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海から拓く食料自給水産の21世紀

水産の21世紀 海から拓く食料自給

A5判 650ページ 上製
価格:5,170円 (消費税:470円)
ISBN978-4-87698-957-7 C3062
奥付の初版発行年月:2010年08月 / 発売日:2010年09月上旬

内容紹介

世界的な食糧争奪の世紀、四方を海で囲まれた日本を救うのは未来の水産業だ。海の基礎生産を理解し、持続的利用の術を知り、増養殖漁業の可能性を探る。豊富な事例とデータで、食料自給を海から拓く道を示す、水産研究者の総力を挙げた画期的論集。「森は海の恋人」運動の畠山重篤氏も特別寄稿。現場と研究双方から明日の水産を考える。



[推薦]

尾池和夫氏(財団法人国際高等研究所所長、京都大学前総長)

人類の祖先を辿ると魚に至る。海で生まれた生命の長い進化の過程で鍛え抜かれた極めて精巧な自然のテクノロジー、“生物生産”としてたゆみなく生み出される魚介藻類は、安全で栄養豊かな食料である。それは人々の健康を増進し、心の豊かさの源でもある。海洋国日本の持続性の基盤となる魚食文化と海への畏敬の念の再建、その今日的意義を日本のみならず世界に広める上で、本書が果たす役割は計り知れない。



嘉田由紀子氏(滋賀県知事)

“買い負け”。お金に任せて世界中から食料を買い占める道は21世紀には通用しない。石油依存の20世紀型文明の行く末は見えている。アユ1匹工場では生産できない。究極のエネルギー源は太陽光を核とした自然の力しかない。幸い日本は、魚介藻類の生き物に満ちた海に取り囲まれている。本書は、海の力の精巧な仕組みを解き明かしながら、未来を拓く食料自給の実践が語り尽くされている。行政政策上もおおいに参考にさせてほしい。



さかなクン(東京海洋大学客員准教授、お魚らいふ・コーディネーター)

さかなクンの“お魚の師”(水産学の師)中村良成様から、すばらしい贈り物が届き早速、拝読させていただきました。うぉ(魚)〜! ギョギョッ!! なるほど!!! 近年、問題となっているクロマグロ、クジラ、漁業、環境、そして食! “水産”の知っているようで、知らなかった事の多さに驚愕。さらに日本の伝統的な水産文化のすばらしさ! ウナギの明るい未来に向けての御研究、海藻のパワーなどワクワクがいっぱい! 先生方の偉大な御研究の集大成の感動が大漁です。

著者プロフィール

田中 克(タナカ マサル)

京都大学名誉教授,農学博士,マレーシアサバ大学持続農学部客員教授,財団法人国際高等研究所フェロー.

海産稚魚の生理生態学的研究から,2003年に新たな統合学問「森里海連環学」を提唱.著書に『森里海連環学への道』(旬報社,2008),『稚魚 生残と変態の生理生態学』(共編 京都大学学術出版会,2009)など.

川合 真一郎(カワイ シンイチロウ)

神戸女学院大学名誉教授,農学博士,現在,甲子園大学栄養学部教授,生態毒性学に関する研究に従事.

著書に『明日の環境と人間─地球をまもる科学の知恵(第3版)』(共著 化学同人,2004),『環境ホルモンと水生生物』(成山堂,2004)など.

谷口 順彦(タニグチ ノブヒコ)

福山大学生命工学部教授,東北大学名誉教授,高知大学名誉教授,農学博士.

著書に『アユ学─アユの遺伝的多様性の利用と保全』(築地書館,2009),『水産資源の増殖と保全』(分担執筆 成山堂書店,2008)など.

坂田 泰造(サカタ タイゾウ)

鹿児島大学名誉教授,博士(農学).

著書に『赤潮と微生物』(分担執筆 恒星社厚生閣,2005)など.

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

口 絵

はじめに [田中 克・川合真一郎・谷口順彦・坂田泰造]



序 章 [田中 克]

1 わが国の食料自給に果たす水産業の役割

2 沿岸漁業再生の今日的意義

3 沿岸漁業再生を藻場の再生から考える

4 沿岸漁業再生は地球的諸課題の同時的解決に貢献する

5 海から拓く食料自給



第1章 漁業危機の克服から再生へ向けて

序 [谷口順彦]

第1節 日本と世界の漁業の現状と再生への道 [中前 明]

1 わが国水産業の変遷

2 水産業の抱える問題と施策の方向

3 今後の水産業の再生に向けて

4 むすび

第2節 混迷するまぐろ類資源管理からの脱却に向けて [魚住雄二]

1 まぐろ漁業の変遷と管理の現状

2 クロマグロ資源とその管理の現状

3 最後に

第3節 貴重なタンパク源としての鯨との共存 [諸貫秀樹・森下丈二]

