北海道大学大学院教育学研究院研究叢書2
排除型社会と生涯学習 日英韓の基礎構造分析
価格:6,380円 (消費税:580円)
ISBN978-4-8329-6752-6 C3037
奥付の初版発行年月:2011年03月 / 発売日:2011年04月中旬
今日の格差・貧困問題は、経済的な問題だけでなく社会・政治・文化・アイデンティティなどにわたる深刻な構造的問題であることが理解され、「社会的排除social exclusion」問題と呼ばれ、とくに現代先進諸国の「排除型社会」が問われるようになってきた。本書は、社会的排除問題を克服して「持続可能な社会」を構築しようとする諸活動を21世紀型生涯学習の基礎構造として捉え直し、その性格と展開構造を明らかにし、今後の展望について考えてみることを課題としている。そのために、経済構造・市民社会・政治社会の全体を視野に入れた「先進国モデル」を提起しつつ、先発・中発・後発の先進国(イギリスと日本と韓国)において社会的排除(階級的・階層的排除と空間的・地域的排除)問題に取り組む諸活動を分析するという方法をとっている。日英韓3国は、アメリカのいわば格下の同盟国で、新自由主義的政策をとってきた典型国であり、その結果、いまやアメリカとともに貧富の格差が先進国ではもっとも高い国に属する。日本が当面する諸課題を考える際に3国の比較研究は不可欠となってこようが、本書は、21世紀最大の社会問題と考えられる社会的排除問題に取り組む動向の分析をとおして、現代生涯学習の基礎構造を明らかにし、そこから21世紀型生涯学習の在り方を展望しようとしている。本書で重点をおいたのは、経済構造に規定された社会的排除問題としての失業・半失業問題に対応する生涯職業訓練活動、そして、市民社会において社会的排除問題に取り組む「社会的協同」活動であり、それぞれ本書の前編と後編で検討する。
鈴木 敏正(スズキ トシマサ)
1947年生まれ
1978年京都大学農学博士
1996年北海道大学博士(教育学)
1975〜81年島根大学農学部助手・助教授を経て,1981年北海道大学教育学部助教授。
同教授を経て、現在、同大学院教育学研究院教授
目次
はしがき
序章 排除型社会を超えて〈鈴木敏正〉
特別寄稿「持続可能な社会と平生学習」〈キム・シニル・ソウル大学校名誉教授、前韓国教育長官・副総理〉
前編 失業・半失業問題と教育訓練
第1章 経済のグローバル化と社会的排除問題の構造〈鈴木敏正〉
第2章 イギリスとEUにおける社会政策の動向〈ニック・エリソン・英リーズ大学社会学・社会政策学部〉
第3章 韓国の失業問題と教育訓練〈チョン・ヨンスン・韓国雇用情報院〉
第4章 労働と社会的排除――現代職業訓練の課題〈上原慎一・北海道大学大学院教育学研究院〉
第5章 労働と生涯学習と仕事――誰のための、何のための学習か?〈キース・フォレスター・元英リーズ大学教育・社会環境学部〉
後編 社会的排除克服への社会的協同実践
第6章 社会的排除克服への地域再生教育〈鈴木敏正〉
第7章 日本の若者支援政策の萌芽と課題〈横井敏郎・北海道大学大学院教育学研究院〉
第8章 韓国における地域間教育格差と政策的対応〈イム・ヨンギ・公州大学師範大学校〉
第9章 韓国における地域教育共同体運動〈ヤン・ビョンチャン・公州大学師範大学校〉
第10章 社会的排除問題に取り組むイギリス社会的企業〈大高研道・聖学院大学政治経済学部〉
第11章 釧路市の地域再生とNPOの役割〈日置真世・北海道大学大学院教育学研究院〉
終章 持続可能な社会への生涯教育計画〈鈴木敏正〉