微生物生態学への招待 森をめぐるミクロな世界
価格:4,180円 (消費税:380円)
ISBN978-4-87698-597-5 C3045
奥付の初版発行年月:2012年04月 / 発売日:2012年04月上旬
菌類や線虫などの微生物がかかわるさまざまな生命現象を,微生物を介した‘生物相関学’として体系化し,微生物と他の生きものたちとのさまざまな出会いや,共生関係を維持するための仕組みを軸として,著者たちが自らの研究の過程で肌で感じてきた生命現象の面白さや,生きものの奥深さのようなものが活きいきと描き出す.
二井 一禎(フタイ ヨシカズ)
京都大学大学院農学研究科
竹内 祐子(タケウチ ユウコ)
京都大学大学院農学研究科
山崎 理正(ヤマサキ ミチマサ)
京都大学大学院農学研究科
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
はじめに [二井一禎]
付録CD-ROM について
第1部 森の菌類──微小な菌の見逃せない生態(山中高史)
第1章 マツ針葉の内生菌 [畑 邦彦]
──見えざる共生者
1.1 内生菌とは ?
1.2 日本のマツに内生菌はいるのか ?
1.3 マツバノタマバエと針葉の内生菌の関係
1.4 マツの分類群と内生菌の関係
1.5 季節変動
1.6 内生菌の抗菌作用
1.7 まとめ
第2章 ともに旅する樹木とキノコ [広瀬 大]
──ゴヨウマツとともに生きるベニハナイグチの自然史
2.1 DNA レベルで解き明かすキノコの生き様
2.2 ゴヨウマツ植栽林における定点観察──研究材料との出会いと生活史の推測
2.3 ゴヨウマツ天然集団における生活史──旅する胞子と居座る菌糸
2.4 室内実験から宿主の好みを知り,分布を予測する
2.5 日本の五葉マツ類に常にお供しているのか ?
2.6 ゴヨウマツとともに旅をしてきたのか ?
2.7 最後に──日本における菌類系統地理学の発展に向けて
第3章 植物の定着に関わる菌類 [谷口武士]
──海岸クロマツ.ニセアカシア林における菌根共生
3.1 日本の海岸クロマツ林
3.2 クロマツと菌根菌
3.3 海岸クロマツ林で菌根研究をはじめる
3.4 ニセアカシアはマツの実生更新に影響するのか ?
3.5 ニセアカシアはマツ実生の菌根共生に影響を与えるのか ?
3.6 共生する菌根菌はなぜ変化したのか ?
3.7 菌根菌種の変化と機能的特性
3.8 植物と菌根菌と病原菌の相互作用
3.9 植生の定着や種構成への菌根菌の影響
第4章 クロマツの根圏で起こる微生物間相互作用 [片岡良太]
──細菌がカビを助ける!
4.1 クロマツ菌根における細菌相
4.2 ヘルパー細菌の探索
4.3 ヘルパー細菌の菌根菌特異性
4.4 細菌密度とヘルパー効果
4.5 ヘルパーメカニズム
第5章 糞生菌のはなし [吹春俊光]
5.1 糞の登場
5.2 糞生菌とは
5.3 糞生菌の種類と日本における研究
5.4 糞生のヒトヨタケ類(担子菌門ハラタケ目)
5.5 糞生菌の観察・培養
第6章 アンモニア菌 [山中高史]
──森の清掃スペシャリスト
6.1 アンモニア菌が出現する土壌の特徴
6.2 菌の出現(子実体形成)と栄養菌糸の増殖の関係
6.3 アンモニア菌が有する特異な生育様式
6.4 アンモニア菌の増殖と遷移のメカニズム
6.5 窒素が与えられていないときのアンモニア菌のすがた
6.6 動物の排泄物や死体の分解跡土壌の浄化
第2部 線虫たち──小さくても個性派です(神崎菜摘)
第7章 昆虫嗜好性線虫の生活 [神崎菜摘]
──進化も生態も媒介昆虫が決めている?
7.1 クワノザイセンチュウの生活史
7.2 クワノザイセンチュウとキボシカミキリの共種分化
7.3 この研究に関する後日談──反省点とさらなる解析の可能性
7.4 遺伝子研究材料としてのBursaphelenchus 属
第8章 キノコと昆虫を利用する線虫たち [津田 格]
8.1 ヒラタケでの線虫の生活
8.2 線虫を運んでいるのは何か ?
8.3 伝播者であることの証明
8.4 線虫の生活史とキノコバエとの関係
8.5 いろいろなキノコを調べる
8.6 キノコを利用するさまざまな線虫たち
8.7 Iotonchium 属線虫と Deladenus 属の線虫
第9章 植物の敵は地下にも存在する [藤本岳人]
──植物寄生線虫
9.1 植物寄生線虫とは
9.2 農業と植物寄生線虫との関係
9.3 サツマイモネコブセンチュウの生活環
9.4 現在の防除法とその問題点
9.5 植物の巧妙な防御メカニズム
9.6 植物ホルモンを防除に応用できるか
9.7 植物体内における防御メカニズムの解明
9.8 今後の植物寄生線虫の防除に関して
第10章 線虫が切り拓く生物学 [長谷川浩一]
──そしてモデル生物から非モデル生物へ
10.1 線虫って何 ?
