秦帝国の領土経営 雲夢龍崗秦簡と始皇帝の禁苑
価格:7,260円 (消費税:660円)
ISBN978-4-87698-253-0 C3022
奥付の初版発行年月:2013年02月 / 発売日:2013年02月下旬
始皇帝は,秦帝国を統一後死去するまでの10年間に5回もの巡幸を行った。いわば統一後の生涯の全てを征服地への旅にあて,自ら権威を示したので あるが,その際拠点にしたのが禁苑(皇帝の庭園)である。旧来祭祀の場と解釈された禁苑が,帝国支配の出先であったこと,そしてその支配の実態を 最新の出土竹簡研究によって明らかにする。
馬 彪(マ ヒョウ)
山口大学人文学部教授
1955年生まれ。北京師範大学歴史学部大学院卒業,歴史学博士。
1995年以来,北京師範大学歴史学部からの訪問研究者として来日(1995~1999東京大学,1999~2001京都大学)。2002 年から 現職。
主要著書に
『秦漢豪族社会研究』(中国書店,2002年),『中国中世社会與共同体』(谷川道雄著 翻訳,中華書局,2002 年),『中国史学史』(内藤湖南著 翻訳,上海古籍出版社,2008年),『漢簡〈算数書〉:中国最古の数学書』(共著,朋友書店,2006年),『東アジア都城の比較研究』(共著,京都大学学術出版会,2011年)など。
目次
第一章 研究の課題と方法
第1節 龍崗秦簡の実態調査からの課題
はじめに
一 現地での調査
二 出土当時の実態
三 M6の埋葬者をめぐる問題
四 両雲夢秦簡の発見場所
五 竹簡の状態に関する調査と討論
六 文字の専門家との討論
おわりに
第2節 龍崗秦簡をめぐる三重証拠法
はじめに
一 二重証拠法と簡牘学の誕生
二 司馬遷が創建した実地考察の方法
三 遺跡の実地踏察の重要性
四 「紙上」と「地下」をつなぐ実地調査
おわりに
第二章 研究史上における問題
第3節 龍崗秦簡に見る「禁中」の真義
―「禁中」は「宮中」のみにとどまるものではない―
はじめに
一 古典文献に見る曖昧な「禁中」の意味
二 「宮中」の意味に限定されない「禁中」の用例
三 龍崗秦簡に見る「禁苑」と「禁中」
四 秦・漢皇室の禁区にてみな「禁中」となす
おわりに
第4節 龍崗秦簡簡1号の解釈と性格
はじめに
一 簡1号の釈読・解釈についての疑問
二 「池魚」は「池漁」である
三 「両雲夢」は両「雲夢官」を表す
四 「雲夢禁中」すなわち雲夢「禁苑」の考察
おわりに
第三章 龍崗秦簡が出土した楚王城
第5節 楚王城の非郡県治的性格
―城址と墓葬―
はじめに
一 楚王城郡県治説とその問題点
二 楚王城遺蹟の非郡県治的性格
三 墓葬の分布とその非郡県治的性格
四 雲夢楚王城と宜城楚皇城の比較
おわりに
第6節 雲夢楚王城の二重の性格
―禁苑と沢官―
はじめに
一 楚王城雲夢離宮禁苑説の曖昧さ
二 龍崗秦簡に見る楚王城の禁苑的性格
三 雲夢禁苑を兼管する雲夢沢官
四 「秦律十八種」に見る楚王城の官署的性格
おわりに
第四章 龍崗秦簡に見る禁苑の構造と皇帝の巡幸道
第7節 「禁苑(X')」の空間構造とその由来
―秦朝「禁苑」独特の空間構造―
はじめに
一 「城下田」となる公田
二 自然の沼沢につながる禁苑の「池」
三 「X'地」における放牧
四 「X'」の道・猟場・墓
五 「禁苑X'地」構造の沿革
おわりに
第8節 出土文字による馳道の考察
―龍崗秦簡の「奴(駑)道」「甬道」「馳道」をめぐって―
はじめに
一 馳道の「奴(駑)道」
二 馳道の「甬道」
三 「馳道」の機能と管理
おわりに
第五章 龍崗秦簡における「闌入」律令の考察
第9節 龍崗秦簡に見る禁苑闌入律簡の分類
―『唐律疏義』衛禁律との比較研究―
はじめに
一 禁苑闌入律簡
二 「持伝律」に見る禁苑の「符伝」制
三 「侵入律」の「有不当入而闌入」罪
四 「滞留律」と「当出」而「不出」の罪
五 「畜入律」と「畜産闌入禁苑」への対応
おわりに
第10節 龍崗秦簡に見る「闌入」罪と関連律令
はじめに
一 「竇出入」「毋符伝」という「闌入門」罪
二 「符伝」の偽造・仮藉・譲渡の「闌入門同罪」
三 「盗入」、「当出者」而「不出」の「闌入」罪
四 闌関、「馳道」闌入と畜産獣の誤入禁地
おわりに
第六章 龍崗秦簡における入禁と通関の符伝制
第11節 黔首の通関と入禁の符伝制
はじめに
一 「有事禁苑中者」の黔首徭役徒
二 「治園」徭役徒の「伝書」
三 「関」と「司馬門」
四 関所での「合符」と「伝書閲入之」
五 禁苑の「入司馬門久」符制と伝制
おわりに
第12節 龍崗秦簡に見る「参弁(辧・辨)券」
はじめに
一 簡11号の釈読と解釈の問題点
二 「参弁(辧・辨)券」の出土文字史料
三 「不幸死」者の棺具弁券説の提出
四 責任追及の証拠となる「参弁(辧・辨)券」
おわりに
第七章 龍崗秦簡の律名復元と文字の特徴
第13節 「龍崗秦律」における律名の復元
はじめに
一 律名の復元と龍崗秦簡の「盗律」
二 龍崗秦簡における「賊律」の復元
三 龍崗秦簡に見る「囚律」
四 龍崗秦簡における「捕律」の律文
五 龍崗秦簡に見る「雑律」
六 龍崗秦簡における「具律」の律文
七 龍崗秦簡における「徭律」「伝令」「闌令」の律文
八 龍崗秦簡における「廏律」の簡文
九 龍崗秦簡に見る「金布律」
一〇 龍崗秦簡に数多く見られる「田律」(「田租税律」「田令」を含む)
おわりに
第14節 龍崗秦代簡牘における古文字の特徴
はじめに
一 篆書風が濃厚な「古隷」文字
二 簡牘に現れた秦隷と小篆との共存
三 古文と「其」の古文法の使用
おわりに
第八章 龍崗秦簡による周秦帝国原理への新思考
―古代農―牧境界文明の優位性―
第15節 古代中国帝王の「巡幸」と「禁苑」
はじめに
一 帝王の政と殷・周・秦時代の巡幸
二 祭祀巡幸による古代禁苑の変遷
三 秦朝における「禁苑」の分布・構造と機能
おわりに
第16節 農耕文明を征服する帝国の原理
―龍崗秦簡の動物管理の律令を中心として―
はじめに
一 龍崗秦簡に見る秦の農―牧境界文明
二 牧畜・狩猟を重視する動物管理律
三 農業・遊牧両立の「耕戦」国策
四 動物を人格化する秦律の特徴と意義
五 中国古代農―牧境界文明の歴史的位地
おわりに
付 録
Ⅰ 龍崗秦簡訳注(一〇編)
Ⅱ 龍崗秦簡写真版(釈文付き新編号順)
Ⅲ 龍崗秦簡文字編(一四巻)
Ⅳ 龍崗秦簡関連論文・書籍目録
索 引