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中越紛争から多国間対立へ南シナ海問題の構図

南シナ海問題の構図 中越紛争から多国間対立へ

A5判 344ページ 上製
価格:5,940円 (消費税:540円)
ISBN978-4-8158-1054-2 C3031
奥付の初版発行年月:2022年01月 / 発売日:2022年01月中旬

内容紹介

中国の急速な台頭により国際政治の焦点となった危機の構造を、主要な当事者であるベトナム・フィリピンやASEANの動向をふまえて解明、非対称な大国と向きあう安全保障戦略をとらえ、米中対立の枠組みにはおさまらない紛争の力学を浮かび上がらせて、危機の行方を新たに展望する。

前書きなど

本書は、南シナ海問題を、東南アジア諸国連合(ASEAN)、そしてその加盟国であるベトナムとフィリピンに焦点を当てて考察するものである。現在、インド太平洋地域の戦略環境は大きな転換期を迎えており、その基本的な要因は、大国間のパワーバランスの変化にある。米国はその圧倒的な経済力と軍事力で、長年この地域の覇権国であったが、今では中国が急速に経済的かつ軍事的なパワーを増大させ、米国に追い付かんとしている。2000年代から顕在化した中国の台頭は現在、一層進行し、東アジアにおける中国の地域覇権が予想され、同時に懸念が生じている。力強い経済発展が軌道に乗った当初、中国は平和的な台頭を標榜し、周辺国や関係国もそれを期待した。しかし、近年の中国はそうした期待とは違う別の姿を見せ始め、力の増大を背景に、より強硬に自らの安全保障上、地政学上の戦略的利益を主張するようになった。そうした中国と、日本を含む関係国の緊張が表面化しているのが南シナ海である。

南シナ海とは、タイランド湾、トンキン湾につながり、東南アジア諸国(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナム)、台湾、そして中国南部に囲まれた半閉鎖海域である。海域の面積は約350万平方キロメートルであり、そこにはスプラトリー諸島やパラセル諸島など大小合わせて200以上の島嶼が存在する。南シナ海の重要性は、大きく2つの要因に基づいている。第1に、同海域はインド洋と太平洋をつなぐ世界的にも主要な海上交通路の1……

[「序章」冒頭より/注は省略]

著者プロフィール

庄司 智孝(ショウジ トモタカ)

1971年 神奈川県に生まれる
2006年 東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)
現 在 防衛研究所地域研究部アジア・アフリカ研究室長

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

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略語一覧

序 章 南シナ海問題とは何か
――ASEANとベトナム・フィリピンの視点
1 問題の所在――南シナ海問題の複雑さ
2 現代の安全保障課題としての南シナ海――先行研究の視点から
3 ASEANとベトナム・フィリピン――南シナ海問題への対応をめぐって
4 本書のアプローチ――安全保障の諸様相
5 本書の構成

第1章 南シナ海問題の発生(前史~1990年代半ば)
1 問題の前史――「無主」状態から領有権争いへ
2 領有権争いの本格化――現在の構図の形成
3 ベトナムと南シナ海問題――1980年代の展開を中心に
4 ASEANと南シナ海問題
おわりに――南シナ海問題の構図の形成

第2章 南シナ海の「凪」(1990年代半ば~2000年代半ば)
――中国の「微笑外交」
1 ASEANの楽観的展望――対中関係の拡大深化と「行動宣言」の署名
2 ベトナム・中国関係の「凪」――領土国境問題の「部分的」解決
3 フィリピンの対中姿勢の軟化――共同開発の模索
おわりに――南シナ海の短い凪

第3章 南シナ海問題の再燃(2000年代半ば~10年代半ば)
1 中国の南シナ海進出の再活性化――その態様と背景
2 米国の対応――積極的関与と問題の構図の変容
3 ASEANの対応――内部矛盾と平和的解決の追求
おわりに――米国の登場と構図の変化

第4章 対中関係安定化の模索
――ベトナムの対応(1)
1 脅威認識の高まりと「全方位安全保障協力」
2 オイルリグ事案の発生とその経過(2014年5~7月)
3 リグ事案の合意――中国への「政治的信頼」の喪失と新たな方策
おわりに――ベトナムの「幻滅」

第5章 対米安全保障協力の強化
――ベトナムの対応(2)
1 協力の初期段階――きわめて漸進的な発展
2 協力の本格化――「3つのNo」原則の論理と実践
3 オイルリグ事案後の協力の新展開
おわりに――対米安全保障協力のアクセルとブレーキ

第6章 ASEAN、ミドルパワー、そして自助努力
――ベトナムの対応(3)
1 ASEANの活用と限界――域内ポリティクスと2国間協力の追求
2 ミドルパワーとの協力――自助努力の補完
おわりに――ベトナムが追求した「全方位性」

第7章 フィリピンの対応
――アキノ政権の対決姿勢
1 アキノ政権初期の穏健対応
2 スカボロー事案の発生――対決姿勢への転換
3 対応の3形態――外交、同盟、国際法
おわりに――米国主導の地域秩序への信頼

第8章 南シナ海問題の変容(2010年代半ば~現在)
1 米中対立の激化――南シナ海が軍事対立の焦点へ
2 比ドゥテルテ政権の南シナ海政策とASEAN
3 ベトナムの対応――全方位安全保障協力の拡大と深化
おわりに――米中対立とASEANの戦略的自律性

終 章 南シナ海問題の構図
――総括と展望
1 3つの時期区分――2つの嵐と1つの凪
2 中越紛争から多国間対立へ――南シナ海問題の構図の変化
3 主要アクターの役割――ASEANとベトナム・フィリピン
4 規範の効用と限界
5 南シナ海問題の展望――複雑化と拡大の継続


参考文献
南シナ海問題に関する年表
あとがき
初出一覧
図表一覧
索引


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