記憶と追悼の宗教社会学 戦没者祭祀の成立と変容
価格:7,040円 (消費税:640円)
ISBN978-4-8329-6826-4 C3036
奥付の初版発行年月:2017年01月 / 発売日:2017年02月上旬
本書では,戦没者の慰霊・顕彰を,ナショナリズムの文化的側面の中でも死を正当化する観念を再生産する社会的装置およびそれに関連した言説の問題として考察する。具体的には英国のウォー・メモリアルや英連邦戦死者墓地、日本の招魂碑や忠魂碑などの戦没者追悼・記念施設と,それらを中心とする追悼儀礼や言説を研究対象とし,集合的記憶研究の中に位置づけ直す。
これにより,ナショナリズムや集合的記憶が,社会学や人類学の研究としていかなる理論的な位置にあるのかを明らかにし、個別の教会や教団を越えて存在する社会の宗教性という次元を,宗教社会学の視点から扱う。
粟津 賢太(アワヅ ケンタ)
1965年 神奈川県生まれ
1990年 創価大学文学部卒
1997-1998年 英国エセックス大学留学
1999年 創価大学大学院文学研究科博士後期課程 単位取得退学
国立歴史民俗博物館講師,慶應義塾大学非常勤講師,南山大学南山宗教文化研究所研究員などを経て
現在 上智大学グリーフケア研究所特別研究員
専門 宗教社会学・宗教人類学
博士(社会学)
目次
はじめに──本書の対象と方法
一 追憶の共同体
二 ナショナリズム研究における宗教社会学的な問い
三 本書の対象と方法
第Ⅰ部 理論編
第一章 集合的記憶のポリティクス
はじめに
一 集合的記憶の問題系──記憶の構成性
二 多声的な歴史と記憶のポリティクス
三 文化システムとしての集合的記憶
四 沖縄県における戦没者記念施設
五 市町村における記念施設
六 記念施設をめぐるポリティクス
むすびにかえて
第二章 儀礼国家論と集合的記憶──集合的記憶の社会学構築のために
はじめに
一 儀礼国家論
二 デュルケイミアン・レガシー
三 ネオ・デュルケイミアン理論としての儀礼国家論
四 機能から効果へ
むすびにかえて
第三章 現在における「過去」の用法──集合的記憶研究における「語り」について
はじめに
一 現在における「過去」
二 もうひとつの生産
三 拡張された「心」
四 媒介される「心」
むすびにかえて
第Ⅱ部 事例編
第四章 偉大なる戦争──英国の戦没者祭祀における伝統と記憶
はじめに
一 戦没兵士追悼記念日と沈黙の儀礼
二 黙祷儀礼の日本への導入
三 無名戦士の墓と英連邦戦争墓地
四 第一次世界大戦と英国心霊主義
五 「栄光ある死者」の背景
むすびにかえて
第五章 古代のカノンと記憶の場──地方都市における戦争記念施設
はじめに
一 第一次世界大戦と戦争記念碑建設ブーム
二 地方における追悼式と戦争記念碑の多層性
三 エセックス州立文書館における戦争記念碑関係文書
四 コルチェスター市における第一次世界大戦記念事業
五 聖ジョージ像の多層性
六 英国地方教会における第一次世界大戦の解釈
むすびにかえて
第六章 市民宗教論再考──米国における戦没者記念祭祀の形態
はじめに
一 米国における戦没者祭祀──メモリアル・デイ
二 南北戦争戦死者の意味づけと市民宗教の「新約」
三 退役軍人記念日と無名戦士の墓
四 近代国家と死者崇拝
むすびにかえて
第七章 近代日本ナショナリズムにおける表象の変容──埼玉県における戦没者碑建設過程を通して
はじめに
一 近代における記念の意味
二 コロニアル・クライシスへの対応としての招魂の観念
三 招魂碑から記念碑へ
四 記念碑から忠魂碑へ
五 忠魂碑から忠霊塔へ
むすびにかえて
第八章 戦没者慰霊と集合的記憶──忠魂・忠霊をめぐる言説と忠霊公葬問題を中心に
はじめに
一 問題の所在──近代戦争と慰霊の場
二 大日本忠霊顕彰会における忠魂・忠霊をめぐる言説
三 忠霊公葬運動における忠魂・忠霊をめぐる言説
むすびにかえて──戦没者慰霊と三つの死
第九章 媒介される行為としての記憶──沖縄における遺骨収集の現代的展開
はじめに
一 遺骨処理──遺骨収集の原風景
二 遺骨処理から遺骨探索へ
三 壕を掘る者たち
四 教団による遺骨収集の語り
五 「負の遺産」をめぐる駆け引き──遺骨収集と不発弾処理
むすびにかえて──応答する記憶
おわりに──慰霊・追悼研究の現在
あとがき
参考文献一覧
事項索引
人名索引