製作の現場から


23 和文書体のベースライン



■ 中学生の頃は、英語なんて僕の人生には関係がないと思っていた。したがって勉強しなかったし、結果として成績は最悪だった。この歳になって、関係ないこともなさそうだと気づいたものの、もはや手遅れである。
■ それはともかく、英語を習い始めた頃の書取練習帳を皆さんは覚えているだろうか。青い線で構成された一行分のスペースに、一本だけ赤い線が混じっている。あの赤い線をベースラインといい、欧文フォントはこれを規準に配列することを前提として設計されている。
■ もちろん、日本語には無関係な線だ。ところが、DTPで使用されるデジタルフォントには日本語であってもベースラインが存在する。PostScript(Adobe社のページ記述言語)を日本語に適用する際に採り入れられたのだという。しかも、フォントによって、この線の位置は微妙に異なっているらしい。
■ 僕が広告やチラシ等の製作に日常的に使っているAdobe社の組版ソフトPageMakerも、行送りの規準は「標準・文字上端・ベースライン」となっている。これが実は諸悪の根元なのだ。
■ 「ベースライン」を日本語に適用するのは問題外だし、「標準」では行間の一部が文字の右側に出っ張ってしまうから計算上の版面にテキストブロックを合わせるのが困難になる。「文字上端」なら良さそうだがそうはいかない。たとえば20級の文字なら、5ミリ幅の中央に配置される理屈だが、フォントによっては、右に寄りすぎたり左に寄ったりしてしまう。
■ これは、PageMakerがフォントに「ボディ」の概念を持たせていないためだ。ボディというのは、文字の字面(タイプフェイス)ではなく、活字でいえば文字が鋳込まれた鉛自体の縦横の大きさである。同じ級数であっても、フォントが異なればタイプフェイスの大きさはさまざまだが、ボディの大きさが変わることはない。
Adobe社が2月に発売した組版ソフトInDesignは、行送りの規準に「仮想ボディ」を採用している。活字と違ってデジタルフォントは物理的なボディを持っているわけではないから「仮想」となる。これによって、異なる級数、異なる書体の中心揃えなどがスムーズにできるようになり、計算上の版面への正確な配置が可能となった。
Adobe InDesign

■ 行送りの規準だけではなく、InDesignではPageMakerの欠点の多くが解消されている。たとえば、PageMakerの禁則処理は「標準・弱い禁則・使用しない」の3つだけだが、InDesignではユーザーが禁則対象文字を自由に選択できる。禁則に限らず、句読点「ぶら下がり」の採否を選べるし、約物の前後のアキなども個別・詳細に設定できる。
■ もちろんQuarkXPressをはじめ、組版ソフトは他にもある。とりわけ日本語組版にはすでに定評のあるEDICOLORとは徹底的な比較が必要だろう。しかし、InDesignのコストパフォーマンスは高く、同じレベルだとすれば、また、グラフィック系の定番ソフトであるPhotoshopやIllustratorとの連携を考えれば、一気に業界標準の地位を獲得する可能性もありそうだ。
■ ただし、いささか重いのがつらい。僕としてはグラフィック機能を削ってでも、書籍組版に特化した軽快なバージョンの登場を期待したい。
(日本原人)



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