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近代日本の市場・専売・植民地塩と帝国

塩と帝国 近代日本の市場・専売・植民地

A5判 484ページ 上製
価格:8,800円 (消費税:800円)
ISBN978-4-8158-1055-9 C3033
奥付の初版発行年月:2022年02月 / 発売日:2022年02月上旬

内容紹介

帝国日本の経済と生命を支えた一次産品、塩の生産・流通・消費の動態をトータルに解明、植民地塩の内地への浸透プロセスを専売や瀬戸内塩業も視野にとらえて、忘れられた塩の経済圏の全体像を示すとともに、戦後へとつながる食料、資源の対外依存構造のルーツを描き出す。

前書きなど

古くから食塩は人々の生存に不可欠な商品として流通し、統治機構は食塩の必需性に注目してきた。需要の価格弾力性が低位な食塩は、課税による消費量の変化が少ない。そこで、しばしば統治機構は食塩を安定的歳入源として財政運営に利用した。たとえば、古代中国では解州塩池(現・山西省運城市)をめぐる争奪が頻繁に発生し、漢代より同国の塩専売制は国内社会と対外関係の変容を規定した(佐伯1987,7-59)。日本でも古代には調庸塩の貢納地域が存在し、中世には一部の荘園が年貢塩を徴収した(清水1947,245-61;廣山2016,14-5)。さらに、近世には多くの藩が塩専売制度を導入し、近代には同制度を日本と中国、イタリア、オーストリアなどが運用した(堀江1933,268-76;吉永1982,379-443)。このように古代から近代までを通じ、食塩は必需的な食料であると同時に歳入源でもあり続けてきたが、なかでも近代には商品特性の変化と消費用途の大幅な拡大が生じた。

今日においても食塩は身近な最終消費財のひとつであるが、2019年日本の家庭・飲食店等食塩消費量13.5万トンは合計消費量781.5万トンの2%にすぎない。現代の日本は食塩の98%を中間財消費に充当し、原料として食品(漬物・醬油・味噌・麺類など)、化学薬品(曹達灰・苛性曹達・塩素など)、染料、合……

[「序章」冒頭より/注は省略]

著者プロフィール

前田 廉孝(マエダ キヨタカ)

1985年 東京都に生まれる
2008年 慶應義塾大学経済学部卒業
2013年 慶應義塾大学大学院経済学研究科経済学専攻後期博士課程単位取得退学
 日本学術振興会特別研究員(DC1)、西南学院大学経済学部専任講師、同准教授を経て
現 在 慶應義塾大学文学部史学系日本史学専攻准教授 博士(経済学)慶應義塾大学
論 文 “Market-based financing for small corporations during early industrialisation: The case of salt corporations in Japan, 1880s-1910s,” Business History, 2020 (in press / online available); “The futures premium and rice market efficiency in prewar Japan,” Economic History Review, 71 (3), August 2018, pp. 909-37 (co-authored); “Market efficiency and government interventions in prewar Japanese rice futures markets,” Financial History Review, 23 (3), December 2016, pp. 325-46 (co-authored).

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

凡例

序 章 植民地と1次産品・食塩
はじめに
1 問題意識と分析対象
2 先行研究の成果と本書の課題
3 本書の構成

第I部 内地市場と植民地塩

第1章 内地食塩市場の重層的構造と植民地塩
はじめに
1 食塩輸移入の拡大と植民地塩
2 重層的市場構造の形成
3 輸移入塩消費の規模と用途別差異
おわりに

第2章 内地製塩業経営の拡大と資金調達
――香川県綾歌郡宇多津町の製塩会社
はじめに
1 少額資本の集積と製塩会社の簇生
2 製塩会社の安定的経営と株主の配当収益
3 株式保有構造の変容と小株主層の拡大
おわりに

第3章 台湾塩生産の拡大と内地人事業者優遇政策
――台湾人事業者の主導性と補助政策の限界
はじめに
1 内地人製塩事業者の台湾進出計画
2 野崎武吉郎家の台湾塩田経営
3 日露戦後の補助政策強化
おわりに

第4章 関東州塩の輸出余力発生と対中交渉
――外務省・関東都督府の対立と大蔵省
はじめに
1 関東州塩生産の拡大
2 関東州塩の対中輸出協定締結交渉
3 内地塩専売制度による関東州製塩業の包摂
おわりに

第5章 植民地塩の輸移入と取引
――供給主体間の競争と価格・品質の変容
はじめに
1 台湾塩移入の開始と動揺
2 価格競争とカルテル締結
3 シェア競争と供給主体の大規模化・寡占化
4 植民地塩取引の拡大と大日本塩業の経営
おわりに

第6章 醬油醸造業の原料選択と植民地塩消費
――大規模醸造家・髙梨兵左衛門家の事例
はじめに
1 醬油生産拡大と原料調達戦略転換
2 小麦調達と原料産地の近接化
3 大豆調達の多様化と取引先の集中
4 内地塩調達の中断・再開と植民地塩
おわりに

第II部 政策・専売と植民地塩

第7章 内地製塩業政策と台湾塩専売制度
――1894-1903年
はじめに
1 外国塩輸入防遏構想と台湾塩
2 台湾塩専売制度の導入と農商務省の対応
3 農商務省の製塩業政策方針と塩専売制度案
4 内地製塩業政策の展開と終焉
おわりに

第8章 大日本塩業協会の活動と農商務省
はじめに
1 設立目的・活動方針の不一致
2 会員の多様化と役員の固定化
3 会報発行活動と農商務省の情報提供
おわりに

第9章 塩専売法施行と制度批判の高揚
――1904-08年
はじめに
1 塩専売法案の策定
2 塩専売法案の審議と修正
3 主税局管轄期の制度運用と小売価格高騰
4 改正塩専売法案・塩専売法廃止法案の審議
おわりに

第10章 塩専売制度の改定と「転換」
――1907-19年
はじめに
1 塩専売制度の改定
2 製塩地整理と台湾・関東州塩供給
3 官費回送制度確立と塩専売事業益金の硬直化
4 塩専売制度の「転換」
おわりに

第11章 製塩地整理と塩専売法違反
――坂出専売支局管内の事例
はじめに
1 監視体制の整備
2 塩専売法違反の認知と取締
3 主産地の塩専売法違反
おわりに

第12章 売渡価格全国一律化と超過需要の発生
はじめに
1 VECモデルの利用と価格データ
2 売渡価格全国一律化と地方都市の卸売価格形成
3 価格・需給の連動性断絶と超過需要
おわりに

終 章 帝国日本の「膨張」と植民地産1次産品
はじめに
1 食塩市場の政策・専売
2 植民地塩のインパクト
3 結論と展望

参考文献
あとがき
初出一覧
図表一覧
索引


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