環境人間学と地域
モンゴル 草原生態系ネットワークの崩壊と再生
価格:7,480円 (消費税:680円)
ISBN978-4-87698-299-8 C3325
奥付の初版発行年月:2013年10月 / 発売日:2013年10月下旬
過放牧、人口問題、地球温暖化……。2000年以上にわたる遊牧の歴史をもつモンゴル草原で、近年様々な要因による草原の劣化・砂漠化が深刻視されている。モンゴルの牧畜の将来シナリオを検証し、自然と社会の持続的・経済的な関係を考える。
藤田 昇(フジタ ノボル)
NPO森林再生支援センター・理事長
専門分野:植物生態学
主著:『深泥池の自然と暮らし:生態系管理をめざして』(編著、サンライズ出版)
加藤 聡史(カトウ サトシ)
元 総合地球環境学研究所 プロジェクト研究員(2013年4月より富士レビオ株式会社 研究推進部)
専門分野:理論生態学、医療情報学
草野 栄一(クサノ エイイチ)
独立行政法人 国際農林水産業研究センター(JIRCAS)・研究員
専門分野:農業経済学
主著:『中国農業のゆくえ』(分担執筆、農林統計協会)
幸田 良介(コウダ リョウスケ)
地方独立行政法人 大阪府立環境農林水産総合研究所・研究員
専門分野:森林生態学、哺乳類生態学
目次
序章 地球環境の中のモンゴル
1 地球環境の中の温帯・亜寒帯草原—モンゴルとステップ [藤田 昇]
(1)モンゴルとは
(2)草原とは
(3)草原の生態学
(4)遊牧と草原
2 モンゴルの地誌とその特徴 [幸田良介]
(1)モンゴル国土と気候
(2)モンゴルの人々と遊牧の暮らし
(3)モンゴルの社会システムと産業の変化
3 激変する遊牧草原と環境問題 —生態系ネットワークの崩壊と再生 [藤田 昇]
(1)本書のテーマ
(2)モンゴルの環境問題
(3)本書の内容
第1部 草原と森林の生態系ネットワーク
第1章 水資源と水循環
1—1 モンゴルの気候と地球温暖化 [Z. バトジャルガル・B. エンフジャルガル]
(1)気候変動
(2)大気エアロゾル粒子の役割
(3)全球気候動因に起こりうる変化
(4)モンゴルにおける気候パターンの応答
1—2 モンゴルの水資源 [Z. バトジャルガル・B. エンフジャルガル]
(1)水に関する問題
(2)モンゴルの水資源の評価
(3)モンゴルの水質
(4)モンゴルでの水利用
(5)天然資源の存在量と限界の対立
1—3 草原の水循環 [杉田倫明]
(1)森林、草原そして砂漠
(2)水循環プロセス
(3)植生の水利用
(4)群落の広がりと水
(5)蒸発、蒸散と水収支
(6)まとめ
第2章 草原と遊牧の環境学 [藤田 昇]
2—1 遊牧草原の生産
(1)降水量と草原の生産
(2)草原生態系への家畜の影響
2—2 草原の小低木と遊牧
(1)森林と草原
(2)草原の小低木
(3)ヤギとヒツジの草原生態系への影響
(4)草原の劣化
(5)地球環境問題としての一般性
コラム1 家畜の密度と摂食量 [幸田良介・藤田 昇]
第3章 土壌の環境学
3—1 土壌の劣化 [田村憲司・三好隼平]
(1)モンゴルの土壌と気候—植生系列
(2)モンゴルにおける土壌劣化の要因
(3)土壌劣化と黄砂の発生
(4)モンゴルの土壌保全
3—2 過放牧による摂食耐性植物の優占と土壌のアルカリ性化 [幸田良介・藤田 昇]
(1)大型草食獣の採食と植物種組成の変化
(2)土壌のアルカリ性化による植生回復の遅延
(3)摂食耐性植物と家畜にとっての価値
(4)持続的な遊牧のために
コラム2 家畜放牧と草原の窒素循環 [近藤順治・廣部 宗]
第4章 森林の環境学
4—1 モンゴルにおける森林破壊と劣化した森林の再生 [J. ツォグトバータル]
