介護サービスと市場原理 効率化・質と市民社会のジレンマ
価格:4,620円 (消費税:420円)
ISBN978-4-87259-744-8 C3036
奥付の初版発行年月:2022年02月 / 発売日:2022年03月中旬
利用者、提供者にとって良質なサービスの維持には何が必要なのだろうか。2000(平成12)年4月に施行さた介護保険制度には準市場が取り入れられ、効率的に質の高い介護サービスを供給することを目的に、公的、非営利、営利の多様な事業者が参入して競争することとなった。本書は20年以上を経た日本の介護保険サービス事業の導入から最近までの非営利組織と営利組織の行動を分析し示したものである。利用者にとって良い介護サービスとは、何を指標に比較し判断できるのか。地域差のある市場、経営主体別にみたとき、営利法人と単一カテゴリーとして扱うことが難しい非営利法人のサービスの質にはどのような差と要因があるのか。また、事業者のクリームスキミング志向の行動は起きているのか。利用者数に影響する要因は何か。複数の要因とサービスの質との関連性を明らかにし、効率化のメリットとデメリット、介護サービス市場の展望を示した。事業者の利益拡大のなかで利用者への公平性・公正性を保ち、サービスの質を落とさないために、また、介護職員の労働環境を守ることの意義も分析している。介護保険制度という公共サービスにおいて、非営利組織と営利組織が競争するという仕組みがどのように機能してきたのか、現場が参考にすべき研究成果である。
金谷 信子(カナヤ ノブコ)
広島市立大学国際学部教授。大阪大学大学院国際公共政策研究科修了(博士)。
専門は、非営利組織論、公共政策、社会政策。兵庫県職員を経て2008 年から広島市立大学に勤務。主な著書は『福祉のパブリック・プライベート・パートナーシップ』(日本評論社,2007)など。
目次
序 章 公共サービスの大競争時代
1 本書の目的と研究動機―準市場と市民社会の交差―
2 介護保険制度の特徴と介護保険サービス市場の実態
3 公共サービスの市場化の背景― NPMの影響―
4 公共サービスの民営化と非営利組織
5 準市場とは
6 介護保険サービスという準市場の課題
7 本書の意義
8 各章の説明
第1章 介護保険サービス市場と様々な参入事業者の現状
1 介護保険制度とは
第2章 介護保険サービス市場における非営利事業者のシェア
1 はじめに
2 準市場における非営利組織・営利組織に関する先行研究
3 介護保険市場の特性と分析視角
4 訪問介護の場合
5 デイサービスとグループホームの場合
6 3つの 推定結果のまとめと考察
7 おわりに
1 はじめに
2 訪問介護事業者の経営主体と経営実態
3 実証分析
4 おわりに
第4章 準市場における非営利・営利事業者の比較―グループホームの場合(単純集計結果から)―
1 はじめに
2 研究の背景
3 分析の視点
4 実証分析
5 考察
6 おわりに
第5章 介護保険サービス市場における経営主体別事業者のパフォーマンス―質の相違とクリームスキミングに関する実証分析―
1 はじめに
2 課題の背景と先行研究
3 実証分析
4 考察
5 おわりに
第6章 介護保険サービス事業の効率性と効果性―規模の効果・範囲の効果を中心に―
1 はじめに
2 本研究の課題意識と目的および先行研究
3 分析の視点
4 実証分析
5 考察
6 おわりに
第7章 介護保険制度と市民社会―介護系NPOのプレゼンス―
1 はじめに
2 介護保険制度の変遷と事業環境の変化
3 介護系NPOの現状
4 NPMと準市場と市民社会
5 介護保険サービス市場におけるNPO法人の実証分析
第8章 介護保険サービス市場の展望
1 介護保険制度の光と陰
2 本書のまとめ
3 本書の限界
4 介護サービスの質とは何か
5 効率性と質のジレンマ
6 介護保険サービス事業の持続性と多様性
7 本来目的の再考と人中心の介護保険サービス事業に向けて
第8章の参考資料
初出一覧
参考文献/あとがき/索引