田中敦子と具体美術協会 金山明および吉原治良との関係から読み解く
価格:7,920円 (消費税:720円)
ISBN978-4-87259-770-7 C3070
奥付の初版発行年月:2023年01月 / 発売日:2023年01月中旬
電気服はいかにして平面になったのか――具体美術協会再考のための初めてのモノグラフ
大阪および阪神間を活動拠点とした具体美術協会(略称:具体、1954〜1972年)は、第二次世界大戦後の美術史において、日本のみならず世界的な視野に立っても重要な位置を占める前衛的な美術グループである。本書はその主要メンバーの一人である田中敦子(1932〜2005年)に関する初の研究書である。田中作品の独創性を考察するとともに、具体のリーダーである吉原治良やメンバーの金山明との関わりの中で、その特質がいかに形成されたかを明らかにする。これまで十分に議論されてこなかった田中や金山の作品を丁寧に見直し、具体研究に新たな視点を提起する。また、彼らの作品をより広い視野から検討するために当時の前衛美術の潮流にも目を向け、ミシェル・タピエの提唱したアンフォルメル受容の観点から「具体美術宣言」理解を試みる。吉原の「物質」観と「具体」概念についての思考の過程をも明らかにし、その源流をたどることで、今後の研究のための枠組みを提示した。巻末には田中敦子が自作を語った貴重なインタビューも収録。
加藤 瑞穂(カトウ ミズホ)
美術史家。博士(文学)。芦屋市立美術博物館学芸員(1993–2011年)を経て現在、大阪大学総合学術博物館招へい准教授。専門は近現代美術史。カナダの美術史家ミン・ティアンポと共同企画した Electrifying Art: Atsuko Tanaka 1954–1968(2004–05年)で、翌年2004–05 AICA-USA[国際美術評論家連盟アメリカ支部]アワード「ニューヨーク市内で開かれた美術館での個展部門」第二席。『復刻版具体』(藝華書院、2010年)の監修と別冊の執筆に携わる。主な共同企画展として Atsuko Tanaka. The Art of Connecting(国際交流基金主催、2011–12年)。主な共著として『戦後大阪のアヴァンギャルド芸術―焼け跡から万博前夜まで』(大阪大学出版会、2013年)、『EXPO ’70大阪万博の記憶とアート』(大阪大学出版会、2021年)。2015–18年度、三回にわたるシンポジウム「『具体』再考」シリーズ(学術研究助成基金助成金基盤研究(C)課題番号16K02266)を企画開催。
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
目次
はじめに
第1章 具体美術協会および田中敦子の先行研究
1.具体美術協会に関する先行研究と課題
2.田中敦子に関する先行研究と課題
第2章 《電気服》から見た田中敦子作品
1.《電気服》
(1)作品の概要
(2)題名およびその仕組み
(3)衣服とは何か
(4)「舞台服」における《電気服》
(5)「前・電気服」
2.《カレンダー》から《作品》(ベル)まで
3.絵画への展開
第3章 田中敦子の「絵」——絶え間ない構造の変換と身体との結びつき——
1.《作品》(ベル)
(1)作品の概要とその仕組み
(2)作品の可変性と鑑賞者
2.1956-1957年:《電気服》を成立させる三つの要素
(1)《電気服》平面化の出発点
(2)合成樹脂エナメル塗料の採用
3.1958-1969年:《電気服》平面化の展開
(1)1958–1962年:円の多様化
(2)1963-1964年:線の複雑化と形象の多層化
(3)1965-1966年:形象の凝縮
(4)《Spring 1966》
(5)1966-1969年:凝縮力の拡張
4.身体を志向する「絵」
第4章 金山明による作品の特質——空間をめぐる思索と実践——
1.0会
(1)金山明による1950年代前半の抽象作品とその制作年
(2)0会の名称と活動の実態
(3)具体への合流
(4)0会展とメンバー集合写真
2 .金山明の1950年代半ば
(1)金山明による作品の異質性
(2)二種の線
(3)船荷証券(B/L)の採用
(4)縁への着目
(5)二次元から三次元への展開
第5章 金山明の電動機器による描画の誕生——白髪一雄との対照性——
1.金山明と白髪一雄の作品(1956年)
(1)金山明の《足跡》と白髪一雄の《足》
(2)外山卯三郎『純粋絵画論』と『廿世紀絵画大観』の参照
(3)金山明のバルーンと白髪一雄の《◇》
2.金山明と白髪一雄の描画
(1)金山明の電動機器による描画の概要
(2)白髪一雄との比較
3.金山明の電動機器による描画の歴史的評価
第6章 田中敦子の1950年代半ばにおける金山明との関わり
1.田中敦子の1954-1955年
2.田中敦子と金山明による作品の比較
(1)共通点と相違点
(2)相違の顕在化
3.1950年代半ば以後の田中敦子と金山明
第7章 アンフォルメルと吉原治良
1.日本におけるアンフォルメルの受容
(1)問題提起
(2)アンフォルメルの紹介
a.作品
b.アンフォルメルという概念
(3)ミシェル・タピエ自身の見解
(4)アンフォルメルに対する批判
(5)アンフォルメルという概念の変質と具体の評価
2.アンフォルメル受容の観点から見た吉原治良の「具体美術宣言」
(1)「具体美術宣言」の概要とアンフォルメルへの言及
(2)「宣言」起草の背景
(3)吉原治良に示唆を与えた文献資料
a.ジャクソン・ポロックとジョルジュ・マチウの制作風景写真
b.アンフォルメルに関するテクスト
第8章 吉原治良の「物質」をめぐる思考と「具体」概念の形成
1.吉原治良の「物質」観
(1)問題提起
(2)1950年代における「物質」への注目とシュルレアリスム
(3)吉原治良の1930年代
a.ジャン・アルプの参照
b.シュルレアリスムと抽象美術
c.機械の採用と客観主義
d.瀧口修造の「物質」観との相違
2.「具体」概念の形成
(1)グループ名「具体」の選択
(2)長谷川三郎の抽象美術論
a.「コンクリート(concrete)」の重視
b.長谷川三郎旧蔵の『キュビスムと抽象美術』
c.1930年代初頭のパリにおける抽象美術の動向
d.長谷川三郎から吉原治良への「具体」概念の継承
第9章 田中敦子、金山明、吉原治良の関係の推移
1.田中敦子に対する評価
(1)1957年以前の批評
(2)1957年以後1960年代半ばまでの批評
(3)批評の困難さ
2.吉原治良との軋轢
(1)吉原治良に対する心情の推移
(2)吉原治良の1960年代半ばにおける方針転換
a.ヌル国際展
b.アメリカの状況に関する情報
(3)金山明の吉原批判と立場の相違
おわりに
「田中敦子 自作を語る」芦屋市立美術博物館でのトーク書き起こし
謝辞
初出
写真提供・出典・著作権表記
索引