外交・安全保障政策から読む欧州統合
価格:6,600円 (消費税:600円)
ISBN978-4-87259-772-1 C3031
奥付の初版発行年月:2023年03月 / 発売日:2023年04月中旬
難民問題、クリミア危機、ブレグジット、ロシアのウクライナ侵攻……幾多の困難によって岐路に立たされている欧州統合の限界を、核不拡散政策、対テロ政策、エネルギー安全保障といった外交・安全保障分野の諸政策から考察。中東和平問題、対中外交、北欧やアフリカの安全保障との関係など、その外縁からも議論し、欧州統合の行く末を考える際に必要な判断材料を提供する。
本書は、欧州の外交および安全保障の観点から、EUを中心とする欧州統合への理解を深めようとする試みである。冷戦期に本格的に開始された欧州統合は、欧州経済共同体(EEC)に象徴されるように経済分野の統合を中心として進展し、外交・安全保障分野の統合は、各国の抵抗が強かったために遅れていた。冷戦後にEUが発足して以降、同分野での統合が徐々に深まりつつあるが、依然として個別の政策ごとに統合には濃淡の差が存在する。それだけに核兵器、エネルギー、人権外交といった個々の具体的な政策や局面に焦点を当てて分析を加えることが不可欠であり、その作業を通じて本書は、ポジティヴに語られることの多い欧州統合が、いかに加盟国内の分断と、域外国の反発を生じさせてきたのかといった、欧州統合の負の側面をも照らし出すことを目指す。
各論では多彩な執筆陣のそれぞれの専門性を活かして、外交・安全保障分野の具体的な政策分野に焦点を当てる。第1部の外交分野では、英国および東欧諸国を対象とする加盟国の拡大過程、人権外交と対中外交、難民・移民政策、西サハラ独立問題への対応を取り上げる。そこに一貫して存在しているのは、欧州統合過程で培われてきた人権・基本的自由・民主主義などの「価値」を対外的に投射しようとするEUの姿勢である。「規範的パワー」と称されることも多いEUのこうした姿勢は、加盟国がそれぞれ抱える利害関係との間に葛藤を生じることが少なくない。たとえば経済的につながりが大きい中国に人権面での懸念から制裁をかけるといった行動には、このような葛藤が最も明確に現れていると考えられる。このように第1部では、EUと加盟国との間、そして外交の対象との関係、政策の過程を分析することによって、欧州統合の理想と現実を浮き彫りにすることを目指している。
第2部の安全保障分野では、核不拡散政策、対テロ政策、北欧との安全保障政策の異同、アフリカの安全保障への関与、徴兵問題、また、直近のロシアのウクライナ侵攻により注目が高まっているエネルギー安全保障を取り上げる。EUは安全保障分野での取り組みを増加させているが、集団防衛の機能は備えておらず、基本的には米国のジュニア・パートナーの位置づけは変化していない。対テロでは、多国間の連合であることから、情報の共有や国境管理など様々な点で弱点を抱えてもいる。他方で、核不拡散政策の対イラン交渉で米国と異なる姿勢をとって一定の影響を与えたと考えられるなど、独自性を発揮している場面も見受けられる。これらの論考より第2部では、安全保障分野における欧州統合の現実と課題、並びに各国の安全保障への影響について、その一端を明らかにすることを目指している。
While crises like COVID-19, Brexit and Russia’s invasion of Ukraine seem to be threatening the future of Europe, the European Union (EU) is attempting to deepen its integration not only in economic but also in foreign and security fields and to emerge as a “normative power”. This book is analyzing the impacts, limits and possible setbacks of European integration focusing on foreign and security policies. Articles in this book cover both inward European policies and outward relationships such as EU–Middle East, EU–China, and EU–North Africa and also cover various topics such as nuclear non-proliferation, energy security, and human rights. Based on these articles, this book clarifies how the European integration proceeded and faced drawbacks. Through this book readers can understand how European integration has caused schism within member states and anti-EU atmosphere among surrounding states. Thus, this is an invaluable book to consider the future of Europe and its integration.