10.2 線虫の研究と線虫を使った研究
10.3 線虫,というよりモデル生物である
10.4 エレガンスの遺伝学
10.5 マツノザイセンチュウの胚発生
10.7 RNAi が効かない
10.8 マツノザイセンチュウの研究これから
第3部 マツ枯れ──生き物たちのややこしい関係(竹内祐子)
第11章 敵か味方か相棒か [前原紀敏]
──マツノザイセンチュウ.菌.カミキリムシ間相互作用
11.1 線虫はどうやってマツの中で増えるのか
11.2 線虫の餌になる菌,ならない菌
11.3 線虫にも餌の好き嫌いがある
11.4 線虫を餌にする菌
11.5 マツノマダラカミキリが保持する線虫の数の重要性
11.6 マツノマダラカミキリの保持線虫数に菌が影響するのか
11.7 人工蛹室を作りたい
11.8 マツノザイセンチュウの生活環
11.9 リニット教授
11.10 ついに菌の影響を解明
11.11 兵糧攻め
11.12 なぜマツノマダラカミキリだけが線虫を運ぶのか
11.13 マツノマダラカミキリと菌の直接の関係
11.14 マツノザイセンチュウ近縁種とカミキリムシの関係
11.15 敵か味方か相棒か
第12章 環境激変 [Rina Sriwati /竹本周平]
──マツが枯れるとマツノザイセンチュウを取り巻く生物相も大騒動
12.1 マツ枯れを再現する
12.2 マツ材線虫病に感染したマツの木の中での線虫相の変化
12.3 感染したマツの中での線虫相とマツノザイセンチュウ個体群動態
12.4 感染したマツの木の中の菌類相の変化
12.5 マツノザイセンチュウの分布と増殖に対する各菌種の影響──量的な評価
12.6 感染木内のマツノザイセンチュウと各菌種の分布の同所性──質的な評価
12.7 おわりに
第13章 感染しても枯れない? [竹内祐子]
──白黒つかないマツと線虫の関係
13.1 病気に罹るか罹らないか──相性を決めるもの
13.2 準備は OK ──備えあれば憂いなし?
13.3 見えざる感染
13.4 宿主の運命はだれの手に ?
第14章 何もせずにいいとこ取り? [新屋良治]
──マツノザイセンチュウの巧みな寄生戦略
14.1 生物のゲノム情報って何 ?
14.2 マツノザイセンチュウにおける分子生物学研究の幕開け
14.3 マツノザイセンチュウのタンパク質を解析する
14.4 マツノザイセンチュウはどのように寄生性を獲得してきたのか ?
14.5 おわりに
第15章 進化と系統で読みとく病原力のふしぎ [竹本周平]
15.1 少年期に見たマツ枯れ
15.2 線虫の病原力
15.3 どうして(Why)病気を起こすのか ? ──病原力を決める進化的要因
15.4 マツ枯れは枯れなきゃ伝染らない
15.5 弱い線虫の系譜
15.6 個体群の病原力は遺伝子の頻度で決まる
15.7 強い者が勝ち残るのか
15.8 進化を計算する
15.9 弱さがしたたかさに変わるとき
15.10 ふたたび,どうして(How)?
15.11 ややこしいからおもしろい!
第4部 ナラ枯れ──病気を森にまき散らす昆虫(山崎理正)
第16章 探索は闇雲じゃなく精確に [山崎理正]
──微小な昆虫による宿主木の探し方
16.1 街中の人と森の中の虫
16.2 小さな虫が木を枯らす
16.3 相性のいい木の探し方
16.4 皆で襲えばこわくない
16.5 穴はどこに掘るべきか
16.6 多様な森で生きのびる
第17章 親子二世代の連係プレー [Hagus Tarno /山崎 理正]
──木屑が語る坑道の中の社会的な生活
17.1 穴の中の様子を探るには
17.2 穴から排出されるフラス
17.3 繊維状と粉末状のフラス
17.4 フラスが語る木の好適性
17.5 変動するフラスの質と量
17.6 入口が傾いている意義は
17.7 坑道の中の社会的な生活
第18章 ‘神々の食べ物’とは何か? [遠藤力也]
──カシノナガキクイムシと菌類の共生系
18.1 菌類と密接に関わる養菌性キクイムシ
18.2 カシナガの共生菌は何か?
18.3 ‘神々の食べ物’とは何か?
18.4 ナガキクイムシ.菌類の共生系
18.5 今後の展望
第19章 仲間もいれば敵もいる [斉 宏業/二井一禎]
──カシノナガキクイムシを取り巻く微生物
19.1 拡大をつづけるナラ枯れ被害
19.2 ナラ枯れ被害に打つ手はあるのか
19.3 昆虫病原性微生物の探索
19.4 カシナガから分離した微生物の昆虫病原性
19.5 他の候補微生物の昆虫病原力は
用語解説
おわりに [肘井直樹]
索引