(1)モンゴルの森林資源
(2)森林破壊を引き起こす要因
(3)森林修復と植樹
(4)森林再生・植樹事業における問題点
(5)これからの森林管理に向けて
(6)今後に向けて
4—2 森林の動態に対する人為攪乱の影響 [音田高志・廣部 宗・幸田良介]
(1)北方林における自然攪乱と森林再生
(2)強度の人為インパクトによる森林のレジリアンスの喪失
(3)人間活動によって維持される“半自然(semi-natural)”森林生態系
(4)森林保全と持続的な森林資源利用との両立に向けて
4—3 気候と人間活動の変動を取り入れたモンゴルの植生変動モデル [石井励一郎]
(1)スケールによって異なる植生の分布パターンを決定する環境要因
(2)地形スケールでの不連続移行パターン
(3)不連続移行パターンに関するこれまでの説明
(4)地形スケールでの植生モデル
(5)局所的な植生と土壌水分量の定常状態
(6)森林—草原移行帯での地形効果による土壌水分の空間不均一性
(7)森林草原ゾーン予測可能蒸発量と植生分布との比較をもちいた、植生モデルの定量化
(8)ガチュールトサイトのための数値モデルからの予備的結果
補論1 モンゴルの野生動物—フスタイ国立公園の今 [幸田良介]
1 フスタイ国立公園と野生動物
2 アカシカとタヒは共存できている?
3 オオカミは何を食べている?
4 アカシカの分布に対する森林と家畜の影響
5 モンゴルの保護区から学ぶべきこと
第2部 人間活動と生態系ネットワーク
第5章 市場経済下の牧畜業
5—1 家畜の分布と密度—統計資料を空間分析で読み解く [西前 出]
(1)統計でみる家畜数の変化
(2)家畜の空間分布の変化
(3)ウランバートルへの距離と畜産物価格
(4)主要道路への距離との関連
(5)ヤギの空間分布と植生指数
(6)遊牧と草原の持続性
5—2 畜産品の需給動向 [草野栄一]
(1)畜産品の需給バランス
(2)地域別の需給バランスと国内流通
(3)市場経済のモンゴル畜産業への影響
コラム3 統計データでみる家畜と遊牧民 —首都への集中度の変遷 [幸田良介]
第6章 牧畜・農業と土地利用
6—1 土地制度の歴史と現在 [上村 明]
(1)清朝のモンゴルに対する土地政策—蒙地開発計画
(2)市場経済への移行と「コモンズの悲劇」
(3)1990年代以降のモンゴル国における牧畜の状況
(4)「コミュニティ」を基盤とした自然資源管理モデル(CBNRM)と牧地法案
(5)所有権アプローチと牧地利用
6—2 モンゴルの遊牧における季節移動—トゥブ県バヤンウンジュール郡の事例 [G. U. ナチンションホル・L. ジャルガルサイハン]
(1)バヤンウンジュール郡の概況
(2)季節移動のとらえ方
(3)季節移動の実態と草原への影響
(4)季節移動の意義—資源利用、家畜の健康、草原保全
6—3 定住モンゴル牧畜民の現在—過放牧論の解体 [児玉香菜子]
(1)牧畜民の定住化問題
(2)中国内モンゴル自治区ウーシン旗の概要
(3)定住牧畜民の家畜飼養
(4)家畜飼養の変化からみる干ばつの影響と対策
(5)家畜繁殖を願う儀礼
(6)住民視点の災害対策に向けて
6—4 農業開発と環境保全 [小長谷有紀]
(1)民族誌に描かれたプレ社会主義時代の農耕
(2)社会主義的近代化としての農業開発
(3)ポスト社会主義時代の農業生産
(4)「ポスト移行期」の社会的課題
第7章 牧畜民の移住と都市化
7—1 都市周辺地域への遊牧民の移住 [鬼木俊次]
(1)遊牧民の移住と移動
(2)オブス県およびボルガン県の牧畜家計調査の方法
(3)オブス県およびボルガン県の調査地の概況
