北海道大学大学院法学研究科研究選書
社会保険の構造分析 社会保障における「連帯」のかたち
価格:5,500円 (消費税:500円)
ISBN978-4-8329-6715-1 C3032
奥付の初版発行年月:2009年12月 / 発売日:2009年12月下旬
本書は,これまでほとんど顧みられることのなかった「社会保険」という制度概念の探求とその豊富化を行うものであり,わが国の社会保障政策とそれをめぐる理論状況に一石を投じようとするものである。
わが国の社会保障制度の充実は,20世紀の経済成長によるところが大きいが,これを可能にしたのが被用者保険制度の存在であることは,国民の基礎教養として共有されていない。
筆者の社会保障法研究は,大学院以来,すでに20年を経ようとしている。その大きな柱は,制度概念としての「社会保険」の探求であり,『医療保険の基本構造——ドイツ疾病保険制度史研究』を1997年に北海道大学図書刊行会より上梓した後も,折りにふれて研究業績を地道に発表し続けてきた。本書は,これまでの未発表論文と加筆修正を経た公表論文をまとめることにより,筆者の「社会保険」研究の集大成をねらうものであり,これを出版して世に問うことの意義は限りなく大きいと考える。(本書序章 より)
本書は、著者が生前に北海道大学法学研究科研究選書の1冊として出版すべく、準備を進めていたもので、亡くなる直前まで構成と収録論文についての推敲を行っておりました。それらをもとに、加藤智章先生(北海道大学大学院法学研究科教授)と菊池馨実先生(早稲田大学大学院法学学術院教授)の手により編集作業をすすめ、このたび刊行のはこびとなりました。
倉田 聡(クラタ サトシ)
1965年 北海道に生まれる
1987年 北海道大学法学部卒業
1992年 北海道大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学
日本学術振興会特別研究員、北海道大学法学部助手
1995年 博士(法学)を取得(北海道大学)
2000年 北海道大学大学院法学研究科助教授
2003年 北海道大学大学院法学研究科教授
2007年4月 逝去
主著に『医療保険の基本構造』(北海道大学図書刊行会、1997年)、『これからの社会福祉と法』(創成社、2001年)、『社会保障法』(共著、有斐閣、第三版2007年)。
目次
まえがき 加藤智章
凡例
略語一覧
序 章 なぜ、いま「社会保険」を論じるのか?
第一章 社会保障法における連帯原理
第一節 社会保障における責任主体
第二節 社会保障における「国家」と「社会」
第三節 社会保障における「個人」の位置づけ
補論一 社会福祉における「社会」と「連帯」
補論二 社会保障法学に求められるもの
第二章 法概念としての「社会保険」
第一節 ドイツにおける理論状況の整理
第二節 一九九三年GSGによる自治と連帯の変容
第三節 小括
第三章 雇用の流動化と被用者保険
はじめに——社会保障と被用者
第一節 被用者保険の基本的な考え方
第二節 非典型就業に対する被用者保険の適用
将来展望——所得保障ニーズのとらえ直し
第四章 社会保険における立法裁量と平等原則
第一節 障害の社会保障ニーズ
第二節 平等原則と立法裁量——誰と誰の区別を問題にす
るか
第三節 国民年金の制度解釈と立法裁量の統制手法
第五章 年金保険法の財政構造
第一節 社会保障における年金の位置
第二節 老齢年金保険におけるリスク分散
第三節 保険料追納に関する実定法制度
第四節 老齢年金保険の集団法的性格
第六章 医療保険法の財政構造
第一節 租税法律主義とふたつの裁判例
第二節 社会保険財政の特殊性とその法構造
第三節 社会保険料の基本的な考え方と「社会連帯」
第四節 小括
補論一 旭川市国民健康保険条例事件最高裁大法廷判決に
ついて
第七章 財政調整の法理論
第一節 健保財政と老人医療
第二節 老人保健制度の再検討
第三節 社会保険における「連帯」原理
第四節 財政調整と健保組合の存在意義
第八章 国民皆保険の規範的な意味づけ
はじめに
第一節 医療保障政策における「国民皆保険」概念の内実
第二節 国保「資格証明書」制度の特異な性格
第三節 老人保健の法構造と「国民皆保険」の関係
第四節 後期高齢者医療制度と老人保健制度の違い
第五節 後期高齢者医療制度支援金の問題点
むすびにかえて
第九章 社会保険財政と給付管理
第一節 賦課方式における収支相等の要請
第二節 ドイツ法における保険料率安定の原則
第三節 医師に対する診療報酬と給付管理
第四節 日本法への示唆
終 章 社会保険と連帯
解 題 菊池馨実
倉田聡教授の経歴と業績 道幸哲也
索引