1 鯨類の利用と捕鯨の現状

2 鯨類利用の歴史

3 鯨類資源の状況

4 漁業との競合

5 商業捕鯨モラトリアムの歴史およびIWCの機能不全状態

6 IWCの正常化プロセスとその将来展望

7 食料自給とクジラ



コラム1 ノルウェーの水産事情諸々 [上坂裕子]

コラム2 韓国水産業の現状と将来性 [郭 又]

コラム3 クロマグロ人工種苗の大量生産技術開発:クロマグロ資源を守るために [田中庸介]

コラム4 イカ類資源の開発と可能性 [宮原一隆]



第2章 食料問題の解決に貢献する増養殖漁業

序 [谷口順彦]

第1節 増養殖漁業の現状と展開 [青海忠久]

1 世界の食料供給

2 日本の食料供給

3 養殖業の現状

4 今後の水産養殖業を規定する要因

5 未来を見据えた水産養殖の展望

第2節 栽培漁業の新たな展開 [輿石裕一]

1 栽培漁業とは

2 高まる栽培漁業への期待

3 現状と課題

4 事例に見る種苗放流の成果と問題点

5 栽培漁業の新たな展開

第3節 人工種苗生産が天然ウナギの絶滅を救う [田中秀樹]

1 ウナギの生活史

2 ウナギ資源減少の要因と絶滅の危機

3 人工孵化研究の歴史

4 催熟・採卵・仔魚飼育技術の現状

5 人工種苗生産は天然ウナギの絶滅を救えるのか?

第4節 遺伝的多様性保全に配慮した水産育種のあり方 [谷口順彦]

1 生物多様性条約と野生の保全

2 水族遺伝・育種の世界の動向に学ぶ

3 栽培漁業において配慮すべき遺伝的多様性保全の問題

4 種苗放流において必要な遺伝学的基本情報

5 野生集団の遺伝的多様性評価事例

6 集団構造から遺伝的管理単位の解明

第5節 内湾における環境調和型増養殖への提案 [谷口道子]

1 内湾の環境と高い基礎生産力

2 内湾における漁場浄化の試み

3 一石二鳥の生物浄化

4 水産漁獲物による窒素回収

5 美しく魅力ある内湾,次世代へ豊かな環境と漁場を



コラム5 希少種ホシガレイの栽培漁業と展望 [和田敏裕]

コラム6 餌があればいいじゃん:東京湾で逞しく育つ放流ヒラメ [中村良成]

コラム7 東京湾の放流ヒラメが教えてくれたこと [中村良成]



特別寄稿1 水産行政から見た栽培漁業の評価と今後の課題 [成子隆英]

 栽培漁業の歴史

 栽培漁業の効果

 栽培漁業の問題点や課題

 栽培漁業の将来



第3章 漁業生産の基礎となる低次生産と海洋環境

序 [坂田泰造]

第1節 沿岸漁業再生のカギを握る基礎生産 [吉川 毅]

1 はじめに

2 海洋環境の特徴

3 海洋環境におけるプランクトンの役割

4 地球規模での基礎生産

5 沿岸海域での基礎生産

6 おわりに

第2節 仔稚魚を育む“海の米粒”カイアシ類 [上田拓史]

1 仔稚魚の主食はカイアシ類

2 Hjortの田ritical period秤シ説とカイアシ類

3 仔魚の減耗とカイアシ類の減耗

4 カイアシ類の体サイズ

5 カイアシ類の対捕食者戦略

第3節 対馬暖流と生物の輸送・分布 [加藤 修]

1 はじめに

2 対馬暖流の成り立ちおよび流路

3 生物の輸送・分布に果たす対馬暖流の役割

4 おわりに

第4節 海の中の森の再生 [吉田吾郎・八谷光介]

1 瀬戸内海における藻場の消失と再生

2 磯焼け研究の現状と課題:九州西岸域を中心に



コラム8 春を告げる魚〜サワラ(鰆) [小路 淳]

コラム9 県のさかな「イセエビ」の研究に奮闘 [松田浩一]



第4章 海や湖を取り巻く環境問題の深刻化と再生への道

序 [坂田泰造]

第1節 有害藻類ブルームの発生メカニズムと解決への道 [山口峰生・長崎慶三]

1 有害藻類ブルームの現状と発生メカニズム

2 HAB対策の現状と課題

3 まとめ

第2節 干潟の水質浄化機能とその再生 [鈴木輝明]

1 干潟域の浄化機能とは

2 水質浄化機能の評価手法と測定例

3 底生生態系の構造変化に伴う水質浄化機能の変化

4 赤潮発生時の干潟域の浄化機能

5 水質浄化機能の大きさ比較

6 干潟域の喪失は内湾をどう変えたか?

