日本探偵小説を読む 偏光と挑発のミステリ史
価格:2,640円 (消費税:240円)
ISBN978-4-8329-3383-5 C1095
奥付の初版発行年月:2013年03月 / 発売日:2013年04月中旬
ミステリは戦前から現在までたくさんの愛読者を生み出していたジャンルだが、従来の日本文学研究では傍流としてほとんど扱われてこなかった。しかし、北海道大学においては21世紀に入ってミステリ研究が活発化し多数の論文が発表された。本書では北大の日本文学研究者たちが、江戸川乱歩をはじめ、松本清張、京極夏彦など、各時代を代表する作家の作品を縦横無尽に読み解いていく。気鋭の研究者たちによる、日本文学研究とミステリの垣根を超える試み。
日本文学研究とミステリの垣根を超える試み
諸岡 卓真(モロオカ タクマ)
一九七七年福島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。北海道大学大学院文学研究科博士後期課程修了。現在、北海道大学大学院文学研究科専門研究員。博士(文学)。著書に『現代本格ミステリの研究』(北海道大学出版会、二〇一〇年)がある。専門はミステリ論、テレビゲーム論。
成田 大典(ナリタ ダイスケ)
北海道大がう大学院文学研究科博士課程
井上 貴翔(イノウエ キショウ)
一九八一年大阪府生まれ。大阪大学文学部卒。現在、北海道大学大学院文学研究科博士後期課程、札幌大谷大学・北海道情報大学非常勤講師。論文に「Desire “for”/“immanent to” the fingerprint」(『北海道大学大学院文学研究科研究論集』第一一号)などがある。専門は日本近現代文学・文化。
押野 武志(オシノ タケシ)
一九六五年山形県生まれ。東北大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。現在、北海道大学大学院文学研究科教授。博士(文学)。著書に『宮沢賢治の美学』(翰林書房、二〇〇〇年)、『童貞としての宮沢賢治』(ちくま新書、二〇〇三年)、『文学の権能││漱石・賢治・安吾の系譜』(翰林書房、二〇〇九年)などがある。
高橋 啓太(タカハシ ケイタ)
一九七七年北海道生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士後期課程修了。現在、北海道大学大学院文学研究科専門研究員。博士(文学)。論文に「武田泰淳「審判」に見る「文学」の「政治」性││戦後文学再検討の視座」(『昭和文学研究』第六三集、二〇一一年)などがある。
近藤 周吾(コンドウ シュウゴ)
北海道大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。藤女子大学文学部非常勤講師、富山商船高等専門学校教養学科専任講師などを経て、現在、富山高等専門学校一般教養科准教授。共著に『モーツァルトスタディーズ』(玉川大学出版部、二〇〇六年)、『太宰治研究』(和泉書院、二〇〇七~二〇一一年)などがある。
横濱 雄二(ヨコハマ ユウジ)
一九七二年北海道生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。同助教を経て、現在、甲南女子大学文学部専任講師。博士(文学)。共著に『天空のミステリー』(青弓社、二〇一二年)などがある。専門は日本近現代文学および現代視聴覚文化。
小松 太一郎(コマツ タイチロウ)
一九七七年北海道生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。論文に「後藤明生「何?」論」(『国語国文研究』第一二六号)、「“挟み撃ち”にされる1DK居住者││後藤明生「もうひとつの部屋」論」(『日本近代文学会北海道支部会報』五)などがある。専門は日本近現代文学における都市/郊外/家族をめぐる言説・表象分析。
目次
まえがき
戦 前 編
「一寸法師」のスキャンダル
――江戸川乱歩と新聞小説……成田大典
一 新聞小説としての「一寸法師」
二 娯楽としての犯罪
三 美醜という見世物
四 差別する眼差し
五 現実と虚構の曖昧化
六 スキャンダラスな死
指紋と血の交錯
――小酒井不木「赦罪」をめぐって……井上貴翔
一 はじめに
二 認知されていく 〈指紋法〉
三 指紋言説の二つの編成
四 “血”の連続と断絶
五 “徴”の過剰
六 おわりに
戦後編Ⅰ
坂口安吾ミステリの射程
―― 『荒地』派詩人たちとの交錯……押野武志
一 はじめに
二 近・現代詩殺人事件
三 『荒地』派と戦後ミステリ
四 探偵小説論とファルス論との接点
五 叙述トリックとしてのファルス
六 おわりに
「終戦直後の婦人」の創出
――松本清張『ゼロの焦点』……高橋啓太
一 はじめに
二 『ゼロの焦点』における「過去」と「現在」
三 「終戦直後の婦人」とは何か
四 「終戦直後の婦人」としての佐知子
五 『ゼロの焦点』と占領期表象の問題
帰郷不能者たちの悲歌
――水上勉『飢餓海峡』論……近藤周吾
一 はじめに
二 〈社会派推理〉 から 〈人間〉 へ
三 北海道と若狭をつなぐ
四 笠井潔への反論
五 故郷というテーマ
六 おわりに
戦後編Ⅱ
もうひとつのクローズドサークル
―― 『八つ墓村』と『屍鬼』……横濱雄二・諸岡卓真
一 開かれた閉鎖空間
二 物語と反復
三 遡行と緊迫
四 閉鎖の反復
五 閉塞の緊迫
六 なぞりかえすこと
〈わたしのハコはどこでしょう?〉
――赤川次郎「徒歩十五分」をめぐって……小松太一郎
一 はじめに
二 新参団地居住者の「視線」
三 戦略としての「迷子」
四 意外なる「真犯人」
現 代 編
憑物落し、あるいは二つの物語世界の相克
――京極夏彦『姑獲鳥の夏』……横濱雄二
一 はじめに――姑獲鳥の位置
二 二つの世界の構造化
三 二つの物語世界の位置づけ
四 可能世界と経験世界の二重性
五 物語世界の結びつき
サスペンスの構造と
『クラインの壺』『ジェノサイド』の比較考察……大森滋樹
一 サスペンスの原理的分析
二 探偵小説とサスペンス時空間
三 高度経済成長と時空間コントロール
四 岡嶋二人『クラインの壺』のバーチャル時空間
五 高野和明『ジェノサイド』のバーチャル時空間
創造する推理
――城平京『虚構推理』論……諸岡卓真
一 はじめに――謎解きの時代
二 超自然的な力の導入
三 後期クイーン的問題
四 謎の不在
五 想像力の怪物
六 創造する推理
七 当事者の物語
八 安全弁としての超能力
九 おわりに――上書きされる世界で
三・一一以降のミステリ的想像力
―― 「あとがき」に代えて
関連書
『夜明けの睡魔』(瀬戸川猛資)
『深夜の散歩』(福永武彦・中村真一)
『黄色い部屋はいかに改装されたか?』(都筑道夫)
『快楽としてのミステリー』(丸谷才一)
『現代本格ミステリ研究』(諸岡卓真)
『文学研究は何のため』(長尾輝彦)