(4)ブレグハンガイ郡牧畜世帯調査結果
(5)移住の要因と問題
7—2 都会と田舎の人口移動の数理モデル [山村則男]
(1)人間移動の基本モデル
(2)移動のコストを考慮した場合のモデル
(3)都会規模の経済性
7—3 土地私有化政策と首都のスプロール現象 [堤田成政]
(1)ゲル地域の概要
(2)スプロール現象発生の政策的背景
(3)ゲル地域拡大の定量的把握
(4)都市の健全な発展に向けて
7—4 首都の人口増加とそれに伴う河川の水質汚濁 [伊藤雅之・陀安一郎・永田 俊]
(1)ウランバートルの人口推移
(2)ウランバートルでの下水処理の状況
(3)下水処理場排水のトール川への流出
第8章 鉱業と土地・水資源 [鈴木由紀夫]
8—1 モンゴルの鉱物資源開発の動向
(1)主要セクターの推移
(2)主要な鉱物資源
(3)鉱物資源とモンゴル経済
(4)持続的発展に向けた対策
8—2 鉱物資源開発の生態系や遊牧への影響と規制 —砂金採掘を中心として
(1)鉱業と遊牧の草原をめぐる摩擦
(2)鉱業開発が水資源に及ぼす影響
(3)鉱業開発と生態系や遊牧の保全との法的関係
(4)生態系や遊牧の保全に向けた砂金採掘の規制
補論2 日本・モンゴル関係の現在—経済的な結びつき [草野栄一]
1 モンゴルの対日世論
2 日本・モンゴル貿易
(1)自動車貿易の拡大
(2)カシミヤ貿易の縮小
(3)鉱物資源貿易の可能性
3 モンゴルと援助
(1)口蹄疫の拡大防止
(2)大気汚染の緩和
(3)モンゴルからの震災支援
4 経済的な結びつきと日本・モンゴル関係
補論3 日本・モンゴル関係の展開—友好と協力 [Z. バトジャルガル]
1 日本・モンゴル関係の歴史的変遷
2 交流・協力関係の道のりと政策
(1)開かれた道
(2)政治関係の始まりと発展
(3)交流の新段階—パートナーシップ
(4)多様な交流
3 交流の成果
(1)日本の政府開発援助
(2)モンゴルから見た日本・モンゴル貿易
(3)日本からの投資
(4)学術・文化交流
4 交流と協力についての考察
(1)交流・協力のための要点
(2)「手を差しのべる」から「手をつなぐ」可能性へ
(3)「第三の隣国」の第三番目ではない関係
終章 草原と遊牧の未来
1 生態系を測る
(1)生態系の持続性を測る—安定同位体比 [和田英太郎・兵藤不二夫・陀安一郎・石井励一郎]
(2)生態系の構造を測る—安定同位体比 [高津文人]
(3)生態系の変動を測る—衛星リモートセンシング [永井 信]
2 背景をとらえる [上村 明]
(1)モンゴルの牧畜における「コモンズ」
(2)牧畜と移動
(3)季節移動とオトル
(4)エコシステムにおける均衡—非均衡モデルと移動のパターン
(5)コミュニティと「歴史的ストック」
(6)行政の役割と互酬倫理の合理性
(7)閉鎖的コモンズから新しいコモンズのかたちへ
3 分析と予測を行う
(1)モンゴルの生態系ネットワークと将来シナリオ [山村則男・酒井章子・藤田 昇]
(2)モンゴル牧畜持続性を計算する [加藤聡史]
4 草原利用の未来 [藤田 昇]
(1)畜産品の生産性—生産高と生産コスト
(2)移動・定住と草原の家畜扶養力
(3)家畜—商品か資産か
(4)地方重視の流通と産業の改善
コラム4 人間による生態資源利用のネットワーク構造 [石井励一郎・酒井章子]
付録(観光案内)モンゴルの草原にようこそ [Z. バトジャルガル]
(1)「モンゴルに面白いものはない」
(2)モンゴル観光の出発点
(3)観光産業成長と停滞の境界線
(4)モンゴルで何を見るべきか?
(5)魅力的な国際観光地としてのモンゴル
あとがき
索引
執筆者紹介
巻末カラー図版