遠い風景 ツーリズムの視線
価格:4,180円 (消費税:380円)
ISBN978-4-87698-667-5(4-87698-667-3) C3025
奥付の初版発行年月:2005年12月 / 発売日:2005年12月下旬
旅をして何を感じるか? 人生の過去に何を想うか? 一見,人それぞれに違っているように思えるこの心性も,ある時代,ある階層,ある国籍として括ってみると,驚くほど似通っていることに気づく.ジオ・ポリティック(社会的な風景観)とジオ・ポエティック(個人的な風景観)の微妙な作用を焙りだし,場所を捉える心の機微を解く.
滝波 章弘(タキナミ アキヒロ)
高知大学人文学部助教授
1967 年生まれ.神奈川県出身.アリアンス・フランセーズ・パリ校,慶應義塾大学文学部,京都大学大学院文学研究科,ジュネーブ大学経済社会学部で学ぶ.専門は地理学・文化研究.関心のあるテーマは,現代日本と欧州フランス語圏を対象とした空間表象やツーリズム.
目次
口 絵―遠い風景
プロローグ 旅、伝統、幼年期
「系譜」としての風景 / 風景と景観 / ツーリズム
ジオ・ポリティック/ジオ・ポエティック
第1部 旅は語られる―ジオ・ポリティックな態度―
第一章 雑誌『旅』1964~1997
I 一般人にとっての旅行
(1)旅行の語り / (2)ツーリスト経験
II 旅行の語りを捉える
(1)物語内容と物語叙述 / (2)旅行文を時代区分する
III 六〇年代から九〇年代への流れ
(1)現実感の消滅 / (2)描写から観察へ / (3)シークエンスの強まり
IV 七〇年代半ばの幻想的な語り
(1)七〇年代半ばの特異性 / (2)聞える風景? / (3)一九七四年の特異性
V ツーリスト経験の対照性
(1)空間の対比と時間の対比 / (2)旅行という商品の購入
(3)再び、旅行を語ること
第二章 『オートル・ボワイヤージュ』
I フランス人の国外旅行
(1)西欧的な他者認識 / (2)フランス人の旅行文
II バックエリアへの旅
(1)フロントエリアからバックエリアへ / (2)対話の重要性
III 他所における他者
(1)他所への同化意識 / (2)言葉の違いか、身体の違いか?
IV フロントエリアとしての風景
V 日本人の海外旅行文との差
(1)第三世界との関わり / (2)異なる身体との関わり
(3)ツーリスト経験の日仏比較
第2部 伝統は創られる―ジオ・ポリティックとジオ・ポエティックの狭間―
第三章 和歌浦・不老橋の景観論争
I 和歌浦の景観裁判
(1)今日の景観問題 / (2)景観保全訴訟の概略
II 原告側の景観概念
(1)価値のある景観 / (2)守るべき景観
III 和歌山県側の景観概念
(1)物としての景観 / (2)眺望としての景観
IV 景観をめぐる裁判の意味
(1)判決の概要 / (2)文化の真正さをめぐる争い
(3)不老橋の代替性と実用性
V 景観裁判のその後
(1)不老橋の文化財指定 / (2)市民にとっての和歌浦
(3)伝統的な景観を守るために
第四章 能登、低く鳴り高く響く太鼓
I 日本の太鼓事情
(1)伝統の創造と改変 / (2)太鼓の隆盛 / (3)太鼓論
II 伝統のリズムと創作のリズム
(1)佐渡の鬼太鼓 / (2)創作太鼓の曲
III 輪島の御神事太鼓
(1)能登の太鼓を記譜する / (2)神楽太鼓の音! / (3)面を付けた太鼓打ち
IV 輪島のお祭り太鼓
(1)住吉神社大祭とキリコ行列 / (2)囃子太鼓の音!
V 土地の薫りと打ち手の個性
第3部 幼年期は現われる―ジオ・ポエティックの作用―
第五章 南の国のファンタジー
I 「私の好きな風景」
(1)幼年期の原風景 / (2)十八人のそれぞれの風景 / (3)風景の生まれる素地
II 一年間の「風景日記」
(1)日記の重なる日 / (2)日記を作る語彙 / (3)春・夏・秋・冬
(4)思い出の引き出し
III 山里の風物詩
(1)津野山の「しいちゃん」 / (2)「ほたる」の話
IV 風景の言葉、そして感覚
第六章 都会の子ども、山村の子ども
I 生活綴方としての作文
II 旅行先の認識の深まり
(1)断片的な旅行先 / (2)対象化される旅行先 / (3)他者の不在
III 日常的な空間を捉える
(1)非日常的な時間 / (2)小さな子どもの眼 / (3)日常生活の中の他者
IV 村の外にある町の世界
(1)村の外へ出かけること / (2)評価される山と村
V 身の周りの小さな存在
(1)弟や妹、鳥や虫 / (2)「しろ」、「ころ」、「クロ」
VI 子どもの世界がもつ力
エピローグ ジオ・ポリティック/ジオ・ポエティック