増補改訳 ビキン川のほとりで 沿海州ウデヘ人の少年時代
価格:2,420円 (消費税:220円)
ISBN978-4-8329-3385-9 C1039
奥付の初版発行年月:2014年04月 / 発売日:2014年04月下旬
2001年に刊行された『ビキン川のほとりで』(現在品切れ中)の増補改訳版。本書のもとになっているのは,ロシア沿海州の少数民族ウデヘの元教師が,訳者・津曲の勧めで書きためたウデヘ語・ロシア語対訳の自伝原稿である。本来,言語学のテキスト資料として意図したものであるが,極東少数民族の近代の暮しぶりが活きいきと描写されており,読み物としておもしろく,また民族自身による近現代史の証言として,学術的にも他に例を見ないユニークな資料的価値を有している。感受性豊かな少年の目から見た伝統的狩猟採集民としての生活や,ソビエト時代の学校の様子,人々の暮し,そして戦争の影などが,臨場感を込めて語られており,少数民族のライフヒストリーの記録としてきわめて貴重である。ウデヘ人は,黒沢映画で有名な『デルス・ウザーラ』(V. アルセーニエフ著)にも登場する極東少数民族であり,本書のなかにも著者の父がアルセーニエフの探検に同行したというエピソードが含まれている。今回の増補版では,旧版の章立てを再構成して訳文を改訂するとともに,旧版以後の少年から青年へと成長していく過程を第2部として増補する。
A.カンチュガ(アレクサンドル・アレクサンドロヴィチ・カンチュガ)
(Александр Александрович Канчуга)
ウデヘ人。1934年11月2日ロシア沿海州ポジャルスキー地区カヤル村生まれ。父アレクサンドル・ペトローヴィチ・カンチュガ(1910-1974),母ニーナ・ガリモヴナ・カンチュガ(1911-1974)。1937年メタヘザ村へ,40年にはシャイン村に転居。43年から53年まで学校に通ったあと,ハバロフスクの師範大学で学ぶ。ロシア語と文学の教師として56年から教職につく。58年,ロシア人女性ファイナ・ニコラエヴナと結婚。59年からクラスヌィ・ヤール村に転居。65年から69年まで通信教育でウスリー国立教育大学文学部を卒業,高等教育学士。69年から81年まで教務部長,81年から90年まで校長を務める。93年,教職を退き,同年から94年までクラスヌィ・ヤール村建設部長として勤務。定年退職後,年金生活に入る。一男一女は独立。妻を2004年に見送ってからは同村で一人暮し。
津曲 敏郎(ツマガリ トシロウ)
1951年福岡県生まれ,北海道に育つ。北海道大学文学部卒業,同大学院修了後,北海道大学助手,小樽商科大学助教授,同教授を経て,現在北海道大学大学院文学研究科教授。専門は北方少数民族言語学,特にツングース諸語の記述的・類型的研究。1988年以来,中国やロシアをフィールドにツングース諸語の現地調査に従事。96年から毎年クラスヌィ・ヤール村を訪れ,著者との親交が続いている。著書・訳書に,『満洲語入門20講』(大学書林,2002年),『北のことばフィールド・ノート―18の言語と文化』(編著,北海道大学図書刊行会,2003年),『ウデヘの二つの昔話』(編訳,かりん舎,2004年)など。
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
はじめに――ビキン川のほとりの出会い
第一部 生い立ちの記
1. 幼い日の思い出
一人歩きの記憶/中国人の残した菜園/小川に落ちる/メタヘザからシャインへ/兄と初めてサケを獲る/サケのたいまつ漁/サケの処理/サケの産卵/冬の産卵
2. 父が語った話
匪賊から逃れて/ジャンシ・キモンコとの出会い/ハバロフスクへ/アニュイへ/アルセーニエフとの出会い/チョウセンニンジンを見つける/内務人民委員部で働く
3. シャインへ引っ越す
メタヘザでの暮らし/シャインへの道中/シャインの住人/村のようす/シャインでの暮らし/狩に行く/いたずら盛り
4. 父のいない暮らし