中内 政貴(ナカウチ マサタカ)
学位:大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了 博士(国際公共政策)
現職:上智大学総合グローバル学部・教授
主著:『資料で読み解く「保護する責任」―関連文書の抄訳と解説』(共編著)大阪大学出版会、2017年。
田中 慎吾(タナカ シンゴ)
学位:大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了 博士(国際公共政策)
現職:大阪経済法科大学国際学部・特別専任准教授
主著:「日英原子力一般協定(1958年)―「自主」の試みとその変容」『国際政治』第209号(2023年3月)、49-64頁。
松野 明久(マツノ アキヒサ)
学位:東京外国語大学大学院外国語学研究科修士課程修了 文学修士
現職:大阪大学名誉教授
主著:『東ティモール独立史』早稲田大学出版部、2002年。
山根 達郎(ヤマネ タツオ)
学位:大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了 博士(国際公共政策)
現職:広島大学大学院人間社会科学研究科・准教授
主著:『平和と安全保障を考える事典』(編集委員、広島市立大学平和研究所編)法律文化社、2016年。
辻田 俊哉(ツジタ トシヤ)
学位:大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了 博士(国際公共政策)
現職:関西外国語大学英語国際学部・准教授
主著:「紛争―イスラエル・パレスチナ間における非対称的関係の再検討」、浜中新吾編著『イスラエル・パレスチナ』シリーズ・中東政治研究の最前線第3巻、ミネルヴァ書房、2020年。
土屋 貴裕(ツチヤ タカヒロ)
学位:防衛大学校総合安全保障研究科後期課程卒業 博士(安全保障学)
現職:京都先端科学大学経済経営学部・准教授
主著:『現代中国の軍事制度:国防費・軍事費をめぐる党・政・軍関係』(単著)勁草書房、2015年。『米中の経済安全保障戦略:新興技術をめぐる新たな競争』(共著)芙蓉書房出版、2021年。
東村 紀子(ヒガシムラ ノリコ)
学位:大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了 博士(国際公共政策)
現職:大阪大学大学院国際公共政策研究科・招聘研究員、京都外国語大学・非常勤講師
主著:「フランス社会党の移民・難民政策は、誰を排除対象にしていたのか?-ムスリム、ロマ、不法移民」、羽場久美子編著『移民・難民・マイノリティ』彩流社、2021年。「フランスの移民政策及び難民政策に見る『統合』と『分断』―サルコジによる政策期からオランド政権期まで」『日本比較政治学会年報』、第20号(2018年6月)、109–136頁。
久保田 雅則(クボタ マサノリ)
学位:大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了 博士(国際公共政策)
現職:大阪大学大学院国際公共政策研究科・特任講師
主著:「核不拡散規範の制度化―制度形成と変容の要因としての逸脱行為に着目して」『国際政治』205号(2022年2月)、124–140頁。
一政 祐行(イチマサ スケユキ)
学位:大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了 博士(国際公共政策)
現職:防衛研究所政策研究部防衛政策研究室・主任研究官
主著:『核実験禁止の研究―核実験の戦略的含意と国際規範』(単著)信山社、2018年;『検証可能な朝鮮半島非核化は実現できるか』(単著)信山社、2020年。
佐々木 葉月(ササキ ハヅキ)
学位:大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了 博士(国際公共政策)
現職:金沢大学国際基幹教育院・専任講師
主著:“Security Governance with Human Rights Non-Compliant Actors: Who is Responsible for Metagovernance Failure?”Radomir Compel and Rosalie Arcala Hall, eds. Security and Safety in the Era of Global Risks. Routledge, 2021, pp. 157–170.
安富 淳(ヤストミ アツシ)
学位:ルーヴェン大学社会科学部 Ph.D. in Social Sciences
現職:叡啓大学ソーシャルシステムデザイン学部・准教授
主著:Atsushi Yasutomi, Rosalie Arcala Hall and Saya Kiba, Pathways for Irregular Forces in Southeast Asia: Mitigating Violence with Non-State Armed Groups. Routledge, 2022.
内田 州(ウチダ シュウ)
学位:大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了 博士(国際公共政策)
現職:早稲田大学地域・地域間硏究機構 研究院講師
主著:“Georgia as a Case Study of EU Influence, and How Russia Accelerated EU-Russian relations.” Rick Fawn, ed. Managing Security Threats along the EU’s Eastern Flanks. Palgrave Macmillan (Springer Nature), 2019, pp. 131–151.
竹澤 由記子(タケザワ ユキコ)
学位: 大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了 博士(国際公共政策)
現職:大阪女学院大学英語国際学部・特任講師
主著:“Evolution of Japan’s non-US centric security strategy and European influence on Japan’s peace-building policy.” Paul Midford and William Vosse, eds. New Directions in Japan’s Security. Routledge, 2020, pp. 189-212.""""
目次
序章 外交、安全保障政策から欧州統合を読む(中内政貴・田中慎吾)
第1部 外交政策から読む欧州統合
第1章 EU 拡大プロセスの再検討―規範の伝播を目指す取り組みを通して―(中内政貴)
第2章 英国にとっての欧州統合とは何か―第一次EURATOM 加盟申請に至る外交過程の考察から―(田中慎吾)
第3章 欧州統合と中東和平問題―EU の「差異化戦略」とイスラエルの対応を中心に―(辻田俊哉)
第4章 EU と西サハラ問題―試される規範的パワーの規範意識―(松野明久)
第5章 AU・EU サミットにみるアフリカ安全保障―「EU 研究」と「AU 研究」の視角から―(山根達郎)
第6章 政治と経済の間で揺れる中・欧関係―中国と欧州の包括的投資協定の原則合意を中心に―(土屋貴裕)
第7章 EU における難民受入の可否をめぐる議論の諸潮流―義務としての「難民庇護」と安全保障政策のはざまで―(東村紀子)
第2部 安全保障政策から読む欧州統合
第8章 欧州統合と核兵器―対イラン外交における共通の核不拡散政策の形成―(久保田雅則)
第9章 欧州安全保障と核抑止―高まるロシアの核の脅威と欧州の戦略的自律―(一政祐行)
第10章 EU におけるテロ予防のローカル・ガバナンスの可能性と課題―オランダの取り組みを事例として―(佐々木葉月)
第11章 東欧諸国の市民ボランティア武装組織・パラミリタリー―バルト三国とポーランドの事例から―(安富淳)
第12章 欧州のエネルギー安全保障―EU の戦略とラトビアの対ロシア依存問題―(内田州)
第13章 北欧防衛協力(NORDEFCO)の進展の要因とその役割についての考察(竹澤由記子)