変容する親密圏/公共圏11
承認欲望の社会変革 ワークキャンプにみる若者の連帯技法
価格:3,740円 (消費税:340円)
ISBN978-4-87698-545-6 C3336
奥付の初版発行年月:2015年03月 / 発売日:2015年03月中旬
若者は不安定化する社会経済的状況にもかかわらず,なぜボランティア活動に身を投じるのか。孤独,不安,差別,貧困,災害を接点に異なる人びとが出会い,「苦しみ」を反転させ,世界を変える共同性を創出していく新時代のボランティア論。
西尾 雄志(ニシオ タケシ)
日本財団学生ボランティアセンター所長,早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター客員准教授,聖心女子大学非常勤講師。早稲田大学大学院社会科学研究科博士課程満期退学。専攻:社会運動論。
主な著作:『ボランティア論―共生の理念と実践』(共著,ミネルヴァ書房,2009年),『世界をちょっとでもよくしたい―早大生たちのボランティア物語』(共著,早稲田大学出版部,2010年),『WAVOC発大学生のためのボランティア入門講座』(早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター,2013年),『ハンセン病の「脱」神話化―自己実現型ボランティアの可能性と陥穽』(皓星社,2014年)。
日下 渉(クサカ ワタル)
名古屋大学大学院国際開発研究科准教授。
九州大学大学院比較社会文化学府博士課程単位取得退学。博士(比較社会文化)。専攻:政治学,フィリピン研究。
主な著作:「秩序構築の闘争と都市貧困層のエイジェンシー─マニラ首都圏における街頭商人の事例から」『アジア研究』第53巻4号(アジア政経学会,2007年,第6回アジア政経学会優秀論文賞),「境界線を浸食する「癒しの共同性─接触領域としての在日フィリピン人社会」『コンタクト・ゾーン』第5巻(京都大学人文科学研究所人文学国際研究センター,2012年),『反市民の政治学─フィリピンの民主主義と道徳』(法政大学出版会,2013年,第30回大平正芳記念賞,第35回発展途上国研究奨励賞)。
山口 健一(ヤマグチ ケンイチ)
福山市立大学都市経営学部講師。
東北大学大学院情報科学研究科博士課程後期修了。博士(情報科学)。専攻:シンボリック相互行為論,共生社会論。
主な著作:「A・ストラウスの社会的世界論における「混交」の論理」『社会学研究』第82号(東北社会学研究会,2007年),「多様な意見に開かれたコミュニケーションへ」「福山市立大学開学記念論集」編集委員会編『都市をデザインする』(児島書店,2011年),「在日朝鮮人―日本人間の〈親密な公共圏〉形成」松田素二・鄭根埴編『コリアン・ディアスポラと東アジア社会』(京都大学学術出版会,2013年)。
目次
序章 承認欲望の社会変革 ―ワークキャンプにおける親密性の公共機能
[日下 渉・西尾雄志・山口健一]
1 若者ボランティアの再検討
2 生を支える条件の消失
2―1.生を支える集団的実践
2―2.社会的断片化の進展
2―3.ルサンチマンの政治
3 社会運動と承認欲求
3―1.社会運動とボランティアの隘路
3―2.ワークキャンプという青年運動
3―3.親密な共同性による社会変革の契機(本書の構成)
第1章 公と私の円環運動 ―親密圏が秘める公共性 [西尾雄志]
1 親密圏が秘める公共性
2 承認の不足と「私」の不安定化
2―1.悪化する経済,および財政状況
2―2.「私の安定化」と「アイデンティティの序列化」
2―3.承認欲求―「公」を生み出す「私」の原動力
3 ワークキャンプ―公私枠組みにおける定位
3―1.親密圏とワークキャンプ
3―2.ボランティアとワークキャンプ
3―3.「帰る」という言葉―公と私の円環
3―4.私から公への再飛躍
3―5.贈与性の帰結
3―6.「優位性」と「劣位性」,そしてその反転 ―ボランティア・コーディネーターの視点を交えて
4 まとめにかえての問題提起―経済問題とワークキャンプ
第2章 「根拠地」へと下降する―安保時代のもうひとつの学生運動 [日下 渉]
1 左翼運動とワークキャンプ
2 ワークキャンプの展開
2―1.クェーカーの平和運動から土着化へ
2―2.安保闘争後のワークキャンプ
2―3.「交流の家」建設後の運動
3 生活世界の根源へ
3―1.「存在の原点」への下降
3―2.根拠地の思想
3―3.虚構の政治から現場の実感へ
4 集団と共同性
4―1.労働・生活・実感の集団論
4―2.越えられぬ境界線を活力に
4―3.傷を通じて他者と繋がる
5 根拠地からの社会変革
5―1.体制とも組む反体制
5―2.ユートピアからの意味創出
5―3.自己を撃ち社会を変える
6 ワークキャンプの現代的意義