ジーナが生まれて/父の便りと村の人々/皮なめしと靴作り/春から夏へ/泳ぎを覚える/同じ年ごろの子どもたち/初めての学校/オレグとその家族/母にタバコを見つかる/シャーマンの儀式/祖先はロシア人?/馬にあやうく蹴られる/ポーリャの死/飢えとの戦い/銃の事故/兄の出征/馬橇遊び/つらい肉運び/母の手伝い/お話とシャーマン/初めてのカモ撃ち
5. 父が戦地から帰る
父からの手紙/勝利の知らせ/父の帰りを待つ/父と子どもたち/エウェンキの爺さん/戦地での話/猟の帰りを待つ/父のいる毎日/母を看病する
6. 母の語った民話
タルメニとセレメニ
7. 猟の手ほどき
不猟のお祓い/弟が生まれる/父とタイガへ/アナグマをつかまえる/村に帰って/ミーチャの退学/ミーチャと猟場へ/助け合いと親睦/日食と隕石/タバコ検査/クマの足跡/シワンタイの祠/ギョウジャニンニク採り/手負いグマ
8. 父の教え
クマをしとめる/魚獲り/オスジカ探し/トラの足跡/獲り過ぎた魚/父の神頼み/カンチュガの由来/夜鳴く鳥
9. 森の恵み
オスジカをしとめる/シカを解体して運ぶ/帰途につく/たいまつ漁へ/勇敢なパブリク/再び上流へ/仲間の猟師たち/魚を塩づけにする/シゴンクの由来/子ガモ捕り/お祈り/突然の大雨
10. 父の民話と戦地の話
ニンジン掘りの若者の話/神の恵み/人助け/スターリングラード攻防戦/リョーニャに獲物を分ける
11. 峠の寄宿舎へ
ナイフで怪我をする/急遽帰宅する/診療所で治療/バハラザ山/ゴングラザの気圧計/地名あれこれ/初めてのサケ
12. 家族と離れて
寄宿舎に着く/開校日まで/寄宿学校での暮らし/家への思い/つらい家路/なつかしいわが家/新年の集い/算数克服、再びわが家へ/クマとの遭遇/原爆について学ぶ/命がけの帰省/冬の楽しみ/ミーチャの災難/戦争の傷跡/ミーチャの死
13. ウデヘはどこから来たか?
長老の語る始祖伝説/カンチュガの兄弟とロシア人/大移動と川の名の由来/カンチュガの祖先/ラ・ペルーズの乗組員?/アルショ爺さんと片目おじさん 第二部 都会での学校生活
14. 野外調査の手伝い
七年生を終えて/クマへの仕返し/年長者の知恵/転覆の危機/ナーナイの女/大人たちの思い出話/片目のイトウを刺す
15. ハバロフスクへの旅立ち
友人たち/出発を前に/ハバロフスクへの車窓/初めて見る都会/学校の先生たち/ナーナイのならず者/日本人捕虜と将校/球技とトレーニング
16. 故郷での休暇
兄ペーチャとの再会/弟パヴリクと森へ/父がトラと出会った話/兄ペーチャの病気/父がトラを撃つ/手負いのトラをしとめた話/村の人々/ブルーベリー集め
17. 母の民話と身の上話
ソロモとタウシマ/母の身の上話/エゾノウワミズザクラ集め/隣の若奥さん
18. ふたたびハバロフスクへ
兄にウオッカをとがめられる/卒業証書を受け取る/ハバロフスクへの車中/サーカスの芸人たち/映画を見る/旧友との再会/九年生の勉強/マリノフスキー元帥/ウデヘ人として/読書に目ざめる/スポーツに打ち込む
19. 冬休みの帰省
盗まれた荷物/父と偶然に再会/遠い家路/新年のお祝い/冬の休暇/スキー遊び/母の思い出話/氷の危険
20. スポーツに明け暮れる
俳優と歌手/母の出産/いろいろな先生と生徒/スケート競技/バレーボール選手に/ボクシングを始める/バスケットボールの試合/兄ペーチャの来訪/リレー競走/先輩への進言
21. ウデヘの伝統と日常
亀の卵を集める/ナマズと人肉?/犬肉とソビエト少佐/忘れられるウデヘ語/義兄イワンを倒す/昔話を書きとめる/ヘルシンキ五輪/ペーチャと上流へ/村人たち/家族との日々/狩猟中の誤射
22. 愉快な仲間たち
バスケット観戦/怪力のナーナイ詩人/ソフホーズで聞いた小話/スター選手の観戦
23. あこがれのディナモ初出場
忘れかけた肉運び/十年生の勉強とスポーツ/ディナモ競技場デビュー
24. 初恋、そして卒業
スターリンの死/初恋/卒業試験/ウスリースクで試合/アムール川キセル旅 旧版(第一部)への著者あとがき
増補改訳版第二部への著者あとがき
訳者解説――史実と記憶のはざま