結晶の持つ対称性とマヨラナフェルミオン

第18章 マヨラナフェルミオンを超えて

付録A マクミランによるゴルコフのグリーン関数の理論
A.1 一様なs波超伝導体のグリーン関数
A.2 s波超伝導体接合のグリーン関数とジョセフソン電流
A.3 半無限s波超伝導体のグリーン関数
A.4 半無限p波超伝導体のグリーン関数
A.5 異方的超伝導体接合のグリーン関数

付録B リカッチパラメータを用いた超伝導接合系の準古典グリーン関数の解法
B.1 包絡線関数とグリーン関数
B.2 位置推進演算子と準古典グリーン関数
B.3 半無限N/半無限S接合系におけるグリーン関数
B.4 リカッチパラメータによる計算

付録C ウサデル方程式とケルディッシュ形式のグリーン関数
C.1 パラメータ表示で表したウサデル方程式
C.2 の持つ性質
C.3 nの導出
C.4 マトリックスカレントの計算1
C.5 マトリックスカレントの計算2

付録D 巻き付き数の計算

付録E リカーシブグリーン関数法による計算

参考文献
おわりに
索引


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