7 内湾環境修復の方針と課題

8 今後の課題

第3節 外来魚問題と内水面漁業 [細谷和海]

1 はじめに

2 淡水魚を取り巻く環境

3 外来魚とは

4 外来魚が与える影響

5 ブラックバスによる影響

6 生物多様性保全と内水面漁業

7 内水面漁場から親水空間へ

第4節 現代の公害問題:京都府舞鶴湾の一部地域における鉛汚染 [山本義和・江口さやか]

1 まえがき

2 調査の概要

3 まとめ



コラム10 キューバに移入された外来魚ナマズ [山岡耕作]

コラム11 水産におけるネガティブインパクト(1)地球環境問題 [坂田泰造]

コラム12 水産におけるネガティブインパクト(2)水産増養殖と魚病 [坂田泰造]



第5章 海の生き物たちの知られざる秘密を探る

序 [川合真一郎]

第1節 新しい魅力的な科学への挑戦:バイオロギング研究が拓く新たな水棲生物の世界   [宮崎信之]

1 はじめに

2 研究の背景

3 機器の開発

4 研究のトピックス

5 今後の課題

6 おわりに

第2節 ヒラメ・カレイ類誕生の謎に迫る [鈴木 徹]

1 はじめに

2 ヒラメ・カレイ類の誕生

3 左右非対称性の個体発生

4 左右非対称性を作り出すNodal経路

5 Nodal経路による眼位のコントロール

第3節 魚類の多様性を探る:分子系統学からの挑戦 [西田 睦]

1 はじめに

2 進化的探究の基礎=系統枠

3 系統関係はどのようにして知ることができるか

4 魚類多様性の進化的由来を探る

5 今後の研究の展望

6 まとめにかえて



コラム13 クロマグロの渡洋回遊 [北川貴士]

コラム14 海に入ったカメ [松沢慶将]

コラム15 魚の目から観たクラゲ [益田玲爾]



第6章 日本の食文化の復活と食の安全性の保障

序 [川合真一郎]

第1節 水産発酵食品にみる先人の知恵とその継承 [藤井建夫]

1 貯蔵から生まれた水産発酵食品

2 発酵と腐敗は同じ現象

3 くさや

4 塩辛

5 魚醤油

6 ふなずし

7 魚の糠漬け

8 失われつつある伝統食品

第2節 日本発 海藻発酵産業の創出 [内田基晴]

1 海の新しい発酵分野を拓く

2 海には未開拓の発酵パワーが眠っている

3 海で発酵が盛んにならなかった理由

4 初めの一歩,世界初の海藻の発酵技術

5 海藻の細胞化に着目してエサとして利用する試み

6 海藻発酵素材を食品として利用する試み

7 海藻を発酵させる技術を拓く

第3節 水産物の自給を阻害する社会経済的諸要因 [鷲尾圭司]

1 はじめに

2 筆者の経験と視点

3 水産物の自給率低下について

4 流通面から見た自給の阻害要因

5 安定供給が生む廃棄食材

6 食生活面での意識変化

7 安全と安心の違い

8 「地産地消」の落とし穴

9 町中の魚屋さんが減った

10 まとめ

第4節 水産エコラベル:その役割と影響 [田村典江]

1 水産エコラベルとは何か

2 水産エコラベルの誕生から拡大

3 養殖漁業における展開

4 今後の日本の水産学・水産業と水産エコラベル



コラム16 イカナゴが地球温暖化を警告する? [日下部敬之]

コラム17 水族館で南極の生き物を飼う [松田 乾]



第7章 再生のカギを握る新たな統合学問の展開

序 [田中 克]

第1節 黒潮流域圏総合科学の展開 [深見公雄]

1 はじめに

2 黒潮流域圏総合科学とは何か

3 黒潮圏海洋科学研究科の立ち上げと黒潮流域圏総合科学の実施体制

4 黒潮流域圏総合科学の具体的研究内容

5 「“黒潮の恵み”を科学する」ことの意義

6 学際的研究の必要性

7 最後に

第2節 沿岸漁業再生と森里海連環学 [田中 克]

1 はじめに

2 わが国の食料自給の今日的意味

3 海から拓く食料自給への道

4 琵琶湖に見る漁業の衰退と再生への道

5 有明海に見る漁業の衰退と再生への道

6 森里海連環の再生に基づく沿岸漁業の振興

7 沿岸漁業再生への道

8 食料問題と環境問題の同時的解決

9 21世紀型の統合学問:森里海連環学の展開

10おわりに

第3節 カキ養殖漁師が切望する森から海までの一体科学 [畠山重篤]

1 はじめに

2 長良川河口堰建設反対運動の教訓

3 縦割行政と縦割学問

4 山に翻った大漁旗

5 鉄の科学が水産を救う



コラム18 うざねはかせ [畠山重篤]

コラム19 伊豆の海に潜り続けて [御宿昭彦]



特別寄稿2 有明海の再生に挑む [浜辺誠司]

 100分の1のアサリ

 汽水域は魚のゆりかご

 水の会結成

 活動森編

 活動海編

 人が動けば環境は変わる



終 章 [川合真一郎]



あとがき [遠藤金次]

参照文献・参照ウェブサイト

用語解説

索 引

編者紹介・執筆者紹介


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