第3章 ワークキャンプの「名づけの力」 ―中国キャンプの親密圏が秘める可能性 [西尾雄志]
1 公私問題の視点から捉えるハンセン病問題
2 ハンセン病問題
2―1.ハンセン病概略
2―2.中国のハンセン病
3 「病い」の社会的構築
3―1.アーサー・クラインマンの概念によるハンセン病問題の整理
3―2.ハンセン病の表象
3―3.ハンセン病の表象の変容をめぐって
4 意味をめぐる闘争
4―1.「知覚される仕方」をめぐって
4―2.「分配」と「承認」―「パースペクティヴ二元論」
4―3.ワークキャンプにおける「病い」の変容 ―「名づけの力」と「文化コード」
4―4.承認欲望の社会変革の可能性 ―再度,宿泊拒否事件に立ち戻って
4―5.中国ハンセン病快復村ワークキャンプにおける「公と私の円環」
―ボランティア・コーディネーター,振り返りの視点を交えて
5 ハンセン病の終焉と「ハンセン病」の意味をめぐって
6 むすび ―「当事者性」という問題
第4章 「祝祭」の共同性 ―フィリピン・キャンプにおける素人性の潜在力
[日下 渉]
1 ボランティアにおける「私たち」と「彼ら」
2 「私たち」と「彼ら」の齟齬と分断
2―1.自分探し・自己成長の落し穴
2―2.他者承認の落し穴
2―3.無知・独善の落し穴
3 新たな「私たち」が担う社会変革
3―1.優しさと共同性への感動・共感
3―2.共同性の生成と承認
3―3.自己満足からコミットメントへ
3―4.村人の参加による再配分の促進
3―5.災害時における共同性の復活
4 素人の限界を可能性に反転させる
第5章 〈つながり〉の現地変革としてのワークキャンプ
―東日本大震災における唐桑キャンプの経緯と意味世界
[山口健一]
1 唐桑キャンプとの出会いと問いへの誘い
1―1.なぜ唐桑町だったのか?
1―2.初めて参加した「驚き」からの出発―視角と方法
2 唐桑キャンプの経緯―〈つながり〉の連鎖と存続
2―1.東日本大震災とFIWC(唐桑キャンプ設立まで)
2―2.唐桑キャンプの形態と参加者の構成
2―3.「救援」活動と唐桑キャンプの定着(第一期唐桑キャンプ)
2―4.「復旧」活動とワークニーズの変化(第二期唐桑キャンプ)
2―5.「復興」活動と唐桑キャンプの変容(第三期唐桑キャンプ)
2―6.活動の分化と唐桑キャンプの終了(第四期唐桑キャンプ)
3 唐桑キャンプの意味世界
3―1.〈つながり〉の現地変革
3―2.〈つながり〉の社会学的含意
第6章 ワークキャンプにおける〈公共的な親密圏〉生成
―唐桑キャンプにみる若者ボランティア活動の意義と危険性
[山口健一]
1 親密圏から公共性が浮上する論理を探る
1―1.東日本大震災と若者ボランティア活動
1―2.親密圏の二つの「顔」/公共圏の二つの「道筋」
1―3.意味世界の正当性の探究―視角と方法
2 親密圏としての唐桑キャンプ
2―1.「楽しくみんなで」
2―2.社会問題の下の「楽しい疑似家族」
2―3.祝祭的な「疑似家族」によるエンパワーメント
3 交響体としての唐桑キャンプとその脆弱さ
3―1.交響体の条件―「対等」な関係と話し合いの創発性
3―2.交響体の条件―〈つながり〉に伴う外部者の〈緊張〉
3―3.交響体の脆弱さ―共同体への変容
4 唐桑キャンプから浮上する公共性
4―1.視座の拡大と転換による〈公平さ〉
4―2.視座の拡大に伴う〈地域の改善〉と〈公平さ〉
4―3.〈公共的な親密圏〉の生成
5 〈公共的な親密圏〉の成立にむけて
5―1.唐桑キャンプにみる〈公共的な親密圏〉
―ワークキャンプの特質と条件
5―2.若者ボランティア活動の意義と危険性
終章 親密圏が誘発する公共性 ―ワークキャンプ論のアリーナへ
[山口健一・日下 渉・西尾雄志]
1 「震災ボランティア」とワークキャンプ ―理性・公共性・市民社会 [山口健一]
1―1.阪神・淡路大震災における「震災ボランティア」論
1―2.ワークキャンプにおける理性の必要性
1―3.ワークキャンプから浮上する公共性
1―4.ワークキャンプと市民社会の接続
1―5.唐桑キャンプにみられるワークキャンプ論
2 ワークキャンプの政治的潜勢力 [日下 渉]
2―1.新自由主義の逆説
2―2.新たな社会的連帯の模索
2―3.被傷性と相互依存が織り成す親密性
2―4.越境と連鎖から生まれる公共性
2―5.社会変革の構想と幻視
3 ワークキャンプ論のアリーナへ―執筆者3人のスタンスと論点
[西尾雄志]
3―1.親密圏から公共性が誘発される条件をめぐって
3―2.理性的なるものの位置取りをめぐって
3―3.学生キャンパーのアマチュアリズムをめぐって
3―4.国家や市場に対する対抗性をめぐって
―連帯の契機と作法,およびその原理
あとがき [山口健一・西尾雄志・日下 渉]
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