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近代中国の地域的文脈と対日関係愛国とボイコット

愛国とボイコット 近代中国の地域的文脈と対日関係

A5判 314ページ 上製
価格:4,950円 (消費税:450円)
ISBN978-4-8158-1048-1 C3022
奥付の初版発行年月:2021年11月 / 発売日:2021年12月上旬

内容紹介

中国ナショナリズムの実像――。時に暴力をともなう激しい対日ボイコットはなぜ繰り返されたのか。たんなる外交懸案の解決でも自国工業の振興でもない、それぞれの運動が生じた異なる地域事情と利害・思想を詳らかにするとともに、それらが愛国主義へとつながっていくメカニズムを捉えた力作。

前書きなど

近現代中国に即してナショナリズムの歴史をとらえようとする際、都市を中心に起こった大衆的な愛国運動の考察は不可欠と言える。それらは、不買運動を含む対外ボイコット運動として展開した側面が顕著である。これら愛国運動は、一九〇五年の反アメリカ運動を皮切りに、二〇世紀前半には、特に日本との外交案件をきっかけとして繰り返し展開した。

このような運動のうち、最もよく知られているのは五四運動であろう。一九一九年の五四運動は、六月前半に大きな高揚を迎え、その後も各地で日本に関わる商品の排斥運動が続いた。そのなかでは、学生などによって中国商人が商品を没収される事例が、しばしばみられた。ここで二つの事件を紹介しよう。

一九一九年七月三〇日の晩、蘇州の日本領事館に、上海の三菱会社社員の木下次郎三郎と同社の買辧の李盛従がやって来て、助力を求めた。その話によれば、以下のような紛争があったという。李は、三菱が上海で生産していた紙を蘇州に運び、東和成という店に委託した。紙は朝真観(道教の施設であろう)に保管してあったが、学生団に見つかってしまい、焼却されそうになった。そこで、東和成は地元の警察に訴えたものの、警察も学生を制止……

[「序章」冒頭より]

著者プロフィール

吉澤 誠一郎(ヨシザワ セイイチロウ)

1968年、群馬県に生まれる。現在、東京大学大学院人文社会系研究科教授、博士(文学)。著書、『天津の近代――清末都市における政治文化と社会統合』(名古屋大学出版会、2002年)、『愛国主義の創成――ナショナリズムから近代中国をみる』(岩波書店、2003年)、『清朝と近代世界――19世紀』(岩波書店、2010年)ほか。

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

凡例
巻頭地図

序 章 ナショナリズム研究と対日ボイコット運動
1 はじめに
2 主要な先行研究とその問題意識
3 工業発展か、外交懸案か
4 運動の担い手
5 愛国運動の地域的偏差
6 本書の構成と日中関係史の視点
7 中国におけるボイコット運動の起源

第1章 第二辰丸事件とその地域的背景
1 はじめに
2 事件の端緒と運動の展開
3 領海の問題
4 治安と武器密輸の問題
5 革命派の動向
6 小結

第2章 東南アジア華僑による民国初年の対日ボイコット
1 はじめに
2 運動の発端
3 ボイコットの背景と動機
4 マニラの状況
5 孫文の電報と運動の終幕
6 小結

第3章 懐疑される愛国心
――中華民国四年の排日運動をめぐって
1 はじめに
2 二十一か条要求をめぐる外交交渉
3 中国における反対運動の展開
4 救国儲金という運動形態
5 愛国運動を総括する
6 愛国と厭世
7 小結

第4章 五四運動における暴力と正義
1 はじめに
2 運動の初発
3 学生と政権
4 五月四日事件における暴力と政治
5 小結

第5章 上海五四運動における工界の位置
1 はじめに
2 上海における運動の発端
3 上海における罷市の開始
4 上海における罷工の開始
5 工界という概念の流布
6 工界の組織化の試み
7 小結

第6章 旅順・大連回収運動
1 はじめに
2 二十一か条無効の提起から経済絶交運動へ
3 武漢での展開
4 長沙での展開
5 現地日本人の激昂
6 小結

第7章 五四と五卅のあいだ
1 はじめに
2 工部局と上海の五四運動
3 五卅事件の発生
4 共同租界の条例をめぐる論争
5 五卅運動の要求事項
6 小結

終 章 ボイコット運動の歴史的位相
1 ナショナリズムと大衆運動
2 ボイコットと日中貿易
3 比較の視点


あとがき
文献一覧
図表一覧
索引


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